皆様はじめまして。為替を中心に国際金融市場の分析をしている岩本沙弓と申します。今回から始まる連載「岩本沙弓の"裏読み"世界診断」では、氾濫する情報の中から、「これは」というものをピンポイントで取り上げ、皆様のお役に立つ情報をタイムリーにお伝えできればと考えております。

日本は実は、「ずっと世界一裕福な国」

まずは昨年末に100円割れをしたユーロ/円。休暇モードに突入している日本人にとっては「なぜ年末のこのような時に」と思われるかもしれませんが、お正月をのんびり過ごすのは日本人だけです。

欧米が休暇を取るのは11月末のサンクス・ギビングからクリスマスの翌日のボクシング・デーまで。海外勢はすでに一カ月も前からたっぷりと年末の雰囲気を味わっていますので、それが終わればすぐに通常モードに切り替わります。

日本の場合はクリスマスからお正月までイベント目白押しですが、米国のお正月の唯一華やかな催しといえばローズ・ボウル(カリフォルニア州パサディナでの全米大学フットボール王座決定戦)とその前に開催されるローズ・パレード(生花で飾り付けられた山車がマーチング・バンドとともにするパレード)ぐらいで、それもあっさりと終わってしまうという印象です。

話はそれますが、今年は京都の橘高校がアジア代表としてパレードに参加しました。「peppy(元気いっぱいの)パフォーマンスを披露」と地元紙Los Angeles Timesに掲載されていました。高校生のこうした姿は実に清々しいものがあり、洋の東西を問わず感じることは皆さん同じということでしょう。ところで、昨今日本では吹奏楽がプチ・ブームの様相ですが、これは経済的にはすごいことなのです。国が貧乏だったら楽器など悠長に演奏している暇などなく、ましてやブームなど起こるはずもありません。

わたくしが高校生だった1980年代ごろ、「日本ほど家庭にピアノが普及している国はほかにない」と、我々がいかに音楽環境に恵まれているかを力説してくれた音楽の先生がいらっしゃいました。日本の経済的な豊かさを間接的に教えてくれたわけですが、あれから30年近く経つ今でも、日本のピアノ普及率は全国平均でほぼ飽和状態と言われる25%であり、世界一と思われます。

日本経済は失われた20年と言われ、デフレや財政破綻の話で、国民は完全に"後ろ向き"にさせられていますが、日本は実は、ずっと世界一裕福な国なのです。それを国民が実感できていないという問題はあるにしても、この事実をないがしろにすると国際経済や金融の流れ、為替動向など見誤ることになります。というわけで、この点については自国通貨が高いことのありがたさとともに、この連載で折に触れお伝えしていくテーマに一つにしていきたいと考えています。

相場取引をするなら、「お屠蘇気分」は封印

話を元に戻しまして、米国の金融機関は1月から新年度入りとなります。日本で言えば4月の新学期の雰囲気です。海外の金融機関でディーラーをしていた頃には、私もこの時期は「さあ今年も頑張るぞ」という気持ちになりました。相場参加者の意気込みとともに相場も非常に動きやすい、というのが年始の特徴です。そして、"お屠蘇(とそ)でほろ酔い気分"となっている日本のプレーヤーを狙っている側面があることも否めません。

海外市場も通常通り開いているので、在日支店では交代で1月2日から出勤というのが当たり前。とは言え、日本時間の昼間は取引が閑散としていますから、オフィスが入っている日比谷のビルの前を箱根駅伝のランナーが走っていくのを上から見るというのが、ささやかな楽しみでもありました。

というわけで「年明けの閑散とした市場の中で」という解説は、やや事実とかけ離れています。年明けとともに日本以外の世界中のプレーヤーが「今年こそは!」あるいは「今年も!」とやや前のめりになりつつも、やる気満々で相場に参加してくるのがこの時期と思っていただいてよろしいかと思います。「新年早々からユーロったら、大立ち回りをしてくれて…」ではなく、"年越し・新年早々"だからこそ暴れるのです。  

長引かせることが目的のユーロ危機

欧州危機の発端を遡れば、ギリシャの粉飾決算が表沙汰となったのは2009年末ですから、足掛け2年以上もグダグダしているわけです。

そもそも論になりますが、1992年2月の時点で欧州連合(EU)創設の条約として、単一通貨ユーロ導入の計画や参加規定を定めたマーストリヒト条約では、ある国の債務を他の国や機関が代わりに引き受ける、つまりある国の借金を他に付け回しするようなことは禁止されています。ですから、ギリシャの財政状況が規定に満たないのならば、この原則にのっとってユーロから即座に切り離すだけ、となります。そうすれば、欧州問題がここまで長引くことも、世界中をヤキモキさせる金融危機にもなりえなかったのです。

なぜ、欧州危機を引き延ばす必要があったのか。為替レートと大いに関係がありそうだ、という点については、次回お伝えいたします。

執筆者プロフィール : 岩本 沙弓(いわもと さゆみ)

金融コンサルタント、経済評論家、経済作家。1991年東京女子大学を卒業し、銀行在籍中に青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程終了。日、米、加、豪の大手金融機関にて外国為替(直物・先物)、短期金融市場を中心にトレーディング業務に従事。その間、国際金融専門誌『ユーロマネー誌』のアンケートで為替予想部門の優秀ディーラーに複数回選出される。現在は、為替、国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。