『リング』シリーズなどのホラー映画を手掛けてきた、日本が世界に誇るJホラー映画の立役者・中田秀夫監督による『怪談』(8月4日(土)公開)の、完成披露試写会が6月8日、恵比寿ガーデンホールで開催された。

本作は、三遊亭円朝の傑作落語『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』を題材にしたホラー映画。愛するが故の嫉妬が招いたドロドロの悲劇を、江戸時代を舞台に描く。ホラーの怖さはもちろん、ひとりの美青年を5人の美女がそれぞれ違う形で深く愛する"情愛"をテーマにした作品で、すでに世界50カ国での公開も決まっている。完成披露記者会見&舞台挨拶には、主演の黒木瞳を始め、井上真央、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香といった名だたる演技派女優たち、そして歌舞伎俳優で主演の尾上菊之助、中田秀夫監督まで全員豪華な着物姿で登場し、挨拶を行った。

主演の尾上菊之助を、5人の美人女優が色とりどりの豪華和服姿を纏い、艶やかに囲む姿が圧巻

まず、5年ぶりに日本映画を撮り上げた中田秀夫監督は「『怪談』というタイトルがお客様の期待を裏切ることなく、怖い場面は怖く仕上げてあります。ただ、今までの『リング』シリーズのように、得体の知れないものが怖いのではなくて、得体が知れているから怖いという、人間の情念がゾゾゾっとくる作品を撮りたかった。深く愛しているからこそ、怖いということです」と作品に対する思い入れを饒舌に語る。

 

一方、本作が映画初主演となる尾上菊之助は「怪談といえばホラー映画、というイメージがあると思うんですが、日本の怪談は無差別な狂気ではなく、人と人との情愛を描いたものなんですね。怖いシーンより、僕と女性の二人で納まっているシーンに、監督がすごく時間をかけられたので、怖い映画というより純愛映画と僕は受け取っています」と単なるホラー映画ではないことを強調。中田監督もそれを受けて「世界各国での上演が決まっていますが、普遍的な愛の話なら受け入れてもらえるでしょう。狂おしく、でも非常にピュアな趣向の恋愛を描いていると思うので、どっぷりと、深い恋愛感情に浸りたい方は劇場に足を運んでください」と、作品への自信を見せた。

尾上菊之助のもつ美しさに惚れたという中田秀夫監督と、脚本を読んで主演への意欲が湧いたという尾上。「相思相愛の二人です(笑)。撮影中の菊之助さんの流し目の色気にはゾゾゾっときました」と、中田監督

今回が映画初主演となる、若手歌舞伎俳優の尾上菊之助。作品内ではモテモテだが「私生活にはないことなので、幸せでした」と笑顔を見せた

約5年前から「時代劇で怪談を撮れれば」と、本作の構想を練っていたという中田秀夫監督。「手塩にかけた作品なので、今日この日を迎えられて感無量」と語る

尾上菊之助を取り巻く5人の女優も、目を見張るほど艶やかな着物姿で本作や自身が演じた役どころの印象を語った。

とにかく豪華で美しい女優陣。左から瀬戸朝香、井上真央、黒木瞳、麻生久美子、木村多江

作品で主演の尾上菊之助を愛し抜いた豊志賀役の黒木瞳は、「物語は古典ですが、現代にも通じる愛のドラマですので、ホラーが苦手な方でもぜひ愛のホラーを……私は略して『ラブホ』と呼んでいるんですが(笑)」と茶目っ気あふれる"黒木調"で会場をドッと盛り上げた。新吉(尾上)をひたむきに慕うお久を演じた井上真央は「私は嫉妬するほどの恋愛をしたことがないし、愛するが故に憎いという感情もまだピンと来ないんですが、すごく考えさせられました」と、20歳という若さを感じさせるコメントを。耐え忍ぶ愛で新吉を支えたお累役の麻生久美子は「すごくスタイリッシュでカッコいい作品に仕上がってましたね! わたしが演じたお累? うーん、あれほど辛い思いをしてずっと新吉さんを愛していくのはすごい」と絶賛。また、新吉と豊志賀を見守るお園役の木村多江は「献身的で母性愛に満ちた女性を演じさせていただいて、愛を学ぶ修行の身としては、勉強になりましたね」としみじみ。そして、悪女役を演じた瀬戸朝香は「監督が、とにかく色っぽく、悪女っぽく、と常におっしゃっていたので、それを意識しながら演じていました。作品全体としては、愛についていろいろ考えさせられました…」と、女優陣はみなそれぞれ、自分の演じた役について、感慨深げに語った。

黒い着物に身を包み、大女優の貫録と大人の色気を醸し出す黒木瞳。「私は豊志賀ほどには嫉妬深くないですが、気持ちはわかります」

女優陣の中で最年少の井上真央は、元気いっぱいの明るい色の着物で登場。今回の役で一番辛かったのは、「逆さ吊りでした。特に昼食後は」と苦笑い

人気沸騰中の麻生久美子は、鮮やかなブルー色の着物にモダンな髪型がスタイリッシュ。「私は嫉妬深いですね。できれば嫉妬しないで愛せたらいいと思いますが、なかなか……」

不幸な役が妙に多い木村多江。優しくか細い声で、「ホラーでもあるんですが、それぞれの人がそれぞれの愛を描いているので、観てくださる方がご自身を振り返っていただければ」とニッコリ

非常に淡い水色の着物を見事着こなし、圧巻だった瀬戸朝香。感慨深い面持ちで、「怖いだけでなく、愛についていろいろ考えさせられ……見終わった後には、いろんな思いが駆け巡る作品になったと思う」

また、自身が演じた新吉という男性について、尾上菊之助は「非常に刹那的というか快楽的というか、その場のセックスが楽しければいいという彼に対して、僕はすごく憤りを感じましたが、若さゆえに起こしてしまう過ちというのは、世の中の男性では誰もが共感できる部分では」と語ると、黒木瞳から「男は過ちを犯していいの?」と厳しいツッコミが。それに対し尾上が「『犯していい』ではなく、『犯す気持ちもわかる』です」と、やや狼狽するなど、会場全体が笑いとどよめきに包まれるシーンも見られ、試写会から最後の舞台挨拶までスリリングな空気で包まれた完成披露会となった。劇場でもスリリングな愛の形を目撃しよう。