「スローバックTHURSDAY」とは、Spotifyが一挙44年分を網羅して厳選した名曲プレイリストシリーズ。1976年から2019年まで各年の音楽シーンを象徴する楽曲たちがズラリと収録されている。

1年あたり100曲で構成される各プレイリストからは「まだ聴いていなかった」「懐かしい……」「この時代の曲だったのか」「この曲をずっと探していた!」など、各年代のリスナーにとって様々な想いとともにカラフルな出会いをもたらしてくれるだろう。

Spotifyとは……世界で最も人気のあるオーディオストリーミングサービス。2008年にサービスを開始し、2023年時点で180以上の国と地域で2億2,000万人の有料会員を含む5億5,100万人のユーザーが利用。1億曲以上の音楽と500万以上のポッドキャスト番組が楽しめる。

本稿では、そんなSpotifyが展開する「スローバックTHURSDAY」を楽しみつつ、各年代の音楽シーンを考察していきたい。


▼筆者プロフィール
平吉賢治(ひらよし けんじ)

1980年生まれのライター。音楽記事を中心に執筆。これまで500本以上のコラムやインタビュー等を担当。人物やコンテンツの魅力を深く考察し、「わかりやすく」「新たな発見が生まれる」文章をモットーとしています。音楽制作や演奏などでも活動。癒しはマンガと適度なお酒。

44年分の名曲が網羅! 「スローバックTHURSDAY」を一挙考察

「スローバックTHURSDAY」の最大の特徴は、Spotify が厳選した1976年から2019年まで各年の邦楽・洋楽の名曲が凝縮されている点だろう。10代や20代のリアルタイムでサブスクリプションサービスを利用する世代や、30代や40代のCDやMDに親しみがあった世代、50代や60代以上とレコードやカセットテープなどが主流だった全世代にとって、様々な角度から名曲たちが煌びやかに“スローバック”される。

あの国民的バンドもデビューした【70年代】

レコードやテレビなどがリスニングの主な環境だった1970年代。邦楽では歌謡曲やロック、アイドルなどが音楽界を賑わせた。今となっては学校の教科書で学ぶほどの名曲や、“伝説”のバンドやグループの代表曲を振り返ることができる。

例えば1976年では、国内最高記録のシングルセールス450万枚という功績をあげた「およげ!たいやきくん」が収録されている。耳障りの心地よい“いなたい”サウンドと馴染みやすく哀愁漂うメロディは、この曲に限らず70年代サウンドの特色とも捉えられる。一方で洋楽では、「Sir Duke」など、ソウル界の御大であるスティーヴィー・ワンダーの数々の名作が楽しめる。

そして、国民的バンドのサザンオールスターズのデビューもこの年代。デビュー曲「勝手にシンドバッド」(1978年)は、近年でもライブで披露される頻度が高い人気曲。さらにピンク・レディーや山口百恵など、華々しいアイドルの楽曲も70年代のリストに連なる。

海外のロックシーンでは、世界を代表するロックバンドのヴァン・ヘイレンのデビュー曲「You Really Got Me」(1978年)も収録。また、ロックを様々なジャンルの融合とともに発展させたイギリスのバンド、ザ・ポリスやザ・クラッシュの楽曲なども70年代後半のリストに織り込まれ、シーンの歴史をスローバックするにあたり注目したいところだ。

数々のスターが産声をあげた【80年代】

“80’sリバイバル”という、近年のアプローチの源流はもちろんこの時代。80年代後半、国内はあらゆる資産価値が跳ね上がることや景気刺激策などが影響した「バブル経済」で、世風は好景気の一言だった。

カルチャー面ではディスコブームが起こり、街ゆく人々のファッションなども“イケイケ”で“ナウい”(当時は今時でクールな様子をこう表現していた)ド派手なファッションが目立っていた。そんなキラキラした時代のイメージと合致する、ドリーミーでロマンティックな印象が特徴のこの時代。矢沢永吉、中森明菜、マイケル・ジャクソン、マドンナなど大スターの力作がズラリと並ぶ。

昨今、国内外ともに評価が高いシティポップ。もちろんその代表格の楽曲も収録されている。竹内まりやの「プラスティック・ラブ」(1984年)は普遍的なシティポップで、「最近のシティポップは聴くが、当時のはまだ聴いていない」というリスナーにとってはおすすめの1曲だ。

