テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、インドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が「FIRE」について紹介します。

  • 人生100年時代にFIREを目指す空虚さ

改めて知りたい「FIRE」とは

「FIRE」とは、「経済的自立」を意味する「Financial Independence」と、「早期リタイア」を意味する「Retire Early」を組み合わせた造語です。読み方はファイアで、「F.I.R.E」と表記されることもあります。

自由を求める若年層や閉塞感を抱えている30代、40代を中心に、早期リタイアして経済的な自立を目指す新しい生き方として2020年頃からブームになっています。

FIREにおける基本ルールは、「25年分の生活費を用意して、それを年利4%で運用すること」です。例えば、生活コストが年間400万円であれば、1億円の資産を築いて年利4%で運用益を得れることで、理論上は資産を維持したまま暮らしていけることになります。年に300万円使うとすれば7,500万円の資産で済みます。4%という数字の根拠は、アメリカのS&P500の成長率7%から、アメリカのインフレ率3%を差し引いたものです。

2020年から2021年に注目が集まったFIRE

FIREブームの背景には、新型コロナウイルスの感染拡大による働き方の変化や価値の変化があったでしょう。「ライトなFIRE」「プチFIRE」「20代・30代から考えるFIRE」「50代・60代のFIRE」など、幅広い世代に向けたFIRE関連書籍やメディア記事、新たな言葉が量産されました。

ライトFIREとは、厚生年金を得ながら会社を辞めるパターンです。パート・アルバイトで厚生年金に加入し、ある程度の自由を確保しながら生活します。メリットには、一定程度の年収が見込めることや、老後資金がショートするリスクを軽減できることが挙げられます。

プチFIREとは、5年ほど早く会社を辞めて、老後前の自由を楽しむパターンです。5年分の生活費を60歳までに貯めておき、60歳で会社を辞めることにします。メリットは、年金や退職金ももらえるので老後を含めたマネープランの見通しが立てやすいことです。

60代でFIREとなると、それはただの早期退職ではないかと思いますが、人生100年時代ではFIREなのかもしれませんね。

人生100年時代にFIREを目指す空虚さ

仕事への価値観や生活スタイルは人それぞれですから、正解はありません。自分なりの正解を出していくしかありません。

しかし、FIRE関連の情報を見ていて感じるのは「仕事への気持ちの薄さ」です。「仕事って、それほどまでに逃れたい対象なのだろうか……」と疑問に思います。

自分の過去を振り返ってみると、小学生の頃に経験した歌舞伎の世界、学生の頃に時間をともにした画家や小説家、映画監督、メディアアーティストなど、いずれも「定年制度」もなければ「リタイア」という概念もない人たちばかりでした。彼ら彼女らにとって、仕事と趣味と生活に境界はなく、すべてが結びつき同一になっています。

「画家は60歳で志し、70歳で自らの道を定め、80歳で事を成し、90歳過ぎたら化け物だ」

という言葉があります。この言葉を知ったのは十代の頃でしたから、「自分は、まだ生まれてもいないのだな」「何にでもなれるな」と感じたものでした。

人生100年時代といわれるようになり、70歳を超えても現役を続ける人たちが増えてきました。高齢になればもちろん、後進のことを考え、終わりを意識して備える必要はあります。ですが、FIREなんて考えずに日々平気に過ごす方が、人生をより豊かにするのではないでしょうか。