東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は7月22日、「原始ブラックホール」が引き金となって白色矮星が「Ia型超新星爆発」を起こす際、特定の化学組成の傾向を生じさせる可能性があることを明らかにしたと発表した。

  • 原始ブラックホール(PBH)が白色矮星を貫通した際の模式図

    原始ブラックホール(PBH)が白色矮星を貫通した際の模式図。PBHが貫通する際、その重力によって生じる潮汐相互作用によって白色矮星内の縁辺部の物質が加熱され、それが閾値(絶対温度約5億K)に達すると、力学的平衡状態での炭素の燃焼による発熱量がニュートリノによる冷却を上回り、熱核暴走が引き起こされる。その領域が十分に広がると、加熱された物質は局所的な熱核連鎖反応を引き起こし、これが引き金となってIa型超新星爆発が生じる。(c)Generated using Gemini Al (Banana Pro)(出所:Kavli IPMU Webサイト)

同成果は、Kavli IPMUのシンチー・レオン客員准科学研究員(米・ ニューヨーク州立工科大学准教授兼任)を中心に、同・野本憲一 客員上級科学研究員、同・アレクサンダー・クセンコ シニアフェローらも参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

一般にブラックホールというと、太陽の約20倍以上の大質量星が生涯の最期に重力崩壊を起こすことで誕生する恒星質量ブラックホールか、宇宙のほぼすべての銀河の中心に存在すると考えられている太陽質量の数百万倍から100億倍ほどの超大質量ブラックホールがイメージされる。これらは、直接の観測はできないが、間接的な証拠が多数あり、間違いなく存在すると認識されている。

それに対し原始ブラックホールは、形成時期も形成機構も大きく異なるとされる仮説上のコンパクト天体だ。宇宙誕生直後のインフレーション期に生じた物質の密度の初期ゆらぎが要因となって重力崩壊が生じて形成されたとされる。しかも恒星を経ないため、そのサイズは原子核よりも小さい極微サイズから、太陽の数万倍以上の超巨大サイズまで多岐にわたると考えられている。また、通常物質とは重力でしか相互作用しない正体不明の物質であるダークマターの候補の1つでもある。

先行研究によれば、ダークマターがすべて原始ブラックホールだと仮定した場合、膨大な個数が存在することになるため、高速で宇宙空間を飛び回る中で、1000億~2000億個の星が存在する天の川銀河であれば、確率論的に原始ブラックホールが恒星を貫通する事象が常にどこかで発生している可能性があるという。その貫通された天体が白色矮星だった場合、重力によって生じた潮汐相互作用により、Ia型超新星爆発を起こす可能性が示唆されていた。

研究チームはこれまで、原始ブラックホールが引き金になる星の爆発という新たなシナリオに基づき、超新星の力学的、光学的および化学的な特性について研究を進めてきた。研究チームの2025年の発表によれば、原始ブラックホールが引き金となった白色矮星の爆発によって、標準的なIa型超新星モデルに酷似したIa型超新星爆発が引き起こされることが示されていた。そこで今回の研究では、超新星残骸(ティコ、ケプラー、3C 397)、近傍の超新星(SN2011feやSN2012cgなど)、そして天の川銀河の恒星の化学組成と比較検討を行うことにしたという。

比較の結果、原始ブラックホールによって引き起こされるIa型超新星は、これらの天体で観測されたいくつかの特性を良好に説明できることが示された。また、「56Ni」や「57Ni」といったニッケルの放射性同位体や、マンガンやニッケルなどの安定同位体を調べることで、これらの超新星爆発や超新星残骸の起源となった恒星の質量と金属量(恒星の形成時の金属量は宇宙の歴史の中でその恒星がいつ誕生したのかを示す指標となる)が特定されたとした。

さらに、この爆発が銀河の化学進化にどのような役割を果たしたかも調べられた。その結果、天の川銀河の恒星に見られる化学組成の傾向を説明するには、原始ブラックホールを起源とするIa型超新星が一定の割合で存在する必要があることを明らかにしたとする。

研究チームは今後、これらの超新星が、従来の超新星の出現数や、突発的な天体現象の発生率にどのような影響を及ぼすのかを解明するため、研究範囲をさらに広げていく予定とした。

チームを率いたレオン客員准科学研究員は、「私たちの研究は、超新星の一部が原始ブラックホールがきっかけで引き起こされた可能性を示唆しています。原始ブラックホールという捉えどころのない天体を直接観測することはできないとしても、その性質を探るための興味深い手がかりは自然界に数多く残されているようです」とコメントしている。