もちろん制作サイドとしては、ただ過激な濡れ場で押し切ろうというわけではない。『離婚しない男』は伊藤淳史演じる主人公の奮闘や水野美紀演じる弁護士の笑い、『買われた男』は女性ゲストの悩みと癒やされる姿など、他の要素を入れてエンタメ性を高めたり、共感を誘ったりなどの工夫でバランスを取り、見応えを作っている。

これは過激な濡れ場が付き物だった“不倫ドラマ”でも同様。性的なシーンだけではなく、献身的な純愛やセックスレスなどの社会性をセットで描いてバランスを取り、見応えを作るのがセオリーとされてきた。

いずれもプロデューサー、演出家、脚本家らクリエイターとしてのプライドであり、意地であるようにも見える。そもそも「数字を獲る」ことと「クリエイティブ」「社会性」の両立はドラマ制作で目指すべきところだが、過激な濡れ場を扱うことで、さらに「それを心がけなければ」という意識は高まるのかもしれない。

しかし、前述した作品が「最適なバランス」「両立できている」とまでは思われていない感がある。それは劇中の濡れ場だけでなく、タイトルにも過激さが及んでいることからも分かるのではないか。

今期で言えば、『買われた男』に加えて『あなたの恋人、強奪します。』(ABCテレビ)も過激なタイトルの作品。さらに前期は『瓜を破る~一線を超えた、その先には』(TBS)、前々期は『くすぶり女とすん止め女』(テレ東)、『帰ってきたらいっぱいして。』(読売テレビ)、『18歳、新妻、不倫します。』(テレ朝)、『こういうのがいい』(ABCテレビ)と、濡れ場をイメージさせるタイトルがあった。

これらを見る限り、「いかに作品の入口から過激さを感じてもらうか」という意識が強くなっているのは間違いないだろう。ただ、もともとドラマに限らず「刺激を優先させたコンテンツは慣れられやすく、飽きられて長く持たない」のは業界のセオリー。なかでも過激な濡れ場のような賛否の声が強いコンテンツは、さらにその傾向が強く、民放各局の制作サイドはそれを知っているはずだ。

  • 武田玲奈

    『あなたの恋人、強奪します。』武田玲奈

  • 久住小春、佐藤大樹

    『瓜を破る~一線を超えた、その先には』久住小春(左)と佐藤大樹 撮影:蔦野裕

俳優へのサポート体制は万全か

そのため、もし今後の夏ドラマと秋ドラマ、年明けの冬ドラマで、過激な濡れ場がエスカレートしていったら、それだけ制作サイドが「配信再生数を欲しがっている」ということであり、同時に「他のアイデアがない」ことの裏返しにもなってしまう。

現状、配信再生数は「好結果しか報じられない」「他作と比較されづらい」という民放各局にとって都合のいいものであり、決してフェアなデータとは言えないものに留まっている。このようなフェアではない数字を獲るために過激な濡れ場を量産するような事態が続けば、人々の反発を招いてしまうかもしれない。

そしてもう1つ、ふれておかなければいけないのが、演じる俳優たちへのサポート。濡れ場では心身両面でのケアが求められるだけでなく、「本当にこのセリフや演出は必要なのか」「必要以上に露出しすぎではないか」「スタジオの人数が多すぎるのではないか」などの疑問を抱かせないようなコミュニケーションが求められている。

しかし、ドラマや映画の撮影現場における性的シーンで俳優をサポートする“インティマシー・コーディネーター”の導入はまだまだ不十分。『東京タワー』は導入が報告されているが、インティマシー・コーディネーター自体が少ない上に、深夜帯のドラマには予算面での難しさもある。

制作サイドは「服を着たままで」「服の上からだから」「声だけでOK」「暗い場所で撮る」などとあの手この手で不安を取り除こうとしていくのではないか。しかし、それでもハラスメントなどとは紙一重のリスクがあり、繊細な対応が求められるだろう。