2021年4月の番組スタートから約2年3カ月、『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系、毎週火曜19:00~)が、11日の放送で100回目を迎えた。

時代を問わずグルメはテレビ番組の鉄板テーマである一方、「それ1本で勝負」するグルメ番組は少ない。実際、ゴールデン・プライム帯のバラエティで、グルメはメインコーナーになることが多いが、純粋なグルメ番組と言えば『オモウマい店』と『バナナマンのせっかくグルメ!!』(TBS)くらい。それだけ人気のテーマでありながら、専門の番組として放送するのは難しいのだろう。

しかも『オモウマい店』のリポートは『せっかくグルメ!!』のような人気タレントではなくディレクターが行い、制作はキー局の日本テレビではなく、名古屋の中京テレビが行っている。

初回から100回目の放送まで高視聴率をキープし、「2020年代にスタートした新番組の中で最も成功した番組」と言われている理由は何なのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • 『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』MCのヒロミ(左)と小峠英二=7月18日放送の2時間スペシャルより (C)CTV

    『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』MCのヒロミ(左)と小峠英二=7月18日放送の2時間スペシャルより (C)CTV

■ディレクターの奮闘ドキュメント

番組のコンセプトは、『オモウマい店』というタイトル通り、“オモてなしすぎでオモしろいウマい店”の発掘・紹介。料理が「ウマい」という一点のみではなく、デカ盛りやサービスなどの「オモてなし」、店主やスタッフの人柄や生き様などの「オモしろい」を絡めて笑いや感動に誘っている。

この番組の魅力を語る上でのポイントは、主に以下の3つ。

まず1つ目のポイントは、グルメに人物ドキュメンタリーを掛け合わせた“ヒューマングルメンタリー”であること。名物料理を紹介するのはもちろんのこと、それを作る店主やスタッフ、店そのものにクローズアップし、長期ロケで追い続ける構成は、他のグルメ番組やコーナーとは一線を画している。

さらに、その人物ドキュメンタリーの要素を実現させているのは、現場のディレクターたち。彼らが繰り返し店を訪れ、時には滞在するほど時間と労力を割いているからこそ、店主らとの信頼関係を深められ、「ウマい」だけでなく「オモしろい」映像が撮れるのだろう。リポーターをタレントやアナウンサーが務めるグルメ番組やコーナーでは見られないものであり、彼らの奮闘が“ヒューマングルメンタリー”という唯一無二の映像を実現させている。

  • 膨大な取材映像が収められたハードディスク群

  • 山形のオモウマいそば屋「ふくろう」の尋常ではないお土産が並ぶ中京テレビの制作フロア

■常識を覆す視聴者目線の演出

次に2つ目のポイントは、グルメ番組やコーナーの常識を覆すような視聴者目線での演出。例えば、気になる店を発見したときから、撮影交渉、厨房の調理をのぞき見、一般客の食事風景ものぞき見、店主やスタッフとの雑談、プライベートの密着までの映像が視聴者目線で撮られているため、実際に店を訪れたような気分になれる。

なかでも象徴的なのは、一般客の食事をのぞき見するように撮られたシーン。『オモウマい店』のように、「タレントでもディレクターでもなく、一般客が食べる姿をたっぷり映す」という演出を採用するグルメ番組やコーナーは少ない。その理由はテレビマンたちが、撮影の手間が増えることに加えて、「素人の映像では毎分視聴率が下がる」などと考えるからだが、この番組はその不安がないのだろう。

例えば、調理や盛り付けの映像をアップでじっくり見せたあとに、一般客がおいしそうに食べるシーンをのぞき見してもらうことで、「自分が食べているような気持ちになってもらおう」というカメラワークの意図がうかがえる。逆にありがちな「スタジオで人気タレントに試食させる」というシーンを行わないことからも、視聴目線を重視していることが分かるのではないか。

視聴者目線の臨場感は、隠し撮りや定点観察のようなカメラアングル、「映像が揺れてもボケてもそのまま放送する」などの演出にも見られるなど、やはり番組の肝なのだろう。さらに時折はさまれる“店主とディレクターの絆”という、もう1つのドキュメントで笑いや癒やしを加えていく演出の多彩さも、『オモウマい店』ならではの強みだ。近年、出役としてこれほど視聴者の共感を集められるディレクターがいただろうか。