テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、中小ベンチャーにおける「事業計画作成」の補足を3つご紹介します。


CFO8マトリックスで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

今回は、前回の記事で取り上げた「事業計画作成」について、押さえておいた方がいい3つのポイントを深堀してみます。なお、本稿は事業計画作成支援ツール開発提供を行う株式会社プロフィナンス 木村義弘代表取締役との議論を基にしたものです。

事業企画、事業計画、経営計画

前回、事業計画を「成長戦略を現実のものとしていくロードマップにあたるもの」と定義しました。事業計画と似た言葉に「事業企画」「経営計画」があります。3つは同じものを言い換えているだけなのでしょうか、そもそも違うものでしょうか?

これら3つに明確な定義がある訳ではありません。しかし、違うものと考えた方がそれぞれの位置づけ、すなわち事業を検討する各段階で考えることをよりハッキリさせられます。

まず、事業企画は「事業の検討初期のコンセプトをまとめたもの」であるところ、事業計画は「実行まで想定したもの=ロードマップ」にあたります。事業企画の主な内容は事業内容や事業環境、想定売上の概算であり、事業アイデアに焦点をあてているのに対し、事業計画は事業計画を深堀ったもの、事業戦略や実行施策、収支計画が主な内容となり、新規事業そのものに焦点をあてていることになります。つまり、事業計画は事業企画の後段階、事業企画を具体化していくために作成するものとなります。

ふたつが事業にフォーカスしたものに対し、経営計画は全社にフォーカスをあてています。すなわち、経営計画は「会社全体の方向性を定めたもの」であり、その主な内容は経営ビジョン、全社戦略、事業戦略、機能戦略、中期経営計画(財務)と広範囲に及びます。経営計画は、事業が、会社が回っている、会社が複数事業を抱えている、全社や事業、機能のバランスを考えなければいけない段階で作成すべきものです。

事業計画の構成要素は3つ

前回、事業計画でどのようなことを盛り込めばいいのかについて、ひとつ目は定性面(ビジョンや戦略、組織、スケジュールなど)、ふたつ目は定量面(1年や数年間の売上や利益など数値計画)と述べました。

今回は違う切り口、事業計画で盛り込まれていること、構成要素は結局何なのかについて補足します。

事業計画の構成要素は3つあります。

  1. 何をするのか?というビジネスプラン(コンセプト)
  2. どう進めるのか?という実行計画
  3. いくら儲かり、いくら必要なのか?という数値計画

事業を作るためには、何をやるのか?、つまりコンセプトが必要です。またそれをどのように実現していくのかということも、実行計画が無いと何もできないため当然必要です。とどのつまり、それって儲かるの?、と数値計画でシミュレーションしておかないといけない。コンセプト、実行計画、数値計画の3つが必要と整理できます。

事業計画のサンプルで代表的なものとして総務省「ICTベンチャー向け事業計画作成の手引き」があります。(前回の記事で紹介した、私が使用する基本様式の16要素は上記の手引きをベースにしたものです)

上記手引きの14要素を整理すると、2~10がビジネスプラン(コンセプト)、11・12が実行計画、13・14が数値計画に該当します。

事業計画では、「何を?」「どのように?」「儲かる?」の3つを考え尽くさないといけないと覚えておくとよいでしょう。

事業計画の意義4つ

最後に事業計画の意義を改めて整理しておきます。

まず、事業計画は自身が推進しようとする事業を「整理するツール」になります。自分の事業アイデアを様々な観点から考察し、リスク・仮説の明確化できます。

次に、他者に共有する「コミュニケーションツール」になります。投資家・銀行への説明に、経営陣・チームへの説明に、事業パートナーへの説明に使うことができます。

3つ目に、事業計画に基づいて実行する「実行支援ツール」になります。現場で実行をすすめる上での指針、検証すべきポイント・論点に関するインプット、達成するべき目標を表すことができます。

最後に、実行してみて最終的にどうだったか、検証して次に活かす「検証ツール」になります。予実差異の確認、仮説としたパラメータの検証、次期計画へフィードバックに活かすことができます。

事業の成長を目指す場合、「目標」(どのくらい成長したいのか?)、「必要リソース(含む外部パートナー)」(成長のために必要な経営資源、ヒトモノカネ情報は?)、「その目標達成に向けた行動に付随するリスク(不確実性とダウンサイド)」を認識することが必要になります。

そのために数字で表現することが必須となります。数字という「具体」で考えることで対象事業について「生々しく」考えることができます。

起業、新規事業に限らず、企業経営では(企業が抱える)事業の成長を目指しているはずです。成長を志向する起業家、事業リーダー、経営者は、定性・定量面から事業アイデアを可視化する「事業計画」を必ず作るようにしてください。