コロナ禍の2年目の夏。エアコン空調により、閉めきった状態になりがちな屋内空間だが、電車、バスといった公共交通機関における換気の状態はどうなっているのだろうか。

前回に続いて、「空調のプロ」として事業者向けの換気のセミナーなどの講師も務める、ダイキン工業 空調営業本部テクニカルエンジニアリング技術担当課長の髙橋弘史氏に見解を求めた。

  • プロが指摘する換気の重要性

電車など公共交通機関の換気対策

筆者の住む、首都圏の通勤通学時の満員電車の車内は、コロナ以前から殺気立っていると感じるほど。テレワークの推進や時間差通勤などで混雑ぶりはむしろ以前よりも緩和されたと感じるが、それでもそれなりに"密"であることは変わっていない。

髙橋氏によると、「電車内の換気に関しては、6~8分ぐらいで完全に空気が入れ替わる換気設備が導入されています」とのこと。したがって「マスクをして黙っている限り、感染のリスクは少ない」と話す。

バスやタクシーに関しては、エアコンを外気導入に切り替えて窓を多少開けることで換気効果が期待できるので、電車と同様、過度に心配する必要はなさそうだ。

一方、学校や病院といった人が集まる公共施設に関しては、学校については注意が必要とのこと。というのも、学校に設置されるエアコンの普及率が上がってきたのはここ10年ほどのことで、以前は夏場に窓を開けている状態がほとんど。換気設備が整っているケースは稀だという。

それに加えて、エアコンは民生用の一般的な設備を後付けで設置されていることが多いという。その状態で、窓を閉め切った状態で、1人あたりの必要換気量の基準値である30立法メートルという数値を満たさないこともあり、「必要換気量を満たせる換気機器を増設するか、または1時間に2回程度の窓開けによる換気は必須」と注意を促した。

  • ダイキン工業 空調営業本部 テクニカルエンジニアリング技術担当課長 髙橋弘史氏

医療施設の換気対策

病院に関しては、個人経営の町のクリニックはケースバイケースだが、自らも感染のリスクに晒されており、医療機関である以上、その意識が低いはずはない。

病棟のある大規模な病院の場合は、「そもそも病原菌やウイルスの感染が高い場所。ビル管理法の対象施設ではありませんが、院内感染を防ぐためにもコロナ禍以前から高いレベルの換気設備が導入されている場合が多いです。手術室などクリーンルームと呼ばれる完全に無塵化するような換気設備とフィルターを備えているところもあります」と説明する。

しかし、病院内には医療従事者以外にも大勢の人が出入りしたりもする。

「設計段階で計画されていた入室人数を上回る人数が在室しないようにするなど、注意が必要です。他の施設と同様に、施設側は換気設備の導入やメンテナンス、利用者側はマスクの着用やソーシャルディスタンス、手洗い消毒の徹底が大切。感染予防にはそうした複層的な対策を施すことが必要で、その1つでも欠けていると感染リスクは高まるものと考えています」と髙橋氏。

院内感染が発生したケースでは、老人ホームなどの介護施設が目立つ。「介護施設は、医療に近いケアが行われている現場ではありますが、病院に比べると換気の設備が十分でなかったり、密になりやすかったりすることも一因ではないでしょうか」と分析した。