また国内でバンドブームが巻き起こり、BOØWYやユニコーンなど様々なロックバンドが頭角を現した。なかでもレベッカの代表曲「フレンズ」(1985年)は、当時を彷彿とさせるサウンドとしてピックアップしたいところだ。そして、尾崎豊、荒井由実(松任谷由実)、中島みゆき、長渕剛など、ビッグネームのシンガーソングライターの各曲たちも溢れんばかりにチョイスされている。

80年代の各楽曲の特色としては、一概には言えないが、華やかな時代背景をドラマチックに、情念的に表現されているという点だろう。具体的には、よりダイナミックに進化したメロディ構成、積極的にテクノサウンドをアプローチした新世代サウンドの導入、ハードロックの速弾きギタープレイや手数の多いテクニカルなドラミングなどの花形プレイがフォーカスされるなど、様々だ。

もちろんこの限りではないが、それらの要因によりサウンドやメロディが直線的であることに加え、深めに歪んだギターとシンセサイザーが融合したアレンジのゴージャスさが顕著という点も挙げられ、「楽曲の世界観にダイレクトに浸りやすい」という軸があるように感じられる。そして、30代後半以上の世代にとっては思わず「懐かしい……」の一言が漏れるようなノスタルジックも魅力のひとつだ。

“J-POP黄金時代”の【90年代】

CDセールス最盛期、「J-POP黄金時代」とも呼ばれる90年代。80年代までに形成された様々な音楽スタイルをミックスし、新たなジャンルが次々と生まれた。ロックシーンではHIP HOPとの融合、ダンスシーンでは様々な種類のエレクトロミュージックが派生し、あらゆる音楽的手法が確立された時代と言えるだろう。

たとえば1995年のリストに着目すると、小室哲哉プロデュース作品でハウスやトランス、ジャングルやドラムンベースなどが親しみやすいアレンジで施されている。安室奈美恵やTRFなどの楽曲ではJ-POPダンスビートの源流が感じられるだろう。

また、カラオケ文化が定着した90年代には、今も大勢に歌われる楽曲がびっしりだ。1995年リリースのMr.Children「Tomorrow Never Knows」や、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』主題歌「残酷な天使のテーゼ」など、カラオケの歌唱履歴リストでもよく目にする楽曲もセレクトされている。

ほかにもこの年代ではGLAY、スピッツ、DREAMS COME TRUE、L'Arc~en~Ciel、エレファントカシマシ、ZARD、B’z、THE YELLOW MONKEYなど、今でも誰もが一度はどこかで耳にするアーティストの楽曲が豪華に並ぶ。

洋楽ではマライア・キャリーなどが注目され、ジャミロクワイやThe Cardigansのようなオシャレなポップミュージックも国内で流行し、『フジロックフェスティバル』が初開催されたのもこの年代。フェスによく出演するレッド・ホット・チリ・ペッパーズやオアシス、ケミカル・ブラザーズなどの人気に火がついた時期でもある。

日本の歌姫と呼ばれる宇多田ヒカルやMISIA、椎名林檎、aikoらのデビューもこの年代。さらにはビジュアル系ロックが音楽チャートを賑わせ、X JAPANやLUNA SEAなどがシーンを牽引し、ニルヴァーナやレディオヘッドなどのオルタナティブロックシーンがメキメキと勢力を強めるなど、はちきれんばかりに音楽ムーブメントが巻き起こったのである。

リスニングに革命が巻き起こった【2000年代】

音楽界に革命をもたらし、これまでのリスニング環境を激変させた2000年代。 従来の「レコードやCDを購入・レンタルして単体で楽しむ」形から「音楽ファイルをダウンロードする」という、音楽媒体を所有せずとも曲を楽しめる時代に突入した。その皮切りとなったとも言えるデバイス「iPod」が世界的なセールスをおさめるなど、音楽界の変換期を迎えた。

この時代の邦楽の特徴としては、ソウル、R&B、HIP HOPを基調とした楽曲が目立つことだろうか。平井堅やケツメイシ、CHEMISTRY、EXILE、RIP SLYMEなどが続々とヒット曲を飛ばし、女性ボーカルの楽曲では浜崎あゆみやDo As Infinity、中島美嘉らが活躍。さらに、ELLEGARDENやくるり、BUMP OF CHICKEN、フジファブリック、ONE OK ROCKなど“邦ロック”とも呼称されるバンドがロック界を賑わせた。

