太陽の約2倍もの質量を持ちながら、その半径はわずか約10キロメートル。そのような極端に高密度な中性子星の半径が、X線パルスの解析から推定された。

中性子星の内部では、物質は原子核内部を上回る密度まで圧縮されている。しかし、そこで物質がどのような状態になるのかは、現在も分かっていない。今回の測定は、地上の実験では再現しにくい超高密度物質の性質を探るための新たな手掛かりとなる。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。

核物質の謎を映す「質量と半径」

中性子星は、太陽よりはるかに重い大質量星が進化の終わりに重力崩壊を起こし、多くの場合は超新星爆発を経て残る、原子核を形作る物質が極限まで圧縮された天体である。その中心密度は原子核内部の密度の数倍に達すると考えられるが、その環境で物質が陽子や中性子のまま存在するのか、別の粒子が現れるのかは分かっていない。

中性子星内部の物質について、エネルギー密度が高まるにつれて圧力がどのように変わるかを表す関係を「状態方程式」という。圧力が重力をどれだけ支えられるかによって、同じ質量でも星の半径は変わる。このため、異なる質量の中性子星で半径を測れば、内部物質の候補を絞り込める。

今回、Lucien Mauviard氏らがarXivで発表した論文「A NICER view of PSR J1614-2230: a massive and compact millisecond pulsar」では、調査したPSR J1614-2230は1秒間に約317回転するミリ秒パルサーである。電波観測でとらえられる「シャピロ遅延」から質量が精密に測られており、太陽の約1.94倍と電波タイミングで確認されたミリ秒パルサーでは2番目に重い。

ここでシャピロ遅延とは、パルサーから出た電波パルスが伴星の近くを通る際、伴星の重力による時空のゆがみのために到着がわずかに遅れる一般相対論的効果である。遅れ方を測ることで、連星を構成する天体の質量を求められる。PSR J1614-2230は質量が既知であるため、X線観測から半径を絞り込むのに適した対象だ。

X線パルスに刻まれた光の曲がり

研究チームは、国際宇宙ステーションに搭載されたNASAのX線観測装置「NICER」が取得したデータを解析した。NICERは、ミリ秒単位で変化する中性子星のX線を、到着時刻とエネルギーの両方について測定可能だ。

中性子星の表面には、磁場に導かれた荷電粒子によって加熱された高温部がある。この「ホットスポット」が自転に伴って見え隠れすると、X線の明るさが周期的に変化する。

中性子星の重力は非常に強く、そのため表面から出た光の進路が曲がる。星が小さく、質量に対してコンパクトであるほど、通常なら裏側に隠れる領域からの光まで観測者に届くようになる。

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    NICERが観測したPSR J1614-2230のX線パルス。上段は自転位相に対するX線計数、下段はX線のエネルギーごとの変化を示す。中性子星表面のホットスポットが自転に伴って見える向きを変えるため、X線の明るさに幅広い周期変動が現れる。横軸は自転2周期分を表示している(論文より)

さらに高速自転によるドップラー効果や星の扁平化も、パルスの波形を変える。研究チームは、観測されたパルスをこうした相対論的効果を含むモデルと比べることで、中性子星の半径を推定した。

研究チームは、2017年7月から2023年5月までにNICERが取得したデータを選別し、約94万6000秒分の観測を解析した。これに、欧州宇宙機関のXMM-Newton X線天文衛星と、NASAのチャンドラX線観測衛星が測った平均的なX線スペクトルを組み合わせた。

太陽の1.94倍、赤道半径は約10キロメートル

解析では、中性子星表面を覆うごく薄い水素の層が、X線をどのようなエネルギー・方向分布で放射するかを計算した「水素大気モデル」を用いた。大気の組成によって放射の見え方が変わるため、研究チームはヘリウム大気などの可能性も試した。

ホットスポットの位置や大きさ、温度、星の質量と半径などを変えながら、観測データに合う組み合わせをベイズ推定した。その結果、一様な温度を持つ円形のホットスポットが2つあり、1つは極付近、もう1つは赤道付近にあるモデルが採用された。

このモデルでは、赤道半径が10.06キロメートル、68%信用区間がマイナス0.87キロメートルからプラス1.25キロメートルと推定された。質量は太陽質量の1.937倍で、68%信用区間はマイナス0.013倍からプラス0.012倍である。ただし、質量の精度は主として既存の電波観測に由来する。今回X線から新たに得られた中心的な成果は、半径の制約だ。

ホットスポットの形や表面大気について複数の仮定を試しても、半径はおおむね10キロメートル前後という、小さめの値を好む傾向が共通して得られた。同程度の質量を持つPSR J0740+6620の既存測定より小さい側に寄るものの、両者の不確実性の範囲は重なり、統計的に矛盾する結果ではない。

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    X線パルスの解析から得られたPSR J1614-2230(緑)の質量と赤道半径の範囲。他のミリ秒パルサーの測定結果も併せて示した。内側と外側の輪郭は、それぞれ68.3%、95.4%の信用領域である。J1614-2230は、既知の中でもとくに重い中性子星でありながら、半径は約10kmを中心とする比較的小さな値を示した(論文より)

小さめの半径が状態方程式に課す制約

今回の測定は、約2太陽質量という重い中性子星の半径を得た2例目に当たる。大質量側の半径は、中心部で密度が高まったときに圧力がどう増えるかを調べるうえで特に重要だ。ただし、半径約10キロメートルという1つの測定だけで、中性子星内部の粒子組成や相転移の有無を決められるわけではない。

また、PSR J1614-2230はX線で暗く、NICERデータの約95%は背景だった。パルスの検出有意度は約8.5シグマだが、信号対雑音比は過去にNICERで詳しく解析されたパルサーより低い。ホットスポットの配置には縮退が残り、2つ目のスポットがほとんど見えない解も排除できない。星の自転軸と連星軌道軸が一致するという仮定や、急速回転する星の形を近似する関係式にも不確実性がある。

より多くのX線を集めれば、ホットスポット形状の縮退を減らし、半径の幅を狭められる可能性がある。

直径約20キロメートルの星に太陽約2個分の質量が詰まった内部の手掛かりは、宇宙から届くかすかなX線の明滅の中にあったのだ。