それを象徴しているのは、『夜の巷を徘徊する』も『タモリステーション』もマツコとタモリが現地の人々に声をかけて話を聞くシーンが多かったこと。マツコもタモリも、自分のトークやリアクションはスポットや人を引き立てるためのものであることを分かっていて、「うまいことを言おう」「爪跡を残そう」などの発想がないことを視聴者に感じさせている。

どちらも謙虚な引き立て役に回っていることを確認させられたのは記念撮影のシーン。マツコは訪れた地元名物コンビニ「立山サンダーバード」の店主たちとの記念撮影に応じ、その際「お父さん、マスク取って」と気さくに声をかけていた。また、タモリは外国人から記念撮影を求められて応じたが、「目当てはタモリではなく撮影クルー」であり、それを見て楽しそうに笑っていた。

今春、『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京)の撮影トラブルが大きく報じられたように、ロケ先でのリスクは以前と比べものにならないほど格段に上がっている。多少の配慮不足でもスマホで即投稿されてしまう危うさがあるほか、タレントのちょっとした振る舞いがやり玉にあがるケースも少なくない。その点、多くの人々から「常識人」「気配りのできる人」という印象を持たれているマツコやタモリへの安心感は厚く、トラブルのリスクを下げられる。

逆にMCを務めるほどの大物タレントの中には「街中でのロケで現地の人々から撮られるのが嫌」という人もいるという。ロケには「隠し撮りされてもある程度は仕方がない」という前提のようなものがあり、一般人と接する難しさや危うさが付き物だけに、「大物なら誰でもいい」というわけではないのだろう。

ウソをつかない、忖度しない信頼感

そしてもう1つ忘れていけないのは、マツコとタモリへの「ウソをつかない」「忖度しない」という信頼感。楽しいときには楽しそうにし、そうでもないときは無理に笑わない。2人が何に反応し、何に笑顔を見せ、何を称えるのか。そんなシンプルな楽しみ方ができることがゴールデンの単独ロケ特番が成立する最大の理由かもしれない。

さらに、「一般教養や文化への理解がある」という信頼感も見逃せない。ローテンションながら知的好奇心が旺盛で、日本が好きというムードがにじみ出ていて、それでいて知ったかぶりはしないという人柄への信頼が2人の番組を見る裏付けとなっている。

実際、「タモリが調査 外国人観光客は盛岡のココに感動したBEST10」というコーナーがあったが、『ブラタモリ』(NHK)で全国を巡っていたことも含め、「タモリのお墨付きなら」という説得力が感じられた。