太陽系外惑星の探索では、恒星近傍を10日以内というきわめて短時間で公転する巨大ガス惑星「ホットジュピター」がこれまで多数発見されている。太陽系で最も内側に位置する水星の公転周期ですら88日であることを考えると、どれだけ恒星の至近距離に存在しているかがわかる。
巨大ガス惑星は太陽系の木星のように、恒星から離れた寒冷な領域で形成されると考えられている。ホットジュピターは、誕生後に他の天体の重力などによる影響を受けてまず細長い楕円軌道に移行し、その後、恒星の及ぼす影響によって徐々に至近距離での円軌道に落ち着いていくと見られる。この細長い楕円軌道を経て至近距離での円軌道へと移行する軌道の変化は、「高離心率移動」と呼ばれるが、既知のホットジュピターの大半はすでに安定した円軌道を描いており、高離心率移動を直接裏付ける観測的根拠は限られていた。
そうした中、太陽系から約800光年の距離にあるA型恒星「TOI-1355」のまわりにやや歪んだ楕円型の珍しい軌道を持つ、高離心率移動の過程にあると考えられるホットジュピター「TOI-1355b」を発見したと、東京大学が9月18日に発表。NASAの系外惑星探査用の宇宙望遠鏡「TESS」と、地上望遠鏡を連携させた観測で明らかになった。
同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の渡辺紀治特任研究員(日本学術振興会特別研究員-PD)、同・成田憲保教授(東大大学院 先進科学研究機構教授/アストロバイオロジーセンター 客員教授兼任)、同・福井暁彦講師(東大大学院 先進科学研究機構 講師兼任)の研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
ホットジュピターの軌道の変遷を探る
太陽系外でこれまでに500個以上発見されているホットジュピターの中でも、表面温度が太陽よりも高温の6,000度以上の恒星を公転するものについては、他の天体の重力によって軌道が乱され、細長い楕円軌道となった後、恒星の影響で円軌道に近づきながら恒星付近に移動したと推測されている。しかし、これまで、この高離心率移動を直接裏付ける観測的根拠が限定されていた。
そこで研究チームは今回、表面温度が約8,400度と、太陽(約6,000度)よりも大幅に高いA型恒星TOI-1355に注目することにした。
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高離心率移動のイメージ。ホットジュピターはかつて恒星から遠い領域で形成され、茶色の点線のような円軌道を描いていた。しかし、外側で公転する重い惑星や連星系の伴星の重力によって軌道が乱され、灰色の破線のように一時的に細長い楕円軌道へ移行。その後、恒星の影響で軌道が徐々に縮み、黒色の実線のように恒星近傍で円軌道を描くようになったと考えられている (出所:東大Webサイト)
今回の研究成果
まず、TESSの観測により、TOI-1355では約2日周期の減光が発生することが確認された。この減光は、惑星が恒星の手前を横切るトランジットだけでなく、連星系において2つの恒星がお互いを隠す「食連星」現象でも起こりえる。そこでどちらなのかを明らかにするため、多色同時撮像カメラ「MuSCAT3」が搭載されたハワイ・マウイ島のハレアカラ天文台にある口径2mのフォークス北望遠鏡を含む、さまざまな地上望遠鏡でトランジット観測が行われた。
なおMuSCATシリーズとは、成田教授と福井講師らが中心となって開発・運用を行っている、複数の波長帯で同時観測を行える撮像装置だ。現在、国内外4台の望遠鏡に設置されている。MuSCATを用いて複数の波長帯で観測すれば、惑星によるトランジットなら波長によらず同時に減光が起き、食連星なら波長によって減光具合が変わるため、どちらの可能性が高いのかがわかる。今回の観測の結果、食連星ではなく本物の惑星のトランジットである可能性が高いことが示された。
続いて、惑星なのか恒星と惑星の中間の天体である褐色矮星なのかどうかを確認するため、質量の測定が行われた。TESSのデータから、TOI-1355bが恒星の周囲を1周する間の恒星と惑星の明るさを足し合わせた変化が調査された。この変化から、TOI-1355bの質量が木星の約5.8倍であることがわかり、惑星であること、つまりホットジュピターであることが確定した。
また、TOI-1355bが恒星の後ろに隠れることによるわずかな減光(二次食)も捉えられたが、円軌道では説明できないタイミングで発生していることが確認された。詳細な解析の結果、この惑星はやや歪んだ楕円軌道を描いていることが判明。既知の熱い恒星を公転するホットジュピターとしては、非常に珍しい特性を持っており、このことから円軌道へと変化する途中にある惑星と推測された。この惑星の発見は、熱い恒星を巡るホットジュピターが、高離心率移動を経て恒星近傍まで移動したという理論を裏付ける成果といえるという。
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TESSが捉えた、TOI-1355bが1公転する間の恒星+惑星の明るさの変化(掲載論文の図6を改変して引用されたもの)。左図は全体的な恒星+惑星の明るさの変化を、右図はトランジットが起こっていないところを拡大した明るさの変化を示す(赤点は観測データ、黒実線は観測データと最もよく合うモデル)。この変化から、この惑星の質量および軌道離心率が測定された。もし円軌道であれば、二次食による僅かな減光は右図の両端(トランジットから公転周期の半分の時間が経った時刻)で起こるはずだが、この惑星の場合はその時刻からやや早いところで、二次食による減光が確認された (出所:東大Webサイト)
さらに今回の研究では、TOI-1355bの軌道がコマのように首振り運動をする「惑星軌道歳差」という、系外惑星では5例目となる珍しい現象も検出された。この現象により、視線の向きに対する軌道面の傾きが少しずつ大きくなっており、1901年頃から始まった「トランジット観測が可能な時期」が、2033年半ばに終了することが推測された。間もなく恒星の前を通らなくなるという絶妙なタイミングで、今回、TOI-1355bは発見されたことになる。
今後、すばる望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などを用いた観測により、TOI-1355bの大気組成や惑星軌道の詳細な解明が期待される。しかし、その要となるトランジット観測を行える猶予が7年と迫っているため、早急な観測が望まれるとしている。

