金沢大学(金大)、国立天文台、東京大学(東大)の3者は5月14日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の強力な赤外線分光能力と「重力レンズ効果」を組み合わせ、宇宙誕生から約8億年後の時代にある、星の数が少ないために極めて暗く小さな銀河「LAP1-B」の超高感度観測に成功したと共同で発表した。

  • 重力レンズ効果で捉えられたLAP1-Bの姿

    重力レンズ効果で捉えられたLAP1-Bの姿。(背景)JWSTの近赤外線カメラ(NIRCam)による巨大銀河団MACS J0416。(拡大図)JWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)のデータを基に作成された、LAP1-Bの「速度空間」の3色合成画像。同銀河は星の数が少なく極めて暗いため、NIRCamの画像では視認できないが、分光観測により水素や酸素の微弱な輝線が検出された。拡大図の横軸はガスの運動速度、縦軸は空間的な広がりを示し、異なる元素の分布が可視化されている(青:水素のLyα輝線、緑:酸素の[OIII]輝線、赤:水素のHα輝線)。Lyα輝線は、各元素の分布を見やすくするため、表示上で速度を200km/sオフセットさせて表示されている。(c) NASA, ESA, CSA & K. Nakajima et al., Nature(出所:金大プレスリリースPDF)

同成果は、金大 国際基幹教育院 GS教育系の中島王彦准教授、東大 宇宙線研究所の大内正己教授(国立天文台兼任)、同・播金優一助教、同・小野宜昭助教、同・梅田滉也大学院生(研究当時)、同・磯部優樹大学院生(研究当時)、同・Yi Xu大学院生(研究当時)、同・Yechi Zhang大学院生(研究当時)、東大 情報基盤センターネットワーク研究部門の中村文隆助教(国立天文台 准教授兼任)、イタリア国立天文物理学研究所のEros Vanzella First Resercher、国立天文台の辻本拓司助教、総合研究大学院大学の西垣萌香大学院生(研究当時)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、シュプリンガー・ネイチャー社が刊行する世界最高峰の総合学術誌「Nature」に掲載された。

宇宙に残る“化石天体”の起源に迫る可能性

現在、人類は人工的に合成されたものを含め118種類の元素を確認しているが、天然に存在するものは約90種類だ。しかし、ビッグバン元素合成で最初に誕生した元素は、水素、ヘリウム、そして極微量のリチウムの3種類のみだった。その後、星内部での核融合により鉄までの元素が合成され、さらに重い元素は超新星爆発や中性子合体などで誕生したほか、またベリリウムやホウ素は宇宙線破砕により生成され、現在の多様な元素が揃っていった。

宇宙誕生から約38万年後、「宇宙の晴れ上がり」が発生し、原子核が電子を捉えたことで光が直進可能となり、宇宙は一度暗闇に包まれた。それから1~2億年後と推測されているが、大量に存在していた水素やヘリウムが集まることで、宇宙最初の世代の星(ファーストスター)が誕生し、炭素以降の元素の合成が開始された。

このファーストスターの正確な誕生時期は未解明だが、135億年前の宇宙に銀河が観測されていることから、宇宙誕生後約38万年から約3億年の間であること考えられている。また、ファーストスターがいかにして重元素を飛散させ、物質の多様性を生み出し始めたのかを探ることは、現代天文学における最重要課題の1つとなっている。

ファーストスターが生成した元素の痕跡を直接捉えることができれば、銀河や星、ひいては生命へと至る物質進化の起点を具体的に理解することが可能となる。しかし、初期宇宙の銀河は極めて暗く小さいため、その組成を詳細に分析することは困難を極めてきた。そこで研究チームは今回、JWSTと重力レンズ効果を併用することで、通常は観測不能な極小銀河「LAP1-B」の詳細な観測に挑んだという。

今回の研究では、巨大銀河団「MACS J0416」による重力レンズ効果でLAP1-Bをからの光を約100倍に増幅し、JWSTによる30時間を超える高感度な分光観測が実施された。分光観測により得られるスペクトルを解析することで、その天体に含まれる元素の組成や含有量、地球からの距離、運動状態などの詳細な調査が可能だ。

その結果、これまで詳細がほぼ不明だった、宇宙誕生から約8億年後の初期宇宙に存在するLAP1-Bの性質が明らかにされた。同銀河の水素に対する酸素の個数比(酸素存在比)は太陽の約240分の1と、星形成を行っている銀河としては観測史上最少水準であることが突き止められた。

  • 銀河の星質量と酸素存在比の相関図

    銀河の星質量と酸素存在比の相関図。茶色の点は既知の遠方銀河、破線は近傍銀河の傾向を示す。LAP1-B(赤丸)は、他の銀河に比べて極めて星の質量が圧倒的に小さく、かつ酸素存在比も太陽の約240分の1と、星形成銀河としては観測史上最少値を記録した。この極めて少ない酸素量は、同銀河が化学進化を遂げる前の極めて原始的な段階にあることを示す。(c) K. Nakajima et al., Nature(出所:金大プレスリリースPDF)

その一方で、酸素に対して炭素の割合が極めて高いことも確認された。この元素組成は、ファーストスターの超新星爆発によって生じると理論予測されてきた分布とよく一致するという。これは、ファーストスターが合成した元素が初めて銀河へ受け継がれる過程を、観測的に捉えた可能性が示すものとしている。

  • 銀河の酸素存在比と炭素/酸素比の比較図

    銀河の酸素存在比と、炭素/酸素比の比較図。LAP1-B(赤丸)は、極めて低い酸素量に対し、炭素の割合が高いという特異な組成を示している。これはファーストスターの爆発による理論予想(紫色の領域)と合致しており、ファーストスター由来の元素が銀河に受け継がれた瞬間を捉えた可能性が示唆される。背景の灰色(×)は天の川銀河の古い星、ひし形(◇)は宇宙空間の巨大ガス雲のデータ。青枠は現代のUFD銀河における星の分布であり、LAP1-Bとの組成が酷似していることがわかる。130億年前という遠方宇宙の活発な銀河において、この特徴が確認されたのは、LAP1-Bが世界初の例となる。一方、より進化が進んだ「次世代の星々」による予測(オレンジ色の領域)からは大きく外れており、LAP1-Bの特異性が際立つ。(c) K. Nakajima et al., Nature(出所:金大プレスリリースPDF)

さらに、LAP1-Bの星の総質量太陽を推定したところ3300倍以下と極小で、天体の大部分をダークマターが占めていることも判明。これらの特徴は、現代の宇宙で“最も暗い銀河”とされる「超低光度矮小(UFD)銀河」と極めて類似しているとする。UFD銀河は天の川銀河の周囲にも存在する、極めて星の数が少ない暗い銀河であり、宇宙初期の情報を保持する「化石天体」と考えられている。今回の成果は、初期宇宙の原始的な銀河がいかに進化して現在のUFD銀河に至ったのか、そのプロセスを解明する重要な手がかりになるとした。

今回の研究は、理論的にしか議論されてこなかったファーストスターの影響やUFD銀河の進化シナリオを、観測データから示した点に大きな特徴があるとする。元素組成と質量構造の両面から分析を行う今回の手法は、元素合成の最初期の現場や、宇宙の化石天体UFD銀河の形成プロセスを検証する新たなアプローチを切り拓くものだ。今後は、さらに酸素存在比の低い天体の探査を進めると共に、JWSTや次世代大型望遠鏡によるさらに高感度な分光観測を積み重ねることで、ファーストスターそのものによって構成される「初代銀河」を同定することが期待されるとしている。