――かつては、「困ったときの羽佐間」という異名を、お取りになってらしたとか……。
「そう、その『困ったときの羽佐間』っていうのが有名になってね、『お金貸してくれ』っていう人が、ずいぶんと来たんですよ(笑)。勘違いして『"困ったときの羽佐間"って書いてありますが』なんて(笑)。まあ、役の上で『困っちゃったなー』っていうときに、確かにキャスティングされてるんで、私のやった役者さんは非常にバラエティが豊富ですね。230人ぐらいの役者さんを吹き替えてますから。だから、『これが羽佐間だ』っていうのがないんですよね。例えば若山弦蔵なら、ショーン・コネリーとかあるじゃないですか」

――それだけ大勢の役者さんを演じ分けられたのですか。

「自分では変えているつもりなんですよ(笑)。どういう変え方するかっていうと、テンポがまず違う。向こうの役者さん自体がテンポを持っていますからね」

――そのようなお仕事をご自身では、どのように捉えておいでなのでしょうか。

「言ってしまえば、我々の仕事は"塗り絵師"。1つの画があって、そこに色をつけていく。塗っていって立体化するっていう役目だと思ってるわけですね。だから 自分のパレットに沢山の色を持ってなきゃいけない。豊富な人生経験……いろんな絵画を見たり、音楽を聴いたり 人を観察したり、だんだんパレットの色を増やしていく。自分の中に取り込んでいって、それを引き出しから出していく、っていう作業ですね」

――その"塗り絵師"の部分をライブでおやりになるのが、「声優口演」というわけなんですね。具体的な内容を教えていただけますか。

「これは東京国際映画祭が20周年で、外国映画を吹き替えてから約50周年、山下さんも確かレコーディングしてから40年。いろんなことのアニバーサリーが重なって、『じゃ、何やるかな』と考えたのが、『どうせなら、この東京国際映画祭にバックアップしてもらって、小さな劇場じゃなくて、Bunkamura オーチャードホールという大きな劇場でやってみたらどういうことになるか』というね」

――このオーチャードホールというのは、何人くらい入る劇場なんですか?

「2,000人ぐらいですね」

――その大きな劇場を使って、どのようなことをなさるのでしょう。

「山下洋輔氏がピアノを弾いて、最初ミニコンサートがありまして。この山下さんて人は、映画音楽をたくさん作ってらっしゃって、『カンゾー先生』とかいろんな映画の音楽をやってらっしゃる。ですから映画音楽をテーマにして、何曲か弾いていただいて。戸田恵子は、『スター・ダスト』『ラヴァー・カムバック・トゥー・ミー』を歌う予定。山寺宏一は、テレビのものまね番組でサッチモ、つまりルイ・アームストロングの真似をしてチャンピオンになりました。それをここで再現してみます。まず、そういうコンサートがあって、それから戸田恵子と僕がバスター・キートンの映画『探偵学入門』の登場してくる人物を2人で全部演じちゃうと。で、もう1本のチャールズ・チャップリンの映画『犬の生活』を、山寺宏一が1人で犬の役まで含めて全部吹き替えてみます。『ひょっとすると、このあたりからみんながブレークして、あっちこっちでやり始めるんじゃないかな』と思っているんですけどね。これがオーチャードホールで10月21日の18時から。先月の25日から切符を売り出したんですが、まだ購入間に合いそうです。よろしく宣伝してください!」