夜空に瞬く星へ、宇宙船を送り込む。SFでは繰り返し描かれてきた光景だが、現実の宇宙開発では、まだ一度も成し遂げられていない。
これまでにも恒星へ探査機を送る構想は数多く提案されてきたが、その多くは、まだ実用化されていない未来の技術を待つものばかりだった。
そうしたなか、米国の非営利組織「フェルミ・エクスプローラー・ミッション」は、約4.4光年離れたアルファ・ケンタウリをめざす、新たな探査計画を発表した。遠い未来の技術を待つのではなく、いま手にしている技術で星への旅に出ようという計画だ。
ただし、その旅には約7万7,500年もの歳月を要する。それほど長い時間をかけてまで、なぜ隣の恒星をめざすのか。そして、現在の技術で、どうやってそこへ向かおうとしているのだろうか。
「フェルミのパラドックス」に挑む
フェルミ・エクスプローラー・ミッションを立ち上げたのは、起業家のフィリップ・ジョンストン氏、ソフトウェア・エンジニアのアディ・オルテアン氏、宇宙エンジニアのエズラ・フィールデン氏の3人だ。ジョンストン氏は英国出身、オルテアン氏はルーマニア出身で、3人はいずれも宇宙データセンター企業スタークラウド(Starcloud)の共同創業者でもある。
同団体がめざすアルファ・ケンタウリは、太陽系から約4.37光年離れた、最も近い恒星系で、太陽に比較的似たアルファ・ケンタウリAとBの連星と、そこから離れて回る赤色矮星プロキシマ・ケンタウリからなる。探査機が目標とするのは、このうちAとBからなる連星系の重心付近である。
恒星間飛行にとって最大の課題は、その途方もない距離をどう乗り越えるかだ。
1970年代、英国惑星間協会が研究した「ダイダロス計画」では、核融合推進によって探査機を光速の12%以上まで加速し、約5.9光年先のバーナード星へ約50年で到達させることが検討された。一方、2016年、ブレイクスルー・イニシアティヴが発表した「ブレイクスルー・スターショット」は、地上の大出力レーザーで超小型探査機の光帆(セイル)を加速し、光速の約20%でアルファ・ケンタウリへ約20年で到達させることをめざしている。
いずれも野心的な構想だが、核融合推進や巨大なレーザー設備、超軽量の光帆など、大規模な技術開発を必要とし、現在まで恒星へ向けた探査機の打ち上げには至っていない。
これに対し、フェルミ・エクスプローラーは、すでに実用化されている技術を中心に組み合わせ、アルファ・ケンタウリをめざす。その代わり、到着までに要する飛行時間は約7万7,500年にも及ぶ。つまり、将来の画期的な推進技術を待つのではなく、まず恒星へ向けて探査機を送り出すことを優先するという発想だ。
この計画は、4つの目標を柱としている。2029年末までに打ち上げること。設計、製造、打ち上げ、運用を含む総費用を1500万ドル未満に抑えること。少なくとも1kg、10cm×10cm×10cmのペイロードを搭載すること。そして、8万年以内にアルファ・ケンタウリまでの道のりの99%以上を進むことである。計画側は、この4つを別の恒星へ向かうための「minimum viable mission」、すなわち実現可能な最小限のミッションと位置づけている。
フェルミ・エクスプローラーという名前は、物理学者エンリコ・フェルミに由来する。1950年、フェルミは「この宇宙に多くの知的文明が存在するなら、なぜその痕跡が見つからないのか?」という疑問を投げかけた。この問いは、のちに「フェルミのパラドックス」と呼ばれるようになった。
その謎を説明する考え方のひとつに、「グレート・フィルター」がある。生命や文明が発展する過程のどこかに、乗り越えられない障壁が存在するという仮説だ。文明がほかの恒星系へ進出することは、そもそも技術的に不可能なのかもしれない。あるいは、十分に発展した知的文明は、生まれ故郷を離れることを望まなくなるのかもしれない。
もしフェルミ・エクスプローラーを実際にアルファ・ケンタウリへ向けて送り出すことができれば、グレート・フィルターとして考えられてきた可能性のいくつかに、人類自身が反例を示すことになる。
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