テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が、「適正な労働分配率」について解説します。
「労働分配率」の計算式
自社はどれほど人件費がかかっているのか、他社と比較した時に適正な水準となっているのか、また本来あるべき適正な水準を知りたいと思ったことのある経営者は多いのではないでしょうか。そんな時に役に立つ指標が労働分配率です。
労働分配率とは、企業において生産された付加価値全体のうちの、どれだけが労働者に還元されているかを示す割合のことを言います。これだけでは良く分からないですね。実際の計算式を見てみましょう。労働分配率は下記の計算式で算出します。
労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100
この付加価値の部分が分かりづらいかと思います。付加価値とは、会社が新たに生み出した価値のことで、計算方法には控除法と加算法の2つの方法があります。
控除法:付加価値 = 売上高 – 外部購入価額
加算法:付加価値 = 人件費 + 賃貸料 + 税金 + 他人資本利子 +当期純利益
控除法のほうが簡単に算出することが可能です。控除法で見た時、売上高から外部購入価額を引いて算出するので、損益計算上の売上総利益と同じ金額となります。そのため売上総利益の金額を用いると簡単に算出可能です。
また、人件費の金額もどこまで含めるのか、分からない点かと思います。人件費は法定福利費などの間接的な人件費も含めて考えます。例えば下記のような項目となります。
- 役員報酬
- 給与
- 賞与
- 退職金
- 法定福利費(社会保険料・労働保険料)
- 福利厚生費
- 研修教育費
上記集計した金額の合計を売上総利益で割ることによって労働分配率を算出することが出来ます。
適正な労働分配率について
労働分配率は何パーセントが正解というような数字がある訳ではありません。業種によっても異なりますし、会社が成長段階にあるのか、安定状態にあるのかによっても異なってきます。そのため同業他社と比較して自社の適正水準を見ていくことになります。
労働分配率を業種別で見たい時に役立つ数字として、経済産業省が公表しているデータになります。平成30年企業活動基本調査によると、下記となっています。
業種 | 労働分配率 |
---|---|
ソフトウェア業 | 58.9 % |
出版業 | 67.6 % |
衣服・身の回り品卸売業 | 54.0 % |
飲食料品小売業 | 53.0 % |
飲食サービス業 | 64.0 % |
生活関連サービス業、娯楽業 | 45.2 % |
(経済産業省HP掲載データをもとに集計)
業種によってバラつきがあるのが分かります。人件費をかけなければならない労働集約型の産業に関しては労働分配率が高くなります。
労働分配率ですが、同業種と比較して低いほうが、経営効率が良く利益率が高い会社となります。そのため労働分配率は低くしようと考えがちです。しかし、低すぎると人件費に十分な額が配分されていないこととなり、従業員のモチベーションが上がらず、その結果生産性も上がらない。結果、離職者が増えて優秀な人材を失い企業が衰退する。ということにも繋がりかねません。そのため自社の労働分配率の適正値については効率性や従業員への影響も考慮して検討しなければなりません。