将来のことはよくわからないけれど、とりあえず貯金はしているという人は多いだろう。だが、実際のところいつ頃までにいくら用意しておけば良いかまで考えられている人はどれくらいいるだろうか。そこで今回は、フィデリティ投信のフィデリティ退職・投資教育研究所所長、野尻哲史さんに老後のお金の考え方について話を聞いた。

――老後と言っても、50代くらいであればまだ想像できるかもしれませんが、20代30代のうちはピンと来ないもの。とはいえ老後はやってくるわけですが、いったい何歳くらいまでにどれくらいのお金を用意すればいいんでしょうか?

  • フィデリティ投信001

    フィデリティ退職・投資教育研究所所長、野尻哲史さん

「老後のお金」を考えたときに、どうしても真っ先に「いつまでにいくら」と考えてしまうのはしょうがないことだとは思います。ですが、平均で3,000万円、という数字を出したとしてもそれはあくまで平均。結局のところ人によって違うというのが実情なんですね。

その違いに一番大きな影響を与えるのがその方の年収なんです。年収が300万円と600万円の人で、同じように3,000万円必要、では無理がありますよね。分かりやすい数字だけを見て納得してしまわないよう、まず考え方を変えていただきたいと思っています。

ですから、こういったお話しをする際に「○歳までにいくら必要ですよ」と具体的な金額をお知らせするのは間違っているんじゃないかと個人的には考えています。

「資産形成比率」と「目標代替率」から老後の必要資金を考える

――老後のお金を考える際に、何か参考になる数字はありますか?

  • フィデリティ投信002

もちろん。みんな一律の金額を想定するのではなく、年収に対する「率」で考えてみてほしいのですね。退職後の必要資金を考えるうえで、2つの「率」を意識していただきたいんですが、まず一つは退職後年収を計算するための「目標代替率」と私が呼んでいるものです。年収というと働いて得ているような印象がありますが、この場合は公的年金や銀行から引き出して使うような金額も含めて退職後に使う年間の支出に相当するものです。

退職後年収は、現役時代の生活水準に影響を受けることから、「退職前の最終年収」をもとにその何割くらいで生活できるかを想定して算出するのです。その比率が目標代替率なのです。退職後の支出をどれくらいコンパクトにできるか、ということになりますが、日本の平均はフィデリティ退職・投資教育研究所が2009年の家計調査をもとに計算してみたところおおよそ68%くらいでした。そして、この退職後年収に退職後の生活年数をかけ合わせれば「退職後必要資金総額」を推計することができます。

  • フィデリティ投信003

――「退職後の必要資金総額」を推計できれば、どのくらいの資産を形成していけばよいかがわかってきますね。

そうですね。もちろん退職後の生活年数を減らすために人生を短くするわけにもいかないですからね(笑)、計算してみると思ったよりも大きな額になって、とても難しいとショックを受けるかもしれません。あくまで一例ですが、退職直前年収が600万円の方の場合、目標代替率68%、退職後年数35年で計算して、年金を月額24万円で30年受給できたとすると5,640万円を老後の生活のために自分で用意する必要がある計算になります。

――5,640万円! そう聞いてしまうと、とても用意できない気がしてしまいます。

そうですね。でも対策はいくつもあるんです。例えばこの金額を下げるためには、「いつから老後にするか」「生活水準をいかに引き下げるか」などを考慮して、できることのバランスを考えていくことですね。長く働くことで退職後の生活年数を減らすことができますし、退職後年収を減らすために地方都市などの住居費や物価の安い地域に住み替えることを考えてみたりなどです。

それに、退職時点で5,640万円が用意できていなければならないということでもないんですよ。

  • フィデリティ投信004

ある程度の金額が用意されていれば、使いながら運用をして老後を生活していくことも考えられます。60歳時点から3%で運用し、残高の4%を引き出しながら75歳まで暮らし、75歳から95歳までは月額14万円を引き出す暮らしであれば引き出し総額は5,700万円弱になります。これで先ほどの必要総額に匹敵する引き出しが可能になるのですが、その場合60歳時点の資産準備金は3,950万円まで抑えられます。目標代替率を引き下げれば、もっと抑えられるでしょう。

老後を考えるのであれば、キャリアアップも積極的に

――ライフスタイルなどのバランスを考慮しながら老後のことを考えると、より具体的に金額などもイメージできますね。とはいえ、ただ貯金するだけで用意をするのはなかなか難しい時代になっているとは思います。

  • フィデリティ投信005

現代の若い人は働き方も多様になりましたし、金融状況としても決して明るいわけでは無いというのが現状です。だからと言って、老後を考えて若い時期に無理をして苦しみながら資産を作っていくことが良いことであるとも思えません。資産を増やすためには、まずは年収をあげることを考えるべきです。資格を取るなどの自己投資を若いうちにしっかりとやっておくことをお勧めします。そのうえで資産形成に関しても早くから取り組んでいくことが必要になります。

まずは年収から「率」で計算するのが資産形成への第一歩

――そうそう、もう一つの「率」について伺っていませんでしたね。

そうでした。もう一つは「資産形成比率」です。老後のための資産形成を、金額ではなく、年収に対してどれくらいの「率」にするかを決めて資産形成に取り組む考え方ですね。

海外では率で考えることは普通なんですが、日本ではどうしても定まった金額を知りたがる傾向があるようです。イギリスでは企業年金に加入する際に年収の8%が最低ラインと法律で定められています。アメリカのフィデリティでは15%くらいが必要だと伝えています。率で考えれば、年収が上がればその分、資産形成額も上がることになります。

もうひとつ気にかけて欲しいのが“資産形成していることを忘れる”ような方法で、資産を作っていける流れを作ってしまうことです。

――“資産形成していることを忘れる”とはどういうことでしょうか?

  • フィデリティ投信006

具体的には給料の10%を積立投資にするというように決めておいて、その金額が自動的に口座から引き落とされて運用に回るようにすることです。そうしておけば、普段は資産形成していることをあまり意識しないで済みます。さらに投資について誰もが詳しいわけでは無いですから、投資信託などプロに任せられるものはどんどん任せて運用するほうがいいと考えています。

――本日はありがとうございました。

まだ先のことではあっても、やはり安心できる老後を過ごしたいのは誰もが同じこと。そのためにも、ただ漠然とではなく、具体的に考えながら資産を作っていくことが大切。一度、自分の将来のことをプロに相談しながら考えてみてはいかがだろうか。

■プロフィール

フィデリティ退職・投資教育研究所所長、野尻哲史さん


国内外の証券会社調査部を経て、2006年フィデリティ投信株式会社に入社、2007年より現職。アンケート調査をもとに個人投資家の資産運用に関するアドバイスや、投資教育に関する行動経済学の観点からの意見を多く発表している。日本証券アナリスト協会検定会員、証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。著書には、『老後難民』、『日本人の4割が老後準備資金0円』(講談社+α新書)や『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(明治書院)などがある。

調査分析などは専用のHP、資産運用NAVIを参照

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