銀河の周囲には、球状星団などから引きはがされた星々が細長く連なる星のせせらぎ、「恒星ストリーム」が存在する。その形状は、その星々が経験してきた銀河重力場の記録だ。だが、これまで見つかっているこのようなストリームは、個々の星を詳しく観測できる天の川銀河内に限られていた。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。

今回、Julie Kiel Holmらの研究チームがarXivで発表した論文「Evidence for the First Globular Cluster Stellar Stream beyond the Milky Way」において、約1億1500万光年遠方の非常に淡い銀河に、球状星団から延びる恒星ストリームらしい構造が見つかった。もしこれが本当に恒星ストリームなら、遠い銀河のダークマターを調べる新たな手がかりになるかも知れない。

淡い銀河に残された「星の川」

「恒星ストリーム」は、球状星団や矮小銀河が大きな銀河の周囲を回るうち、重力による潮汐力で星を少しずつ引きはがされてできた構造だ。潮汐力とは、大きな銀河が球状星団などの各部分に及ぼす重力の強さが、銀河中心に近い側と遠い側でわずかに異なるために生じる重力差である。

この差は天体を銀河中心と反対方向へ引き伸ばし、外縁の星を自己重力による束縛から逃がす。逃げた星々は前駆天体の軌道に沿って前後へ広がり、細長い流れを形作る。流れの形や幅は、それを作った天体の質量だけでなく、星々が運動する銀河の重力場にも左右される。

そのため恒星ストリームは、光を出さないダークマターの分布を探る手掛かりになるのである。とりわけ球状星団から生じるストリームは細く、ダークマターの小さな構造にも敏感だ。しかし、これまで確認された球状星団ストリームは天の川銀河内のものに限られていた。遠い銀河では個々の星を見分けられず、流れ全体も極めて淡いためである。

1億1500万光年先で見つかった細い弧

研究チームが調べたのは、地球から約35メガパーセク(約1億1500万光年)離れた超低表面輝度銀河「UGC9050-Dw1」。超低表面輝度銀河とは、恒星の総質量は矮小銀河ほどしかないのに、天の川銀河に近い広がりを持つ非常に淡い銀河だ。その暗さゆえ、恒星の速度や銀河の回転から質量分布を測るのは難しい。

研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラACSと、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)の画像を解析した。すると、銀河中心から投影距離約2.5キロパーセクの場所に、コンパクトな天体から延びる淡い弧状構造が見つかった。恒星ストリームとみられるこの構造に対し、チームは太平洋の寒流にちなみ「Oyashio(親潮)」と名付けた。

Oyashioは見かけ上は約2キロパーセクにわたり、ハッブル画像から求めた幅は72.3±8.9パーセクだった。これは天の川銀河にある球状星団ストリームの範囲内で、矮小銀河起源として知られるストリームより細い。弧とその端にある天体の色も誤差の範囲で一致した。さらに、ハッブルと別時期のCFHT画像の双方に写っているため、画像処理で生じた人工的な模様とも考えにくい。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第15回

    超低表面輝度銀河UGC9050-Dw1で見つかった恒星ストリーム候補 ”Oyashio”。ハッブル宇宙望遠鏡の二波長の画像を合成したもの。枠で囲んだ細い弧状構造がOyashio、矢印がその前駆天体とみられる球状星団候補を示す。黒い十字はUGC9050-Dw1の光度中心。挿入図は、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡の独立した観測データで同じ領域を拡大したもの(論文より)

流れの形から見えない質量を逆算

次に研究チームは「X-Stream」という生成モデルを用い、さまざまな球状星団の質量、軌道、ダークマターハローの質量分布からストリームを作り、観測された弧の形と比較した。

適合したモデルでは、ストリームを生んだ天体の初期質量は95%信頼水準で太陽の250万倍未満となり、球状星団起源と整合した。恒星集団の明るさを模擬した別の解析でも、若い集団なら太陽質量の16万5000倍、天の川銀河の球状星団「Palomar 5」に似た集団なら約200万倍で、観測された表面輝度を再現できた。

さらに、研究チームは、前駆天体の質量や軌道、ストリームが形成されてからの時間、ダークマターハローの質量と内側の密度分布を変えた多数のモデルを作り、Oyashioの幅や曲がり方と比較した。

その結果、UGC9050-Dw1は恒星の少なさに比べて比較的重いダークマターハローを持つ可能性が示された。ただし、ストリームは片側しか明瞭に見えていない。モデル解析によって前駆天体の視線方向の位置や軌道はある程度絞り込まれたものの、異なる軌道の解も残る。

また、前駆天体の初期質量は上限値としてしか定まらず、ストリームの形成時期にも大きな幅がある。このため、ハロー質量に許される範囲は広い。それでも本研究は、超低表面輝度銀河のハロー質量と内側の密度分布を、恒星ストリームの形から制約した初の例となる。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第15回

    Oyashioの形を再現した恒星ストリームのモデル。それぞれ異なる前駆天体質量を仮定したストリームのモデル計算例。黒点はOyashioの画像から与えた位置、濃淡のついた茶色の点は計算されたストリームの星を表し、色の濃さは視線方向の距離に対応する。赤い星印は前駆天体の現在位置、灰色の星印はUGC9050-Dw1の中心を示す(論文より)

「初の確定」には追加観測が必要

Oyashioが球状星団ストリームだと確定したわけではない点には注意が必要だ。ハッブル画像での背景に対する信号の目立ちやすさは7.34だったが、著者らが明記するように、この値は「構造が本当にストリームである確率」を表す統計的有意性ではない。

偶然重なった未分解の星々などを完全には排除できず、見えているのも2本あるはずの腕の片側だけだ。ハロー質量の推定も、星が球状星団から逃げ出す条件など、採用したモデルに依存する。

それでも、細い形、球状星団候補との位置関係と色の一致、模擬計算が揃って同じ解釈を支持する点は重要だ。より深いハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像、Oyashioと球状星団候補の星の性質を比較する分光観測が、その正体を確かめる次の一歩となる。

将来、ユークリッド宇宙望遠鏡やナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡が同様のストリームを多数見つければ、天の川銀河だけに頼らず、さまざまな銀河のダークマターを比較できる。Oyashioは確定例ではないが、遠い銀河に刻まれた細い「星の川」が、見えない物質を測る新たな物差しになりうることを示した。