洋楽では、マルーン5やエミネム、ディアンジェロ、ブラック・アイド・ピーズなど、やはりソウル・R&BやHIP HOPサウンドがシーンを席巻。一世を風靡したレディー・ガガのデビューもこの年代だ。ロックシーンではザ・ストロークスやザ・ホワイト・ストライプスなどのガレージロック(リバイバルとも呼ばれた)も盛んだった。

もしも、「2000年代から1つだけ素敵な曲を」という問いがあったとしたら、個人的にはコールドプレイの「Viva La Vida」(2008年)を挙げるだろうか。この楽曲は彼らの代表曲でもあり、CM曲として起用されるなど馴染みがある楽曲で非常に親しみやすい1曲ではないだろうか。

SNS・プラットフォーム・サブスクで音楽を共有する【2010年代】

SpotifyのようなオーディオストリーミングサービスやYouTubeなどで、音楽を聴くことが一般化した2010年代。あらゆるプラットフォームでのリスニング環境が加わった。これまではCDなどフィジカルな「音源自体」を購入する必要があったが、「サブスク」の概念が生じ、月額料を払うことにより、配信されている“膨大な量の音楽を楽しむこと”ができるようになった。

この変化により、洋楽・邦楽問わず世界中の音楽を手軽に聴けるようになったことに加え、様々な年代の音楽に触れる機会が増えたのである。そしてSNSが普及し、音楽のみならず、コンテンツの共有がより便利になった側面もあるだろう。また、Spotifyなどでの「おすすめコンテンツ」のレコメンド機能により、年代を問わず、リスナーが好む音楽の発見がスピーディーになった。

その結果、若い世代が昔流行した楽曲が “バズる”現象(リバイバルする)が度々起こるようになったことは、近年においてのシーンの特徴と言えるだろう。まさに、時代の垣根を超えたこれらの概念・現象は、音楽界をより一層盛り上げた一因となったのである。

この時代になってくると、特に30代前後の世代にとっては「最近の音楽」と認識されるだろうか。SEKAI NO OWARIやゲスの極み乙女、きゃりーぱみゅぱみゅ、Official髭男dism、RADWIMPS、あいみょん、King Gnu、米津玄師、YOASOBI、Vaundy、藤井風など、ヒット曲を連発する比較的フレッシュなアーティストの曲が厳選されている。一方で、BTSやTWICEなどに代表されるK-POPの楽曲が挙がる点もこの年代の特色だ。

再生回数に目を向けると、エド・シーランの「Shape of You」(2017年)がSpotify再生回数36億回超、ビリー・アイリッシュの「bad guy」(2019年)が23億回超と、世界中にその魅力を轟かせ、記録的ヒットとなったことは記憶に新しい。(※再生回数は2023年9月現在)

また、主要ジャンルの面では、ドレイクやザ・ウィークエンドなど、HIP HOPやトラップ、近代的なダンスビートを主体としたサウンドが現在進行形のトレンドとなっていると言えよう。先述した“80’sリバイバル”が巻き起こったのもこの年代。もはやこのあたりの概念に関しては敢えて紹介せず、「スローバックTHURSDAY」80年代の各プレイリストを聴くことにより、シンプルに「80年代のサウンドテイストを現代の環境で――」といった点が聴覚的にピンとくるだろう。

各年代の需要を満たす令和のサービス

昔は、音源の購入やレンタルでのリスニングが主流だったが、現在ではサブスクなどで手軽に聴ける。サブスクの概念が加わったことにより、音楽の楽しめる幅やスピード、情報量が顕著に変化した。多種多様、大量の音楽があるなか、話題になるスピード感は圧倒的に異なるが、「スローバックTHURSDAY」では近年の名曲から往年の名曲まで、スムーズにアクセスできるのである。

例えるならば、探し物や欲していたものがワンタッチで見つかるイメージだろうか。ファッションなどと等しく音楽にも「トレンド」があり、その変化を楽しむにもうってつけで、ピンポイントで目当ての時期の音楽を堪能する魅力もある。様々な音楽の聴き方、大量の楽曲がある現代において、迷いなくあらゆる良曲と出会える。時代背景を感じるとともに、時系列で音楽シーンの歴史が追える魅力に満ちている。

そんなSpotify厳選の「スローバックTHURSDAY」は、様々な世代のリスナーの需要を余すことなく満たす、音楽好き必聴の“珠玉の名曲プレイリスト”と言えるだろう。

[PR]提供:Spotify