11月1日スタートの有料動画配信サービス「DOWNTOWN+」の加入者が50万人を突破したと報じられた(スポーツ報知、11月13日付)。

ネットメディアはおおむね「好発進」というポジティブなムードで取り上げ、なかには「100万人突破」を有力視するものや、テレビ局とバラエティの危機をあおるような記事も少なくない。

しかし、そもそも50万人や100万人とはどんな段階の数字なのか。さらに、今後どんなことが成否のカギを握りそうなのか。そして、「DOWNTOWN+」はどんなポジションのコンテンツで、何がテレビバラエティと違うのかの本質に踏み込んだものは見当たらない。

業界内でもさまざまな見解が飛び交っているが、そのリアルな現在地点をどこにも忖度せず、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功

    ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功

目指す数値は地上波のトップか

まず50万人という数字について、松本が動画の中で「完全に勝ってやりましたわ」などとコメントしていた。また、ネットメディアも「20日で加入者50万人突破」(スポーツ報知、同)、「予想外の上振れ」(女性セブンプラス、11月13日付)、「さらなる拡大を“後押し”する2つの重大要素」(ピンズバNEWS、11月16日付)などの見出しをつけて報道。

ただ、フラットな立場から冷静に見ると、「ダウンタウンの初動としてはそれなりのスタートを切った」という程度ではないか。

日本の人口は約1億2300万人であり、もし1つのアカウントで2人見たと仮定しても100万人程度に過ぎず、単純計算で123人に1人程度。今後、浜田雅功の合流などで100万人に到達したとしても、200万人で123人に2人程度でしかない。

ちなみにビデオリサーチの推計によると、地上波の総合視聴人数(平均)では、ドラマトップの朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)が約1300~1400万人、バラエティトップの『ポツンと一軒家』が900~1000万人、スポーツトップの『ワールドシリーズ第6戦・ドジャース×ブルージェイズ』(NHK総合)が1100~1200万人。「DOWNTOWN+」が国民的なコンテンツとなるためには、これらと同レベルの視聴者数が必要なのかもしれない。

一方、「DOWNTOWN+」と同じ有料動画配信サービスのNetflixは約1年前に国内加入者数1000万超えを発表したが、それでもヒットしたとされている『イカゲーム』『地面師たち』などのコンテンツを見たという人は限定的。有料会員同士の話題に留まり、地上波ドラマのような国民的ヒットの盛り上がりは生まれていない。

そんな限定的な盛り上がりは「PVが見込めない」ことからネットメディアが記事を量産しなかったことが裏付けとなっている。ただ、それは決して質や面白さの問題ではなく、それだけ「有料の壁が大きい」ということだろう。だからこそNetflixは来春のWBC独占配信が重要であり、前回大会のような国民的な盛り上がりを見せれば有料コンテンツへの心理的なハードルが下がり、「DOWNTOWN+」にもポジティブな影響を与えるのではないか。

名前は伏せるが、複数の関連記事を報じた5つのウェブメディアに「『DOWNTOWN+』の記事はどれくらいPVを取れたか?」と質問してみた。すると編集者全員が「あまり数字が取れない」などと答えている。多くのウェブメディアが「PVが取れる」と記事を量産したこともあって、需要に対する供給過多の感は否めない。

つまり、現段階では「DOWNTOWN+」を見ていない人々が大多数であり、関連記事を見るとしても1つか2つ程度ということ。日本国内における「見たい人が金を払って見る」コンテンツの視聴者数と影響力はまだまだ限定的であり、その“有料の壁”を壊すことが松本の最大目標にも見える。

松本自身“地上波病”を治せるのか

「DOWNTOWN+」が有料の壁を壊すための最低条件は、「多くの人々が同時に楽しめる大衆性」と「ここでしか見られない独自性」を併せ持つコンテンツであること。

その点、現在配信されている『漫才INTERNATIONAL』『松本教授の笑いの証明』『Money is Time』『芯くったら負け! 実のない話トーナメント』『7:3トーク』『大喜利GRAND PRIX』などを見る限り、地上波のバラエティに近いベースと、お笑いマニア向けの切り口を感じさせられる。地上波より表現の幅は広く、切り口のオリジナリティがうかがえる一方で、トークやネタのコンセプトや出演者はテレビバラエティと似たものに見えてしまう。

これは長年テレビで活躍した松本やスタッフが手がけていることから当然かもしれない。コンプライアンス遵守や視聴率獲得などの縛りがない分、前のめりな姿勢が推察されるが、「本当に見たことがない笑い」「驚きのある笑い」などを見せていかなければ有料の壁を壊すことは難しいのではないか。松本は生配信で「芸人やタレントが“地上波病”」などと語っていたが、それは自身にとっての課題と言えるのかもしれない。

また、『DOWNTOWN+』は、オリジナルが水曜と金曜、アーカイブが月曜に配信され、さらに月1回程度の生配信が予定されているが、「月を追うごとにコンテンツが蓄積されて量が増えればいい」というわけではないだろう。

そもそもエンタメコンテンツの利用者は、“量を求める人”と“自分に合うものだけを求める人”に二分される。後者は「量が増えて選ぶ手間も増えることを嫌う」という人も多いだけに、有料の『DOWNTOWN+』に求められるのは質の高い新規コンテンツ。一定の“量”がそろう半年後あたりから、新規コンテンツの“質”が1つ1つ求められていくように見える。