右手に歌川広重も描いた月の名所「小名木川五本松」を眺めながら進むと小名木川クルーズ最大のビッグイベント、扇橋閘門(おうぎばしこうもん)の通過が待っている。閘門とは、2つの水門を開閉して水位差を調整し、船を通す仕組みで、パナマ運河が有名だ。なお、荒川ロックゲートの「ロックゲート」は英語で閘門のこと。行く手の隅田川側と2m以上の水位差があるため、ここで調整するのだ。
行く手を遮るように赤いゲートが近づいてきた。手前の扉が開いて中に進むと、やがて水中からゴボゴボと水泡が噴き出してくる。隅田川側の水を流しこんでいるのだという。ふと壁の水位計に目をやると、いつの間にか目盛がどんどん沈んでいる。この日の水位差は2m10cm。ちょうどエレベーターのように船ごと上がっていく。水位が隅田川と同じになったところで、前方の扉が開いた。これで2m10cmも高い水面へ難なく進むことができたわけだ。この大掛かりな設備は、通行する船舶のために無料で提供されている。
扇橋閘門を過ぎて間もなく交差する大横川は、両岸にサクラが植えられて、ちょうど見頃を迎えていた。これも又江戸時代の埋立地に作られた運河。しばし、水上から花見を楽しむ。水面に低く垂れ下がった満開のサクラが見事である。余談だが、この川の北、都営地下鉄新宿線・菊川駅のすぐそばに『鬼平犯科帳』で知られる長谷川平蔵の住居跡がある。他にも、芭蕉庵跡、間宮林蔵の墓、ジョン万次郎邸宅跡、滝沢馬琴誕生の地など、江戸を身近に感じるスポットが点在している。さすが深川だ。
ほどなく「さくら」は、高橋船着場に到着した。次ページでは、大型のオリエンタル号に乗り換えて隅田川、そして桜の名所を巡る。