こうした社会問題を題材にとったアーティストが多い中で、特にユニークな展開をはかっているのがトゥシャール・ジョーグが手がける『ユニセル』の一連の作品だろう。ユニセルはジョーグがウェブ上に創り出した架空の法人「ユニセル公共事業団」が都市部における社会問題などの解決案を提起するもの。国家や行政の政策局や事業体を風刺的に模倣したユニセルは、当局とはまったく異なった視点で問題解決を提起するもので、ソーシャルエンジニアリング的な役割を果たそうとしているが、その解決案は時には本気なのか、茶化しているかはかれないようなユニークさに満ちている。例えば、都市化の問題のひとつである満員電車での乗客のストレスを改善するために、満員電車に乗った時のステップを伝授する作品『ユニセル : 満員電車での動き方』が会場の床に描かれていた。

ユニセル : 満員電車での動き方/トゥシャール・ジョーグ右足と左足にそれぞれ番号がふってあり、番号に沿って動くわけだが、多くの来場者が思わず番号通りにステップを踏んで楽しんでいた

いわば(過去、現在の)インド的な美術の世界で作品を発表している多くのアーティストとは別に独自のコンセプチュアルな作品を発表しているのが、シルパ・グプタだろう。横浜トリエンナーレ2008にも登場した、部屋にマイクだけが置かれ、そのマイクがスピーカーとなって延々と演説が流れ続ける作品『運命との密会の約束(憲政議会演説)』やスクリーンに来場者の影を投影し、これをシミュレートする事で、来場者を作品に巻き込んでしまうインタラクティブなインスタレーション『無題(シャドウ♯3)』などを出展していた。また、初日には、横浜トリエンナーレ2008で話題となったニキル・チョプラのパフォーマンスが六本木でも再演された。白いドレスを纏って、他のアーティスト作品の前を練り歩いた模様は会場ではビデオ作品として見る事ができる。

運命と密会の約束(制憲議会演説)/シルパ・グプタ

無題(シャドウ 3)/シルパ・グプタ

スクリーンの前に立つと自分の影に突然、線の影がふってきて(写真上)、その線をたどってガラクタ?がおりてくる(写真下)。ガラクタの影を引きずって、別の来場者の影と重ねる事でガラクタをその影に添わせる事ができる。最初は無理矢理、参加させられる作品だが、いつの間にか遊んでしまう。

ヨーグ・ラージ・チットラカールと東京/ニキル・チョプラ残念ながら写真はドレスを纏う前に化粧をしている姿。ある意味、貴重なショットか?

エアー・ショー/ナタラージ・シャルマヴァドーダラで行なわれたエアショーに触発され制作した作品。グリッド構造体により、立体的に仕上げられている

クロッシング/ランビール・カレカターバンを染める男や小鳥の行商人を描いた4つの絵をスクリーンに映像を投影し、流動する世界を映し出しているここ

中心、そしてその他大勢/アナント・ジョシカラフルな安価なフィギュアが並べられ回転し、反対側では同様に剃刀の刃が回転している。不安定な都市生活を表現しているかのようだ

『同義語』(手間の4点)/リーナ・サイニ・カッラト無数のゴム印がモザイク状に並べられポートレイトを描いている。奥は女性の背中に、印パの領土問題を表す管理ラインを時間の経過に従って描いた『襞/亀裂/輪郭』