イギリスのジャーナリストであり作家のルーシー・ホーキングさんがこのほど、「車椅子の天才物理学者」として知られる父親のスティーブン・ホーキング博士との共著『宇宙への秘密の鍵』(原題『George's Secret Key to the Universe』・岩崎書店刊)の、日本での刊行をPRするために来日した。そこで、今回は話題の書の執筆にまつわるエピソードや、父親であるホーキング博士の近況について伺った。
春のような陽気にめぐまれた3月の昼下り、ルーシー・ホーキングさんが滞在する都内のホテルでインタビューは行なわれた。約束の場所に現れたルーシーさんは、明るくキビキビとした魅力的な女性。大きな青い瞳が、見るからに聡明さを感じさせる。開口一番「よろしくお願いします」と流暢な日本語で挨拶された。まずは、著書についてのお話から始まった。
──ルーシーさんとあのホーキング博士が子どものために書いた初のスペース・アドベンチャーと伺いましたが、ご自分の息子さんのために書こうと思いつかれたそうですね?
そうなんです。9歳の息子に父の研究について説明する本を書こうと思いつきました。同時に、父のところへやってきた子どもたちから出る質問についての本も書きたかったのです。なぜって、子どもたちはブラックホールがどうなっているのか、星はどうなっているのか、太陽系はどうなっているのか、何でも知りたがります。それに対する父の答えは、とっても楽しく、面白く、魅力的でエキサイティング。それを見ていて、『宇宙への秘密の鍵』のアイディアがひらめきました。
──そのアイディアを聞いたホーキング博士は?
『宇宙への秘密の鍵』というタイトルも決めていて、ジョージという少年が科学者と一緒に宇宙を冒険する話を一緒に書きましょうと言ったら、父はビックリしました。「私に子ども向けの話なんか書けると思うかい? 」って。そこで私は言ったんです。いつも子どもたちがやって来て色々な質問をするけど、とてもうまく答えているわ、と。父は自分ではそのことに気づいていなかったみたいです。
──失礼な言い方かもしれませんけどホーキング博士ご自身、子どもみたいな方なのに?
そうなんです。父自身も、自分にはまるで子どものように宇宙を不思議がる感覚があると言っています。これは父だけでなく、科学者とくに物理学者は常に驚きを忘れません。子どもたちも同じで、いつも「なぜ空は青いの? 」、「なぜ地面は茶色なの? 」と疑問を投げかけます。ふつうの大人なら、そんなことは当たり前で分かりきっていると考えてしまうことでも、子どもや科学者は鵜呑みにして信じることはしません。この本に登場するエリックは、いつも不思議がってばかりいて、父にそっくりです。
──実際には、お二人でどんな風に執筆作業を進めたのですか?
ジョージという少年が主人公で、お隣りに偉大な科学者が住んでいて、そこには宇宙にも出て行けるすごいコンピューターがあって、最後には誰かがブラックホールに落ちて、それを誰かが救い出す……、こうしたストーリーは私が考えていました。それについて、どういう科学的な話をどんな風に入れるかを父が考えました。スペース・アドベンチャーに科学的な整合性を持たせたのです。私の書いたものを読んで、様々な提案やアイディアをくれたり、こんなことは科学的にありえないよと助言もくれました。囲み記事とブラックホールに関する部分は、父が書いたものです。こんな風に、お互いに深く関わりながら書き上げていったのです。