美しい渦巻き模様を見せるアンドロメダ銀河。その星々の間では、希薄なガスが絶えず不規則に動いている。この「乱流」は星の誕生にも関わるが、放っておけば運動のエネルギーを失って弱まるはずだ。
では、何が銀河のガスをかき混ぜ続けているのか。Fanyi Mengらの研究チームは、銀河に残された巨大なガスの泡を手掛かりに、この問題を検証し、arXivに[論文「Supernova origin of galactic turbulence revealed by superbubbles」(査読後の改訂版は2026年9月17日にNature Astronomyに掲載)]を掲載した。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。
星の最期は銀河のガスを動かせるか
銀河内でガスはどのように運動しているのだろうか。銀河全体の回転に併せ、そこにはさまざまな方向への不規則な運動が重なっている。
こうした乱流は、ガスが重力で集まろうとする動きに対抗する一方、局所的にはガスを圧縮することもある。ガスが重力の作用で集まって星が生まれるのだとすると、どの場所で、どれほど効率よく星が生まれるかを考えるうえで、この乱流は無視できない存在だ。
この乱流を維持するエネルギー源の有力候補が、大質量星の最期に起こる超新星爆発である。星団では複数の星が相次いで爆発し、周囲のガスを押し広げる。
その結果、内部が希薄になり、周囲に殻状のガスが集まった「スーパーバブル」と呼ばれる泡構造ができる。この泡の膨張は周囲のガスを動かし、結果として不規則なガス運動を支えるエネルギー源になり得る。
ただし、爆発で放たれるエネルギーのすべてが乱流を支えるわけではなく、一部は放射として失われる。つまり超新星に十分なエネルギーがあったとしても、それが実際に周囲のガスの運動へどのくらい渡されるのかは、自明ではない。
FASTとJVLAで巨大な泡を調べる
研究チームは、中国の500メートル球面電波望遠鏡「FAST」による新たな観測と、米国の干渉電波望遠鏡群「JVLA」の既存データを組み合わせ、アンドロメダ銀河の中性水素ガスを調べた。
波長約21センチメートルの電波の強さやドップラー効果から、ガスの分布やその運動が読み取れる。FASTは広い範囲に淡く広がる放射を捉える一方、JVLAは細かな構造を見分けるのに適している。両者を組み合わせることで、ガスの広がりと泡の構造を同時に調べやすくなる、というわけだ。
研究チームが特定したスーパーバブルは118個。形が泡に見えるだけでなく、位置と速度の関係にも膨張を示す特徴があるものを選んだ。大きさと膨張速度から推定した時間尺度は長いもので約4000万年に達し、星団で超新星爆発が続く期間と整合する。
同研究における観測の強みは、ゆっくり膨張する古い泡まで捉えた点にある。なお、118個という数は超新星爆発の回数と同一ではない。モデルに基づく推定では、見つかった泡の大半に複数回の超新星爆発が関わったと考えられる。
泡が運ぶエネルギーと乱流の損失を比較
次に研究チームは、泡の大きさ、膨張速度、周囲のガス密度を使い、泡の膨張が担う運動エネルギーを見積もった。その値を泡の体積と推定した膨張時間で割り、単位体積・単位時間当たりのエネルギー供給率を求めた。
また、ガスの速度のばらつきなどから、乱流が単位体積・単位時間に失うエネルギーも見積もった。こちらは、熱運動や観測方向による見かけの速度の広がりを考慮する必要がある。同じ電波観測データを使うが、泡の膨張と乱流では異なる測定量を用いる。
比較すると、泡から見積もった供給率と乱流の損失率は、おおむね対応していることが分かった。値の大きさだけでなく、銀河の外側へ向かって低下する傾向も似ていたのである。この結果は、複数の超新星爆発がスーパーバブルを通してガスに渡すエネルギーで、観測された中性水素の乱流を維持できる、とする見方を支持している。
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スーパーバブルによるエネルギー供給と乱流による損失の比較。 横軸はアンドロメダ銀河の中心からの距離、縦軸は単位体積・単位時間あたりに供給または失われるエネルギーを示す。赤い点は個々のスーパーバブルから推定した供給率、灰色の帯は乱流の散逸率である。両者は値と距離による変化がおおむね対応している(論文より)
ただし、エネルギー収支が対応することが、ほかの供給源がないことの証明にはならない点には注意が必要だ。
星と銀河の相互作用を測る新たな手掛かり
超新星が乱流を支えるという見方は、以前から理論や観測で検討されてきた。従来は、星が生まれる速さから超新星の発生頻度を推定し、そのエネルギーの何割がガスの運動に変わるかを仮定する方法などが使われていた。本研究の新規性は、実際に膨張しているガスを調べ、乱流に供給されるエネルギーに迫った点にある。
もっとも、これら118個の泡はアンドロメダ銀河にある泡のすべてではない。小さい泡や暗い泡、複雑な構造に埋もれた泡は見落とされ得る。
そして、エネルギーの推定にも、泡の形や膨張の仕方、ガス層の厚みなどの仮定が入る。また、泡のある場所での比較を銀河全体へ広げるには、観測できた泡が全体をどこまで代表しているかも重要になる。
今後、より多くの泡や別の銀河で同様の比較を行えば、超新星の役割が環境によってどう変わるかを調べられる。ガスから生まれた星が、最期にはガスを動かし、次の星の誕生条件に影響を与える。これはその循環を、銀河に残る巨大な泡から定量的に探る研究である。
