一部のライブ配信に不具合が発生したり、画質の悪さを訴える声があがったりするなどの問題点こそあるが、これらは回を追うごとに改善されていくのではないか。

TVerの配信再生数はいまだに右肩上がりで伸びているが、日ごろ放送している番組だけでなく、「4年に一度のビッグイベントで、さらにできるだけリアルタイムで見たいライブコンテンツですら、放送ではなく配信で見る」という習慣化が迫っている。「配信で五輪を見る人が一気に増える」という意味で、のちに「パリが配信で五輪を見る分岐点だった」と言われるかもしれない。

五輪のテレビ放送については、ネットの活用率が低い世帯、なかでも昭和時代から見続けてきた中高年層にとってのものになっていくのではないか。もし年齢層が下がるほど五輪の関心度が下がり、見るとしてもネット配信を選ぶ人が多数派を占めるのであれば、彼らの動向がスポンサー収入に直結する民放各局としては難しい状況になるはずだ。

ただでさえ五輪は放映権料の高騰に悩まされていた上に、今回のように時差があると視聴率も獲りづらい。それでも民放各局にとっては、五輪特番の放送や、朝から夜まで情報番組などで大々的に扱えるといったメリットもあり、NHKに頼る形になってもジャパンコンソーシアムでの放送を続けていきたいところだろう。

では、現在五輪はエンタメの中でどんなポジションのコンテンツなのか。

そのポジションは、どこかテレビの置かれたところと似ている。かつては全国民が熱狂するものだったが、徐々にその影響力が薄れ、しかし、コンテンツとしての話題性と熱狂は依然トップクラス。個人もメディアも「テレビ離れ」という言葉を使いたがるが、それでもテレビの話題はネット記事でもSNSでも、まだまだトップクラスであることは変わっていない。

五輪も以前と比べれば現在は「五輪離れ」と言われるかもしれないが、それでもトップクラスのコンテンツであることは不変。さらに、ネットの普及で「若年層の興味関心が薄れている」「アンチが否定的な声をあげやすくなった」などの逆風も同様に似ている。特に今回のパリ五輪では「“にわか”として見るくらいなら自分の“推し活”を楽しみたい」というニュアンスの声が少なくない。

“長時間生放送”のニーズアップ

それでも個人の価値観や好みが細分化された令和の社会において、これほど多くの人々が一緒に見て盛り上がれるコンテンツはなく、各局にとっては貴重というほかない。

折しも13日に『音楽の日2024』(TBS)、20・21日に『FNS27時間テレビ』(フジテレビ)が2週連続で放送され、どちらも例年以上のポジティブな声を集めたばかり。どちらも長時間の生放送であり、ライブコンテンツの面白さやテレビの底力が称えられたが、五輪はその最高峰だけに「あらためてどのように見せて視聴者を喜ばせていくのか」を考え直す時期のように見える。

例えば、以前から何度となく批判されてきた「実況がうるさい。名言狙いのフレーズが冷める」「日本人ばかりで、世界トップの試合を放送しない」「安易に感動のストーリーを作り上げて押し付けている」「レポーターやゲストの人選がズレている」などが改善されるムードはない。

果たして、現状のほうが視聴率を獲れるのか。もっと現在の視聴者から支持を集められそうな方法はないのか。若年層の個人視聴率を獲りたいのに、昭和時代から変わらぬ方法を続けていいのか。そもそも五輪が好きな中高年層もこれらを求めているのか。

もはや「視聴が放送から配信中心に変わっていく」という流れは避けられないだけに、パリ五輪をきっかけに検証・改善していくべきタイミングに見える。