超新星爆発のように突然明るくなりながら、中心の星は生き残る「超新星インポスター」。その増光を何が駆動するのかは、天体ごとに異なり、まだ統一的には分かっていない。Mojgan Aghakhanlooらの研究チームがarXivで発表した論文「AT 2016blu: Accretion-Powered Outbursts in a Luminous Blue Variable and Compact Object Binary」において約113日間隔で増光を繰り返すAT 2016bluに関し、光学観測だけでは判別できなかった伴星の性質を、X線が初めて照らし出した。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。
星が死なない「超新星もどき」
「インポスター」は「なりすまし」の意味。超新星インポスターとは、超新星探索で発見されるほど明るくなる一方、真の超新星より放出エネルギーが小さく、恒星そのものは破壊されない突発現象、いわば「超新星もどき」である。多くは、高光度青色変光星(Luminous Blue Variable: LBV)と呼ばれる、進化した不安定な大質量星の激しい質量放出と関係すると考えられている。
AT 2016bluは、地球から約2900万光年離れた銀河NGC 4559にある。その重要性は、増光を繰り返す時期に一定の規則性があり、次の増光を予測して多波長観測を計画できる点にある。
中心のLBVは太陽の少なくとも33倍の質量を持つと推定され、2012年に最初の増光が記録されて以来、2026年6月までに27回のアウトバーストが検出された。その発生は約113日周期で繰り返す傾向がある。
この準周期性から、研究チームはAT 2016bluを離心率の大きな連星とみている。2つの天体が最も接近する近星点付近で相互作用が強まり、増光を起こすという解釈だ。ただし、光学的な明るさやスペクトルだけでは、伴星が別の大質量星なのか、中性子星やブラックホールのようなコンパクト天体なのかを決められなかった。
予測した増光をチャンドラで待ち受ける
研究チームは、予測された増光時期に合わせ、地上望遠鏡と米国変光星観測者協会の観測者によってAT 2016bluを監視した。2026年3月に天体が急に明るくなり、rバンドで16.6等に達した時点で、NASAのチャンドラX線観測衛星による緊急観測を開始した。
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AT 2016bluの2026年3月の可視光での明るさの変化。予測された増光期に天体が明るくなり、rバンドで16.6等に達したことを受けて、チャンドラX線観測衛星による緊急観測が実施された(論文より)
3月24日から27日までの約4日間に、合計約10万秒の観測を5回に分けて実施したところ、すべての回でAT 2016bluの位置からX線が検出された。5回分を重ねたスペクトルから求めたX線光度は毎秒約4×1038 ergである。スペクトルは高エネルギー側の成分が強い「硬い」形を示したが、検出光子数が少ないため、その形状の不確実性は大きい。
一方、アウトバーストが始まる前の2001~2002年に偶然撮影されていたチャンドラ画像では、同じ位置にX線源は見つからなかった。
過去の観測で見逃されていたX線が比較的多くあり得る場合まで考慮した上限値と比べても、2026年のX線光度は約100倍に増えていたことになる。また、同じ位置に無関係な背景活動銀河核が偶然入る期待値は約6×10-5と見積もられ、検出源をAT 2016bluと結び付ける根拠となった。
強く硬いX線が示すコンパクト天体
LBVからX線を出す仕組みとしては、恒星風内部の衝撃波、そして二つの大質量星から吹く風の衝突が考えられる。しかし、恒星風内部の衝撃波は典型的に1031 erg/s以下、連星の風同士の衝突でも1031~1034 erg/s程度であり、今回のX線には遠く及ばない。
連続する近星点通過で放出された、速度の異なるガス殻どうしが衝突する場合もX線は生じ得る。しかしこのとき予想されるX線は観測結果より軟らかく、この可能性も支持されない。
これに対し、大質量星から流れ出た物質がコンパクト天体へ落ち込めば、重力エネルギーを強く硬いX線へ変換できる。研究チームは、AT 2016bluのX線はコンパクト天体への降着で生じ、反復する増光も近星点付近で強まる間欠的な降着によって駆動される可能性が最も高いと結論した。研究チームによれば、LBVとコンパクト天体からなる系の初めての既知例であり、AT 2016bluは高質量X線連星に分類される。
X線光度だけから見積もった降着率は、年あたり太陽質量の8×10-8以上である。ただし、これは放出されるエネルギーの大半がX線として見えると仮定した下限値だ。光学アウトバーストまで降着エネルギーで賄われ、その大部分が周囲の物質に吸収されて可視光へ変換されているなら、実際の降着率はさらに大きくなりうる。
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高光度青色変光星(LBV)、超新星インポスターなどのX線光度の比較。AT 2016bluは、恒星風同士の衝突でX線を出す既知のLBVよりはるかに明るく、コンパクト天体への降着が有力であることを示す(論文より)
伴星は中性子星か、ブラックホールか
今回の観測から強く示されたのは、伴星がコンパクト天体だというところまでで、中性子星とブラックホールのどちらかは決められていない。今回測定されたX線光度は、中性子星の古典的なエディントン限界を上回る。
しかし、中性子星でもこの目安を超えるX線を出す例が知られており、これだけで伴星がブラックホールだとは決められない。光学的な増光まで降着エネルギーで賄うと仮定すると、必要な降着率はエディントン降着率の100倍を超える。
ただしこの場合も、中性子星でさらに大きな超エディントン降着が起きている例が知られているため、中性子星説を直ちに退ける根拠にはならない。いずれにせよ観測光子数が少なく、決め手となりうるX線パルスも探索できなかった。
さらに、チャンドラが追跡したのは1つのアウトバースト中の約4日間だけで、X線がいつ最大になったのか、軌道位相に沿ってどう変化するのかも不明である。降着率やLBVの質量放出率にも、放射効率、恒星風速度、軌道離心率などの仮定が入る。
それでも、光学的には「超新星のような増光」に見える現象が、大質量星自身の大規模な質量放出だけでなく、見えない伴星への降着によっても生じうることを具体的に示した意義は大きい。今後、同様の系を増やし、軌道全体にわたるX線監視やパルス・軌道運動の探索を進めることが、超新星インポスターと大質量連星の進化を結び付ける鍵になる。