テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は前回に引き続き、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、中小ベンチャーの「戦略策定」について語ります。


CFO8マトリックスで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

今回は、本連載テーマ「中小ベンチャーの成長マネジメント」、前回の「中小ベンチャーの成長マネジメントにおける「戦略策定」(前編)」に続く、「戦略策定(後編)」です。

成長戦略・全社戦略の立て方

前回、経営戦略(事業戦略)を立て終えたあなたのパン屋は無事に船出をしました。しばらくするとあなたのパン屋は地元で大評判になり、一定の成功を収めます。さて、あなたは次に何をしますか? あなたは考えます。もっと生産量を増やそうか。それとも2店舗目を出そうか。それとも隣接する敷地にカフェを併設しようか……。

こうした事業拡大、あるいは多角化の方向性を考えることが、企業の典型的な成長戦略になります。では企業をどの方向に成長させるべきかと悩んだ時、たとえば「アンゾフのマトリクス」というフレームワークにあてはめてみることも有効でしょう。

「アンゾフのマトリクス」は、「製品」と「市場」を「既存」と「新規」にそれぞれ分けた2×2のマトリクスで、成長戦略として、既存製品に既存市場でさらに勝負する「市場浸透戦略」、既存商品を新規市場で拡大しようとする「市場拡大/市場開拓戦略」、新規製品を既存市場で仕掛ける「新商品/サービス投入戦略」、新規製品を新規市場でトライする「多角化戦略」の4方向の戦略オプションを取りこぼしなくシステマティックに探索することができるフレームワークです。

こうした成長戦略により拡大し多角化していく事業群をどうマネジメントしていくか、事業ポートフォリオなどを組みながら具体的に考えていくのが全社戦略になります。

上図は、米国発の戦略コンサルティングファーム、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の考案したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)です。詳細な説明は割愛しますが、自社の事業を「市場成長率」と「相対的マーケットシェア」で分類してみることで、どの事業に集中すべきか、どの順で展開していくかを考える大きな助けとなります。

事業戦略が実現できている状態

ところで、事業戦略が実現できているとはどういう状態のことを言うのでしょうか。

漠然としたイメージとしては、ヒトやカネなどリソースを投入すればするほど儲けが増える状態があげられます。すなわち「収益モデルが確立できている状態」です。事業戦略とは、つまるところこの状態を目指すものと言えます。

この「事業戦略が実現できている状態」を作り、維持し続けるには、以下の3つの要件が担保できている必要があります。

まずひとつには、UE(ユニットエコノミクス)が成立している状態であること。ここでUEとは、ビジネスの最小単位における収益性のことです。つまり「UEが成立している状態」とは、1単位当たり、たとえば車なら1台あたり、パン屋なら1店舗あたりの収益が黒字になっている状態を意味します。会計用語で売上高から材料費などの変動費を引いたものを限界利益といいますが、私の感覚的には限界利益の3分の1で直接人件費を賄えている状態がUEが成立している状態であるように思います。たとえば売上が400万円上がっている企業で、材料費など売上に応じて変動する費用が100万円かかっているなら、限界利益は300万円。この企業の直接人件費が100万円以内におさまっていれば、この企業のUEは成立しており、未来に向けて成長し続けられるというイメージです。これがたとえば限界利益の半分ぐらいの直接人件費がかかっていると、この上に他の固定費(賃料や管理部門の経費等)もかかってきますので、企業全体の黒字は難しいような気がします。

もうひとつは、UE(ユニットエコノミクス)を達成する方程式が存在していること。UE(ユニットエコノミクス)とは計算式ですから、この計算式の黒字状態を維持するための基準売上高が達成でき、かつ商品やサービスのデリバリーコスト(変動費)を基準値内に収める方法論が確立されていなければなりません。

以上2点をクリアしていれば、その企業は基本的にどんどん収益を上げていける状態にあるわけですが、加えて必要なのが、リソースが調達できる状態にあることです。成長にあわせて適切なタイミングで資金が調達できるか、人を採用できるかも大切なポイントとなってきます。

そしてこうした成長状態が持続する大前提として、「Product Market Fitが成立していること(その商品やサービスが市場に受け入れられている状態が続いていること)」、そして「市場が天井に達してないこと(UEは成立しているがまだ上限ではなく更なる市場のニーズが存在していること)」の2点も必要です。

こうした事業戦略の策定過程を、CFOは、CEOや経営陣に寄り添いながら、論理的合理的な策定を促すべくリードないしフォローしていきます。そして「事業戦略が実現できている状態」を持続させるためにUE達成のための収益モデルを描き、CEOとともに適宜リソース調達を行います。一方、COO以下は、実際にUE達成のための方程式(売上達成、コスト削減)を達成していく推進者、という役割分担になってくるのではないでしょうか。