――インターネット・ホットラインセンターや警察は、これらの通報に対応できているのでしょうか?

あまりにも膨大な件数なので、遅れる場合は通報されてから数週間後に、警察庁への通報やプロバイダらへの削除依頼を行っているというのが現状です。人手に余裕があれば、もっと1件1件を精査することもできるかと思います。日々作業に追われているというのが現状ですので、法律の手前で適切な対応ができるようなガイドラインを作ってもらいたいという気持ちもあります。

インターネット・ホットラインセンターの通報受付ページ

警察庁も、同庁が案件を直接捜査するわけではなく、各都道府県警に振り分けるのですが、各道府県警のサイバー犯罪対策の体制には差があるのが実情です。警視庁などは100人規模のハイテク犯罪対策総合センターを設け、ハッキングなどに対しても対応できる技術的に明るい人材を積極的に採用していますが、ハイテク犯罪に2~3人しか人材をさけない道府県警もあります。

また、警察の捜査はじっくり時間をかけてやることが多いという特徴もあります。以上の事情から、実際の検挙となると、「一罰百戒」という要素が強くなります。今年5月に神奈川県警がわいせつ画像を掲載したとして「画像ちゃんねる」の運営会社の社長やアルバイトらが逮捕された事件では、その後同種の掲示板の閉鎖が相次ぎました。これは、警察が「一罰百戒」の効果を狙ったものと考えられ、それなりの効果があったものと考えられます。

――警察とインターネット・ホットラインセンターなどとの連携状況はどのようになっているのでしょうか?

警察庁では平成20年度へ向け、ネット上の違法・有害情報を巡回して監視する「サイバーパトロール」強化のための予算要求をしており、同パトロールの一部を民間に委託する計画です。これに伴い、同パトロールで見つけられた違法・有害情報は全て当センターに通報されます。これまでは、通報しづらい案件や、当センターによる会員制サイトの会員限定ページの閲覧が約款に違反する場合などは当センターが対応することが難しかったため、今後の連携が期待されます。

現実社会で表面化しないと取り締まれないという矛盾

――違法・有害情報の取り締まりに関して、現在の法律に問題点はあるのでしょうか?

例えば児童ポルノに関しては国際条約がありますが(※注)、単純所持を禁じる条文に関しては日本は留保しています。作って販売する場合は日本でもひっかかりますが、児童ポルノのDVDをネット上で販売するとなると、いくらでも複製できるわけですから、もぐらたたきというような状態になります。彼らは、著作権など最初から気にしていないのですから、コストはほとんどかからず、買いたい人がいる限り商売が成り立ちます。

※2001年にフランスのストラスブールで採択された「サイバー犯罪に関する条約」を指す。日本では、2004年4月に国会で承認され、同年7月に発効した。コンピュータを通じて児童ポルノを取得することを禁じる9条1項dおよび児童ポルノをコンピュータ内に保存することを禁じる9条1項eに関して、日本は留保している。

そのため、単純所持を禁じるようにすることで、一罰百戒を狙って取り締まりを行うほかないのではないでしょうか。ただ、表現の自由を主張する声もあり、こうしたことが実現できませんでした。そういう意味では、日本は児童ポルノに対して甘いといえると思います。

また、最近事件になっているような自殺サイト、闇サイトなどに関しては、事件化されてようやく法が出てくるわけで、ネット上での行為だけでは取り締まりようがないのが現実です。闇サイトで知り合った3人が名古屋で起こした殺人事件にしても、ネット上の話というより、むしろ現実世界の話で、現在の法律ではネット上でただ3人が知り合ったというにすぎません。

こうした状況を変えるためには、違法・有害サイトを取り締まることができるガイドラインのようなものが必要だと思います。