アーカイブを活用するメリットは予算面だけではなく、クレーム予防という側面も見逃せない。

現在フジテレビが手がける番組は常に「人権を侵害していないか」「これはハラスメントではないか」という厳しい目にさらされている。しかし、アーカイブの場合は「昔の映像だから」とある程度スルーしてもらえるだろう。

また、今回は冒頭に「この番組は、志村けんさんのコントの足跡をたどり志村さんの歴史の集大成を視聴者の皆様と振り返るという主旨で制作しており、当時の映像をそのまま使用しております。」というテロップを表示させていたこともあってか、批判の声は少なかった。

「過去映像とはいえフジテレビはなりふり構ってる場合ではない。もっとやれ!」というコメントもあったように、単純に笑える番組を求めている人は多い。もちろん選んだ映像や編集が面白くなければ、「人権侵害?」「ハラスメント?」などの批判を受けやすいだけに、作り手のセンスが問われている。

そもそもアーカイブを生かした番組は「ひさびさに見ても面白い」のが前提条件であり、選択や編集を間違えなければ「何度見ても面白い」ものでもある可能性が高い。「ポジティブなマンネリ」として楽しんでもらえるため、うまく活用できれば当面の苦しい時期はしのげるのではないか。

また、それらを放送する上で見逃せないポイントは、フジテレビが民放主要4局のゴールデン・プライム帯で唯一、レギュラーの特番枠を持ち、しかも『土曜プレミアム』(土曜21:00~)、『カスペ』(火曜20:00~)と2つもあること。

これまで特番が「フジテレビのバラエティは面白い」というイメージを作り、レギュラー番組の供給源にもなってきたのは間違いないだろう。それだけに苦しい現在においても、いかにこの特番枠を有効活用して「やっぱり面白い」「今後も期待したい」と思わせられるかが大切ではないか。

鍵を握る重点投資する番組の選択

もちろんアーカイブの活用ばかりではすぐに飽きられ、「過去の遺産にすがる」などと揶揄(やゆ)されてしまうだろう。

新規コンテンツを作ることが予算・人員的に難しいのであれば、どうしていけばいいのか。既存番組の中から「これ」というものに絞って予算を投入していきたいところだ。言わば「制作費のメリハリをどうつけていくか」がこれまで以上に問われている。

ネット上に「今年は難しいのではないか」という声が出ていた『ENGEIグランドスラム』の3月8日放送が発表されたとき、Xのトレンドにランクインし、歓喜の声が上がっていた。次の放送が待望される『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』『IPPONグランプリ』『THE CONTE』なども同様の現象が起きるかもしれない。

既存特番でも予算の削減は避けられないが、「こういうときだからこそ放送することに意義がある」というコンテンツを多数持っていることもフジテレビの強みだろう。ロケへの協力要請にも支障が出る中、「スタジオで完結できる」などの条件も含め、重点投資する番組の選択が人々の印象や愛着を左右していくのではないか。

それがうまくいけば、悩ましい日々を送る社員にも「フジテレビはやっぱり面白い」「まだまだ大丈夫ではないか」というポジティブなムードが生まれるかもしれない。同局の人々と取材や雑談で話していると、「そこまで言われるほど悪い会社ではないと思う」「自分も周囲も悪いことはしていない」と悔しさを漏らす人がいて、彼らにとっても笑いのある番組は必要に見える。

第三者委員会の調査結果を筆頭に先行きは不透明だが、視聴者に笑いをもたらし、「バラエティのフジ」を印象付けておくことは重要だろう。