「旨くて、安いラーメンが食べたい」。1杯1,000円を超える高級ラーメンも多いが、手軽で・旨くて・さらに安くラーメンが食べられるのなら最高だ。全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター・井手隊長が、旨くて安いアンダー700円のラーメンを紹介する。

4回目は、川崎・鷺沼の「麺処 懐や」だ。


  • 川崎・鷺沼「麺処 懐や」

連載や動画の企画で毎年「美味しかったラーメンベスト10」を選定しているのだが、昨年のベスト10の中で1軒、とてつもなくコストパフォーマンスの良い店があった。

その店は川崎市の鷺沼にある。「麺処 懐や」である。 駅から4〜5分歩くと店が見えてきて、一瞬行列がなくて嬉しくなる。 しかしその喜びは束の間、店の脇の狭いところにずらっと行列ができている。

「懐や」は神奈川県を代表する有名店「中村屋」の出身店。流行に一切左右されない本格派の清湯系ラーメンを提供するお店だ。

ラーメンはしょうゆと塩があって650円と安い。麺も細麺、平打ち麺から選べる。

「しょうゆ(細麺)」を注文。

かなり丁寧な作り方で、1〜2杯ずつしっかり作っている。

チャーシューは都度切って七輪で炙っている。回転はどうしても遅くなるが、その丁寧な仕事は一見の価値ありだ。

出身の「中村屋」はザルを上から下に大きく振り下ろす「天空落とし」という湯切りで有名だが、ここは気持ち小さな天空落としを見せてくれる。

具はチャーシュー、ほうれん草、メンマ、ノリ。麺は細めストレート。 魚介のじんわりとした旨味に強めの醤油ダレ。とてつもない奥行きのあるスープで、レンゲが止まらない。

スープと麺との一体感も素晴らしく、非の打ち所がない。チャーシューが香ばしく、アクセントになっている。これでたったの650円とは驚きだ。

久々にスープまで全部飲んでしまうぐらい美味しかった。

日本人のDNAに流れているようなまっすぐな醤油ラーメンを、店主の仕事で極限まで高めたような一杯だ。回転の遅さだけがネックだが、素晴らしい名店だ。

箸箱を開けると、中に飴が入っていて、それをもらって帰るのが「懐や」流。まさに"懐の深い"お店である。

しかし飴を舐めるのがもったいないぐらい後味が良く、しばらく口の中にその美味しさが残っているので、飴はしばらく我慢しよう。