多くの人がAT(いわゆるオートマ)限定免許を取得し、ほとんどの人がAT車を購入するのが今の世の中。それでもMT(マニュアルトランスミッション)車が絶滅したわけではありませんし、特に中古車市場には、かなり魅力的なMT車が総額100万円以下のプライスでそろっていたりもします。今、あえてMT車を選ぶことにはどんな意味と価値があるのか? そして今、おすすめの中古MT車とは? リアルな中古車事情に詳しい伊達軍曹さんに聞いてみました。

  • ホンダの「シビック タイプR」

    中古MT車の魅力に迫る

ニッポンのAT車比率は100%?

自販連(一般社団法人日本自動車販売協会連合会)のデータによれば、2019年に販売された新車のうち98.6%はAT車だったとのこと。

……98.6%というのは「四捨五入のやり方によっては100%!」ともいえてしまう数字なわけで、この数字だけを見ると、現在のニッポンにおけるMT車というのは超レア物というか「……今や幻の存在か?」とすら思えてきてしまう。

  • ホンダの「シビック タイプR」

    新車のMT車はどんどん少なくなっている(写真はホンダが2022年9月に発売したMT車「シビック タイプR」)

だがこの98.6%というのは、あくまでも「その年に売られた新車の中での98.6%」ということ。つまり中古車マーケットに目を向けてみれば、今なおけっこうな数のMT車が普通に流通しているのだ。

問題は、それら中古のMT車に「今あえて選ぶだけの価値はあるのか?」ということだろう。

結論から申し上げれば、ある。

「今あえてMT車を選ぶことの価値」とは――まぁいろいろあるのだが、最大のそれは「MT車の運転ができるということには、今や『伝統芸能の継承者』的なカッコよさがある」ということだ。

MT車を運転できる=馬に乗れるくらいの価値に?

新規に運転免許を取る人の約7割がAT限定免許を選び、MT免許を取得した人でも、そのうち推定7割はMT車のマトモな運転術を身体が忘れてしまっている今。左足でスムーズにクラッチを操作しながら、左手または右手でコキコキとスムーズに手動ギアチェンジをキメる様には、「毛筆で書く字が美しい」「着火剤を使わずに火を起こせる」「レシピサイトを見ずに美味なおかずが作れる」「馬に乗れる」といったカッコよさに似たカッコよさが、確実にある。

今は単なる自己満足にすぎないかもしれないそのカッコ良さは、今後、人々がMT車の運転術をさらに忘れていくにつれて、そしてEV(電気自動車)が増えていくにつれて、どんどん光り輝いていくはず。いや、輝くというかシブくなっていくはずなのだ。

それゆえ、ごく一部の奇特な諸君に対しては「うむ、来たるべき未来を見据え、ぜひとも中古のMT車を買ってみたまえよ。とっても楽しいですよ! うわっはっはっは!」と申し上げたいのだ。

総額100万円以下で探すなら?

昨今は「ちょっと古いモノやカルチャー」が全般的にブームとなっている関係で、一部の中古MT車の相場は残念ながらバカ高くなってしまっている。とはいえ、それは「MT車」という言葉の前に「絶版スポーツ」という言葉が付いた場合のみの相場。それ無しの「単なるMT車」であれば、支払総額100万円以下か、100万円をちょい超える程度の予算で、けっこう悪くない個体が普通に狙えるものだ。

それら「総額100万円以下級中古MT車」の選択肢は非常に豊富であり、何をどう選ぼうと貴君のご勝手ではあるのだが、あえて筆者からのオススメを何台か挙げさせていただくなら、それは下記のとおりとなるだろう。

  • オススメ1:フィアット「500」(2008年~)

ルパン三世のアニメ映画でおなじみの「フィアット ヌォーヴァ500」という往年の小型車のエッセンスとデザインを現代の技術で蘇らせた、イタリア製のコンパクトカー。

トランスミッションは「デュアロジック」というセミATが基本なのだが、2010年8月に追加された「1.2スポーツ」というグレードは5MTを採用。あんまり速くはないが、だからこそ「アクセルペダルをベタ踏みする歓び」にあふれている。走行5万~9万kmくらいの中古車が支払総額70万~90万円付近で見つかるはずだ。

総額100万円をちょい超えてもOKなら、0.9L2気筒のツインエアエンジンに5MTを組み合わせた「500 S」というグレードも狙える。支払総額は100万~150万円ほどにアップするが、エンジンは「1.2スポーツ」の直4よりもこちらのほうが魅力的だ。

  • フィアット「500S」

    フィアット「500S」

  • オススメ2:シトロエン「DS3」(2010~2015年)

現在、「DS」というのは独立したブランドになっているが、この当時はまだ「シトロエンの上級ライン」という位置づけだった。あ、シトロエンというのは、ちょっと変わったデザインおよびテイストの車づくりを得意とするフランスの自動車メーカーだ。

で、そのDS3というのは2010年代に作られていたちょっとプレミアムなコンパクトハッチバック。これもトランスミッションは普通の4速ATまたは5速ATが基本なのだが、前期型の「スポーツシック」というグレードは最高出力156psの1.6Lターボエンジン+6MTという組み合わせ。「痛快で愉快な走り」と「おフランスのおしゃれ感」が同時に味わえるという、なかなか稀有な存在なのだ。支払総額60万~100万円付近のレンジで、走行4万~8万kmくらいのなかなか悪くない中古車が楽勝で見つかるだろう。

  • シトロエン「DS3」

    シトロエン「DS3」の「スポーツシック」であれば、MTの走りとフランスのおしゃれ感が同時に楽しめてしまう

オススメその他いろいろ

細かく挙げていこうかと思ったが、そうするとやたらと長い原稿になってしまうため(それぐらい、総額100万円以下で買える魅力的な中古MT車の種類は多い)、以下は箇条書きでササッとご紹介することにしたい。申し訳ない。

  • スバル「インプレッサ G4」(総額70万~130万円)

先代インプレッサの4ドアセダン。人気薄で、特に1.6LのMT車は超絶人気薄なので、けっこういいやつがお安く買える。でも走りはすばらしい。

  • スバル「インプレッサ」

    スバル「インプレッサ」(4代目)の「G4」も狙い目だ

  • マツダ「アクセラ」の最終型(総額70万~220万円)

教習車でも使われているのが存在感的にやや微妙だが、いい車であることは間違いなし。高いやつは総額200万円以上だが、総額90万~130万円くらいでもけっこういいやつが狙える。

  • マツダ「アクセラ」

    マツダ「アクセラ」

  • 現行型トヨタ「カローラ フィールダー」(総額80万~150万円)

昨今はほとんどの車のサイズが大きくなってしまっているが、こちらは貴重な5ナンバーサイズのステーションワゴン。「MTで運転するから楽しい」というタイプの車ではないが、「カローラ フィールダーなのにMT!」という意外性を楽しみたい。

  • トヨタ「カローラ フィールダー」

    トヨタ「カローラ フィールダー」をあえてMTで乗るのも一興か

このほかにもオススメ中古MT車はいろいろあるのだが、長くなるので、さしあたっては以上としておこう。MT車をスムーズに美しく走らせるという“伝統芸能”に少しでもご興味のある方は、ご参考にしていただけたならば幸いだ。