本業のアナウンサーのみならず、アニメ評論、アイドル評論、創作落語など多彩な仕事をこなし、近年ではバーチャルYouTuber一翔剣としての活躍など、多忙を極めているニッポン放送のアナウンサー、吉田尚記さん。そんな吉田さんが、単行本『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)を出版した。

こちらの本では、吉田さんが会話のコミュニケーションに悩む人々を対象に期間限定サロンを開催し、そこから実際の悩みを拾い上げつつ、各分野の専門家を取材してコミュニケーションが苦手な理由や解決法を指南。まさに教科書として、コミュニケーションのテクニックが詰まった1冊となっている。

  • ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん。自身ももともとはコミュ障だったそう

    ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん。自身ももともとはコミュ障だったそう

そこで今回は、ビジネスシーンでも活用できるコミュニケーションのテクニックについて、吉田さんにたっぷりとお話してもらった。

■コミュニケーションで困っている人はまだまだいる

――そもそも、今回の本はどうして出版しようと思われたんですか?

以前にもコミュニケーションの本を出させていただいておりまして、ありがたいことに好評だったんです。その時も、「売れる本を作ろう」というよりも、「読んだことの無い本を作ろう」と思っていました。僕はもともとガチオタでコミュニケーションが苦手。だから、アナウンサーとしては恥ずかしい話かもしれませんが、話し方の本もめちゃくちゃ読んでいたんです。そしたらそこに“自信を持ちましょう”とか書いているんですよ。ちょっと待って、それで自信が持てるなら困らないよ! って思って(笑)。本当のことが書かれたものに出会えないな、というところからかつての自分の役に立つ本を書こうと思って前回の本『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)ができました。

とはいえ、その時の本も書いた文字数の半分以下になっているんです。それに、まだまだ書いていないこともあるし、自分の中ですべてが解決できたわけでもなかった。世の中にコミュニケーションに困っている人はまだまだいますからね。それで、コミュニケーションに困っている人を集めたサロンを期間限定で開いて、そのリアルな悩みを解決する過程を本にしよう、というアイデアが浮かんだんです。そのアイデアを、お話を持ってきてくださった出版社にしていたんですが、ほとんどの方はフワッといなくなってしまって。めんどくさそうだったんでしょうね(笑)。唯一、アスコムさんだけがやってくれて、今回の本の形にすることができました。

■「話題」ではなく「質問」を探す

――まさに教科書のように、共感できるような悩みと実践的に使えるテクニックが詰まった一冊だと思いました。会話な苦手な人は、何を会話のきっかけにしたらいいのか分からず、気まずくなってしまいがち。吉田さんは、話題を選ぶ時に意識されていることはありますか?

そういう場合、よく「天気の話」って言いますよね。それはあながちおかしなことじゃないんです。誰でも共有できて、責任者もいないので人を傷つけずに済みます。ただ、天気の話をして、それを先に進めるのって難しいです。

――確かに「今日はよく晴れましたね」『そうですね』くらいで、会話がすぐ終わってしまう感じがします。

そうですよね。ここで、ひとつテクニックを。話題はすべて質問にしたほうがいいんです。アナウンス業界だけでなくいろいろなところで言われていることですが「木戸に立ちかけし衣食住」という、「気象」「道楽」「ニュース」「旅」「家庭」「健康」「仕事」と衣食住の頭文字をとってできている、話題作りの基本のテーマをまとめた言葉がありますが、これを単純に持ち出しても会話になりません。例えばスーツを着ている方なら、「今日はスーツだと暑くないですか?」など、質問にすると会話が続きます。全部質問で返せれば、会話は終わりません。

――話題を探す、というよりも、質問できることを探す、という思考転換ですね。

人間は群れの生物ですから、コミュニケーションが取れないことは本能的につらいです。そういう意味で、一緒にいる間に一度も気まずくならなければ“勝ち”。会話はそういうゲームなんです。そのルールに則って、効率的な戦法を考えたんですね。スポーツで例えるなら、一方的に自分がしゃべることって、ずっと一人でドリブルしている感じ。それは自分も疲れるし、周囲の人も飽きてしまいます。会話はパスを出すべきなんです。そのパスが、質問です。エレベーター内の30秒なのか、それとも上司と1週間の出張なのか、状況はいろいろですが、僕は一緒にいる間一度も気まずくならないことだけを目指して、会話をしています。

――会話とは「気まずくならないゲーム」だと考えると、何か面白いことを言わなきゃ、オチをつけなきゃ、みたいな考えから抜けられそうな気がします。

会話というのは、自分のことを表現する場ではないと僕は思っています。コミュニケーションの目的は“コミュニケーション”。例えば経済的に大成功を収めても、誰ともコミュニケーションが取れていない、誰とも仲良くできないなんて何の意味も無くないですか? 気まずくなる時って、フラットな関係じゃない感じがする時ですよね。例えば相手を議論で打ち負かしたり、相手より自分が優れていることを示したりを、会話で目指すべきじゃないんです。ずっとパスを回し続けて、お互いに楽しかったね、となればOKなんです。会話は勝ち負け、対戦型じゃなく、協力型のゲーム。このゲームで、ゴールを決める必要はありませんからね。


新刊『元コミュ障アナウンサーが考案した会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』

会話の「気まずい」「こわい」「嫌われたくない」を卒業できる! 元コミュ障アナウンサーが“30秒の会話もつらい”という人に向けて、一番やさしい会話術を紹介。すぐに使えるテクニックを多数掲載する。ニッポン放送アナウンサー吉田尚記氏著、アスコムより上梓されており、価格は税別1,500円。


■吉田尚記

1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。ラジオ番組でのパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など幅広く活躍。またマンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人となるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。著書に『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)、『あなたの不安を解消する方法がここに書いてあります。』(河出書房新社)など。
Twitter : @yoshidahisanori