「磁気リコネクション」は、磁場中に蓄積されたエネルギーを粒子の加熱や高速流へと急激に変換する現象であり、太陽フレアや地球磁気圏サブストームなどの爆発的現象の根源と考えられている。しかし、なぜこれほどまでに短時間で大量の磁気エネルギーを解放できるのか、その物理的な仕組みは現在も解明されていない。

そうした中、九州大学は、大阪大学 レーザー科学研究所の「激光XIIレーザー」を用いた実験により、レーザー生成プラズマ同士が衝突する条件を変えることで、磁気リコネクションに流れ込むプラズマ密度や磁場強度などの初期条件を大きく変化させる実験を実施。その結果、リコネクションが始まる時刻は大きく変化する一方で、磁気エネルギーが解放される速さを表す「リコネクション率」は、ほぼ同じ値となることを明らかにしたと、9月18日に発表した。

  • 実験による磁化プラズマ生成とリコネクションの様子。高出力レーザーで電離した炭素プラズマは自己発生した磁場とともに膨張し、中間面で磁気リコネクションが発生する (出所:九大ニュースリリースPDF)

    実験による磁化プラズマ生成とリコネクションの様子。高出力レーザーで電離した炭素プラズマは自己発生した磁場とともに膨張し、中間面で磁気リコネクションが発生する (出所:九大ニュースリリースPDF)

同成果は、九大大学院 総合理工学研究院の森田太智准教授を中心とする、大阪大学、北海道大学、青山学院大学、富山大学、成蹊大学、核融合科学研究所などの30名以上の研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する、統計物理・複雑系・ソフトマターなどを扱う専門論文誌「Physical Review E」に掲載された。

なぜ? 太陽の表面より遠い場所が高温になる理由を追究

太陽表面の温度が約6,000度にもかかわらず、その外層大気であるコロナは遥かに高温の約100万度に達する。熱源から遠いにもかかわらず、なぜこれほど高温になるのかは未解明だが、磁気リコネクションが深く関与していると考えられている。

磁気リコネクションとは、相反する向きの磁場がつなぎ替わることで、磁場中に蓄積されたエネルギーが急速に解放され、プラズマの加熱や高速流を生み出すなど、磁場エネルギーが熱や運動エネルギーへ変換される現象だ。これによってコロナが加熱されていると推測されているほか、オーロラ現象を引き起こす重要なプラズマ過程でもあり、宇宙プラズマ物理学における最重要課題の1つとされる。

近年の宇宙観測や数値シミュレーションから、磁気リコネクションは多様な環境で高速で進行し、その速さは環境によらず普遍的な値を示すことがわかってきた。しかし、異なる環境にもかかわらず、類似したリコネクション率が得られる理由は十分には解明されていなかった。

リコネクション率とは、磁気エネルギーがどれだけ速く解放されるかを表す指標だ。宇宙プラズマでは一般に最大0.1程度の値が報告されており、その起源は未解決問題の1つとなっている。その解明には、流入プラズマや磁場条件を制御した実験的検証が不可欠だ。そこで研究チームは今回、激光XIIレーザーを用いて、レーザー生成プラズマ同士の衝突実験を実施することにした。

今回の研究成果

実験では、プラズマ中に自発的に発生する磁場を伴わせ、プラズマの衝突と同時に磁場をつなぎ替えさせた。この際、レーザー照射位置の間隔を変えることで、磁気リコネクションに流れ込むプラズマや磁場の条件を大きく変化させることが可能となった。

また、独自開発した「二方向レーザートムソン散乱計測」により、「電流シート」内部の電流密度や、リコネクションによって生成される高速流を同時に測定した。レーザートムソン散乱とは、レーザー光の散乱スペクトルから、プラズマの密度・温度・流速などを非接触で測定する診断技術である。なお、電流シートとは、磁場エネルギーが熱や流れのエネルギーに変換される磁気リコネクションが起こる中心領域のことを指す。磁場の向きが急激に変化し、強い電流が流れる薄い層である。

計測の結果、「プラズマの膨張履歴や磁場の輸送履歴は大きく異なる」、「リコネクション開始時刻は大きく異なる」、「それにもかかわらず、リコネクション率はほぼ同じ値(0.1〜0.2)となる」の3点が明らかにされた。さらに、磁場エネルギーがプラズマの加熱と流れのエネルギーへどのように分配されるのかを定量的に評価し、リコネクションによるエネルギー変換過程が実験的に解明されたとした。

  • 炭素板をレーザーで電離して得られるプラズマと磁場が相互作用する様子。中間面で磁場がつなぎ替わる。リコネクションの様子は、別のレーザーを入射して、その散乱光を分光することで計測される (出所:九大ニュースリリースPDF)

    炭素板をレーザーで電離して得られるプラズマと磁場が相互作用する様子。中間面で磁場がつなぎ替わる。リコネクションの様子は、別のレーザーを入射して、その散乱光を分光することで計測される (出所:九大ニュースリリースPDF)

  • リコネクション前の磁場強度の時間変化と、計測されたリコネクション率。異なる2条件でほぼ同等の結果が得られた (出所:九大ニュースリリースPDF)

    リコネクション前の磁場強度の時間変化と、計測されたリコネクション率。異なる2条件でほぼ同等の結果が得られた (出所:九大ニュースリリースPDF)

今回確立された計測手法により、磁気リコネクション率とエネルギー変換の関係を定量的に評価できるようになった。研究チームは今後、「三次元的な斜め磁場中の磁気リコネクション」、「非対称な流入プラズマ」、「より大規模な電流シート」など、より現実の宇宙プラズマに近い条件へ研究を発展させる計画だという。これにより、近年提案されている「Hallリコネクション」、「非対称リコネクション」、「プラズモイド媒介リコネクション」などの理論や数値シミュレーションを実験的に検証できるようになるとした。

今回の成果は、太陽フレアや地球磁気圏で観測される高速リコネクションの普遍性を理解するための重要な実験的基準を提供するものであり、宇宙における爆発的なエネルギー解放現象の理解に貢献することが期待されるとしている。