「中古車を買うときは整備記録簿の記載内容を見てみましょう」とよく言われますが、いろいろなことが細かく書かれていて、正直よくわからない……という人もいるかもしれません。ということで、中古車の記録簿を見る際に最低限注目すべきポイントとその“意味”を、中古車ジャーナリストの伊達軍曹さんにズバリ解説してもらいました。

  • 自動車の整備記録簿

    中古車選びでは車そのものだけでなく、整備記録簿をよく見てみよう!

記録簿は「付いてりゃOK」というものでもない

中古車選びの生死を分ける……というのは大げさだが、まぁ重要であることは間違いない点検整備記録簿。その基本については、「中古車 記録簿」というワードでググれば0.45秒で1,040万件がヒットする各種サイトを参考にされたい。どれも、それなりに役立つはずだ。

そのうえで、本稿では「記録簿の読み方」に関する“実践編”を展開したい。

記録簿というのは要するに「中古車のカルテ」みたいなもので、そこには、その車をいつ、どこで、誰が、何を、どう整備したか――という内容が詳細に記されている。

そうであるがゆえに、中古車売買の現場では「記録簿付き」の中古車が好まれるわけだが、記録簿というのは「付いていればOK」というものでもない。

例えば8年落ちの中古車であるのに、点検整備の履歴が記されているのは最初の1~2年についてだけで、後のページは真っ白……というケースもたまにある。この場合、「記録簿付き」という言葉に嘘はないわけだが、その価値はゼロあるいはマイナスであろう。

そんな現実のなかで我々は、どのようにして記録簿を「読む」べきだろうか?

結論としては、「その中古車の年式に応じて考える」というのが、記録簿の“正しい読み方”であると筆者は考えている。以下、具体的にご説明しよう。

「初度登録から3年以内」の中古車の場合

このぐらいの年式では、ハッキリ言って記録簿は割とどうでもいい。なぜならば、その大半には記録簿が普通に付いているのが当たり前であると同時に、その記載内容もあっさりしている場合がほとんどだからだ。

筆者の私物車両がまさにこれに該当するのだが(現在、初度登録から約2年である)、当然ながら記録簿はある。だが、そこに記されているのは、納車時の受領書と保証書の類を除けば、以下の点検整備に関するものでしかない。

・1カ月無料点検
・6カ月無料点検
・1年目の12カ月定期点検
・2年目の12カ月定期点検

  • 自動車の整備記録簿

    初度登録から約2年くらいの車なら、記録簿はそこまで重要な判断基準とはならない

以上である。で、最近の車は1年や2年で壊れる箇所などほとんどないので、記録簿には大したことは書かれていない。それゆえ、私の車の記録簿からわかるのは「この車は正規ディーラーで普通に点検されてますし、走行距離の改ざんもありませんね」ぐらいのことでしかない。そしてそれは筆者の私物に限らず、ほとんどの3年落ち以内車でおおむね同様の話であろう。

それゆえ、初度登録から3年以内の中古車の記録簿を見る際は、「それ(=最初のほうの無料点検と、その後の12カ月ごとの点検)すらもディーラーに出さなかった超テキトーなオーナーではなかったか?」ということを確認するぐらいで十分だ。

「初度登録から3~10年ぐらい」の中古車の場合

新車から3年以内の車においては割とどうでもいい存在だった記録簿だが、このあたりからは重要性を帯びてくる。といっても、3~4年ぐらいではまだ割とどうでも良かったりするので、実際は「5年目以降」だろうか。

新車時から5年目、つまり2回目の車検を迎える頃になると、例えば下記のようなオーナーも一部に出現する。

A.あちこちが劣化してきたが、めんどくさいので(あるいはカネがないので)とりあえず放っておこう。

B.本当はディーラーやちゃんとした工場で車検整備を行うべきだが、めんどくさいので(あるいはカネがないので)ユーザー車検で済ませちゃおう。

上記A、Bの行為が圧倒的な間違いだとは思わないが、買う立場からしたら、そういった中古車はできれば避けたいのが本音であろう。

ならば、どうすれば上記A、B系を避けられるかといえば、確実なのは、記録簿の右端近くに記載されている「点検または整備を実施した者の氏名または名称及び住所」という欄を見てみることだ。そこに、その車種を取り扱っている正規ディーラーのゴム印が押されているかどうかを確認するのである。

  • 自動車の整備記録簿

    その中古車が大切にされてきたかどうかは、記録簿の右端を見れば分かる?

正規ディーラーは自動車メーカーの看板を背負ってビジネスをしている関係上、下手なことができない。それゆえ「早め早めの、安全マージンを十分取った部品交換」を推奨する場合が多い。そのため、2回目以降の車検整備や12カ月点検に関するページに正規ディーラーのゴム印が連続して押されている個体は、上記AおよびBの問題とはほぼ無縁であろうと推測できるのだ。

「でも、正規ディーラー以外にも、ちゃんとしてる指定工場や認証工場ってあるじゃない? そういうとこで整備された車はダメなの?」という疑問もあるだろう。

もちろんダメではない。特にマニアックな車種では正規ディーラー以上に腕が立つ工場もあるため、そういった専門家に車を託すのはまったく悪いことではない。

だが、それはあくまで「上級者向きの手法」である。本稿の仮想読者像である「とりあえず初めて中古車を買ってみる人」は、工場の名称から、その立ち位置や腕前を判断するのはほぼ不可能であるはず。それゆえビギナーは手堅い安全策として、「正規ディーラーのゴム印」をとりあえずは重視するべきなのだ。

「初度登録から10年以上経過」した中古車の場合

このあたりの年式の「けっこう古い中古車」においても、基本は「初度登録から3~10年ぐらいの中古車」と同じである。手堅い安全策として「正規ディーラーのゴム印が連続して押されていること」を重視するのだ。

とはいえ車も新車から10年、20年がたってくると、正規ディーラー以外で点検整備がされるケースも増えてくる。なかには「悪気はないのだが記録簿を紛失してしまった」というケースも出てくるだろう。それゆえ、記録簿の有無やディーラーのゴム印だけでは判断しにくくなってくるのが、このあたりの年式だ。

ならばどうすればいいかと言えば、まぁお詳しいマニアは自力でさまざまな解読を試みれば良いだけだが、初心者の場合はなかなかそうもいかない。

そこで重視したいのが「伝票の控えと取説」である。

ここで言う「伝票」というのは、12カ月や24カ月の法定定期点検ではなく、偶発的に発生した車両整備に対しての明細控えである。多くのユーザーはこれを自宅のゴミ箱などに廃棄してしまうわけだが、一部のマニアックな(あるいは何事に対しても細かい性格を持った)ユーザーはこれを廃棄せず、バインダーなどに保管し、車を売却する際に「査定の参考資料」として提出する。またそういった細かい系ユーザーは、新車時のカーナビやらオーディオやらの取扱説明書も紛失させず、売却する愛車にそっと添える場合が多い。

そういった物々、つまり偶発的整備の伝票控えや各種の取説やらをいちいち几帳面に保存しているユーザーが使っていた車というのは、絶対ではないが多くの場合、メンテナンスも几帳面に行われていた確率が高いということを、筆者は取材経験から断言できる。

それゆえ、これをもうひとつの参考指標とすれば、初度登録から10年以上が経過している中古車であっても、貴殿はけっこうな高確率で「グッドコンディションな1台」と巡り会えるはずなのだ。