連ドラの企画は、主に「オリジナル」と「小説・漫画・ノンフィクションらの原作アリ」の2パターン分かれるが、視聴者にとっての理想は前者。「ネタバレがなく、考察などを楽しめる」「原作のイメージを損なう不安がない」などの理由からオリジナルを支持する声が圧倒的多数と言ってもいいだろう。
一方、テレビ局にとっても、近年はオリジナルの重要性が増している。オリジナルは、原作アリのような脚色などの制約がないほか、「週1回×10話前後」という連ドラ仕様に特化した脚本作りが可能。例えば、考察で盛り上がるのが当たり前になった今、オリジナルなら『VIVANT』のように多くの謎や伏線を仕掛けやすい。
さらに、「シリーズ化、映画化、海外配信を見越した作品にしやすい」「グッズ販売やイベント開催などがしやすい」などのメリットもあり、そもそも原作となる小説や漫画の争奪戦が回避できる上に、出版社や原作者との度重なるやり取りや許諾も不要。自局主導で自由かつスピーディーに意思決定し、より多額の収入を得ていくためには「いかにオリジナルを手がけられるか」が重要となっている。
そんな背景に拍車をかけたのが、昨秋に放送された『silent』(フジ)の大ヒット。歴代最高の配信再生数を叩き出し、「TVerアワード ドラマ大賞」に輝いた同作の脚本は、前年の「第33回フジテレビヤングシナリオ大賞」で大賞を受賞したばかりの生方美久によるものだった。
もともと新人脚本家に期待されているのは、コア層(13~49歳)に近い感覚で書く人間ドラマ。実際、生方美久が『silent』で見せたみずみずしいセリフや感情の描写は、中堅・ベテランには見られない鮮度があった。彼女を抜てきした村瀬健プロデューサーとの関係性もあって、「もっと脚本家を発掘・育成していくべき」というムードが業界内で高まっている。
今夏も『真夏のシンデレラ』(フジ)の脚本に、昨年の「第34回フジテレビヤングシナリオ大賞」で大賞を受賞した市東さやかを抜てき。また、『ハレーションラブ』(テレ朝)の脚本も、昨年の「第22回テレビ朝日新人シナリオ大賞」で大賞を受賞者した若杉栞南が抜てきされた。
これまでシナリオコンクールに消極的で、主に「『フジテレビヤングシナリオ大賞』の受賞者頼り」になりがちだった日テレとTBSにとっては、「もはやそれだけでは不十分な時代に突入した」のではないか。
■「ヤングシナリオ大賞」の偉大な功績
連ドラの脚本家には、「週1回×10話前後で見せる」「途中でCMが入り、オープニングやエンディングなどを含め、正味47~48分でまとめる」「全話を通したテーマに加えて各話の盛り上がりを作る」「表現の幅が放送時間帯やスポンサーなどによって異なる」などの小説家や漫画家とは異なるテクニックが求められる。
それらのテクニックに最も詳しい現場のプロデューサーや演出家がコンクールで発掘した人材を育成することで、早期の起用が実現できるほか、強固な関係性を築くことが可能。「そのプロデューサーや演出家の意向を踏まえた脚本が書ける」「人気脚本家になったあとも、自局で優先的に書いてもらえる」などのメリットも期待されているという。民放各局だけでなく国内外の動画配信サービスも含め、“稼げるコンテンツ”として連ドラの需要が高まる中、「いかに将来性のある脚本家を発掘・育成し、良い関係性を築いていけるか」が問われている。
コンクールの数が増え、受賞者に活躍の場が増えれば、おのずと脚本家志望者も増えて競争が激しくなり、連ドラ自体のレベルも上がっていくだろう。そのようなテレビに限らず、日本のコンテンツ業界全体にとって好ましい状況が生まれたのは、「フジテレビヤングシナリオ大賞」の奮闘が大きい。
他局がシナリオコンクールに消極的な中、同賞は1987年から37年・35回にわたって開催され、坂元裕二、野島伸司、尾崎将也、橋部敦子、浅野妙子、金子ありさ、いずみ吉紘、安達奈緒子、武藤将吾、金子茂樹、大島里美、古家和尚、黒岩勉、野木亜紀子、倉光泰子らのトップ脚本家を輩出。さらに『危険なアネキ』で金子茂樹、『ラブソング』で倉光泰子を「月9ドラマのオリジナル作品で連ドラデビューさせる」などの実績も含め、苦しい時代もシナリオコンクールを高い次元で守り続けてきた。
ちなみに、「テレビ朝日新人シナリオ大賞」も2001年から23年連続で開催しているものの、歴史や実績、抜てきや後の活躍などの点で「フジテレビヤングシナリオ大賞」に遠く及ばない感がある。また、TBSと日テレがシナリオコンクールに消極的だったことで、業界全体の発掘・育成が遅れ、10年代から現在にかけて「50~70代の脚本家がゴールデン・プライム帯の多くを占める」という高齢化が常態化していた。
それだけに今年主要4局のシナリオコンクールがそろった意義は深く、どんな脚本家が発掘され、各局で育成されていくのか楽しみでならない。