小名木川をクルーズするため、千代田区が所有する「さくら」に乗り込む。外観もおしゃれでかっこいいが、電力で動く最新鋭の米国製エコボートだ。排ガスゼロ、エンジン音もしない。操舵は浜本船長、ガイドは古館さん。2人とも、今回のイベントに協力しているNPO法人「あそんで学ぶ環境と科学倶楽部」のメンバー。同倶楽部では東京の水辺のエコツアーなど、普段からさまざまなイベントを主催している。

見事な舵取りを見せる浜本船長(左)と、軽妙なおしゃべりでガイドする古館さん

さくらは、小名木川の川面を音もなく滑り出した。フルスピードでも5ノット、小走りする程度の早さで、荒川寄りの番所橋から高橋船着場を目指す。

出発地の番所橋(ばんしょばし)は、その名の通りかつてここに船番所があって、江戸に出入りする船を取り締まっていた。いわば川の関所だ。近くには当時の歴史を学べる「中川船番所資料館」が建っている。また、すぐそばの荒川に建つ巨大な荒川ロックゲートも見逃せない。最大3.1mもの水位差がある荒川と旧中川の船の往来を可能にしたのは、このロックゲートのおかげ。災害時には、寸断された道路や鉄道に代わり水路の活躍が期待されるだけに、防災上からも重要な施設だ。

塩の道「小名木川」で船ならではのコミュニケーションを楽しむ

船が動き出すと、古館さんのガイドが始まった。旧中川と隅田川をまっすぐ東西に結ぶ小名木川は、徳川家康が造らせた運河とのこと。幕府の天領だった千葉・行徳の塩や、近郊の農家で作られる野菜や東北からの米を江戸に運ぶ一方、江戸から地方への物資が出て行く大動脈として賑わった。今も当時を彷彿とさせる風景が広がっている。

また、小名木川は別名「塩の道」と呼ばれた。天領である行徳の塩田で作られた塩が、ここを通って江戸に運ばれた名残りだという。両岸では、護岸工事が進行中。水辺に遊歩道が設けられ、緑が植栽されている。所々には、江戸情緒を感じさせる石灯籠も立つ。完成したら、心地よい水辺の散歩が楽しめるだろう。

小名木川沿岸では、江戸情緒を漂わせる護岸工事が進んでいる

カットされた防潮堤防。昔はコンクリートの一番上まで水が来た

明治以降、この両岸にはさまざまな工場が建ち並んだ。運河を利用して原料や製品を運ぶのに好都合だったからだ。今でも一度に350tもの原料を船で運ぶ製粉工場がある。ただ、たくさんの工場が大量の水を汲み上げたため地盤沈下が進み、「ゼロメートル地帯」などと呼ばれるようになった。最大で4mもの沈下。橋の手前で道路が一気に上り坂になり、橋を渡ると下るのは、このためだ。

まもなく前方に、大きな十字型の橋「小名木川クローバー橋」が見えてきた。4つの地区を結び、かつ南北に交わる横十間川との交差点。江戸城の横を流れ、幅が十間(約18m)あるところからこの名がついたという。橋の上から、通りがかりの地元の方が手を振ってくれる。船でいくと、なぜか自然に手を振り合う。そんな川ならではのコミュニケーションがまた楽しい。

水上で4地区を結ぶ小名木川クローバー橋。橋上に四葉のクローバーが描かれている

さて、いよいよ扇橋閘門を通過する。