――田中さんがテレビ業界を目指したのは、どんな経緯があったのですか?

小学生の頃から大学までバンドをやっていて、曲作ってライブしてCDを作ったりしていたんですけど、それは今の番組作りと同じような気持ちで、「誰かの生活をちょっと良くしたい」といった思いでやっていたんです。ただ、自分の好みですごくニッチなジャンルでやっていたので、誰かの生活を良くしたいという思いを一生やるなら、もっと大きなサイズでやりたいと思ったのがきっかけです。

――そしてフジテレビに入社されてバラエティ制作に配属され、『新しいカギ』を担当するまでに特に印象に残る演者さんは、どなたになりますか?

自分の考えを大きく変えてくれたのが、関ジャニ∞さん、今のSUPER EIGHTの5人なんです。僕が『関ジャニ∞クロニクルF』に入ったのが、5人体制になって「友よ」という曲を出された時でした。状況的にめちゃくちゃ順風満帆かと言われたら、そうとは言えない時期で、ファンからすると「大丈夫かな」と不安にもなっていたであろうタイミングで出した「友よ」だったのですが、そこに酸いも甘いも経験したからこそ出せる男のカッコよさがあったんです。

番組の演出家として、演者さんを魅力的に見せようとするときに、それまでの自分だったら“完璧な人”として撮っていたと思うんですけど、彼らと出会ってから、人間の弱い部分や負けた部分を知っているからこそ描ける姿をちゃんと切り取ったほうが、本当のカッコよさが出るんだということを知って、すごく衝撃を受けました。

だから『新しいカギ』でも、この前の放送でせいやさんが母校に凱旋したときに、「1年生の時に友達関係とかうまくいかなかったのを『学校かくれんぼ』で払拭したい」と語ってもらったように、そういう部分は意識的に出しています。カギメンバーの皆さんが優しい人なんだと気づけたのも、SUPER EIGHTさんとの出会いのおかげです。

――「カギダンススタジアム」は、それがすごく出た企画でしたね。

松尾さんが4分通して踊るというのも、「自分には長田さんの器用さはないから、とにかく頑張るんだ」という意志を落とし込んだ結果であって、そこに至るまでに松尾さんの中でいろんな葛藤があったんじゃないかと思いながらVTRを作りました。そういう部分に気づいて描くという自分の美学を作ってくれたのは、SUPER EIGHTさんだと思います。

――最近は「テレビはオワコン」なんてことも言われることもある中で、今回の『27時間テレビ』はそこに対する一つの答えを出したような気もしますが、改めて今の時代のテレビの役割というのは、どのように考えていますか?

同じ時間に同じものが流れて、共通の話題を作れるというのは、大きな役割だと思います。それと、無料で見られるって、めちゃくちゃデカいことだと思うんですよ。サブスクでものすごくたくさんのコンテンツを月額1,000円で見られるというのは破格だと思うんですけど、テレビは線をつなげば良い画質で遅延もなく、大の大人がめちゃくちゃ顔を突き合わせて一生懸命作ったものがタダで見られる。僕はものすごく裕福な家庭で育ったというわけでもないので、「こんないいもんねぇぞ!」と思いながらかじりついて見てたんです。その感覚がいまだにあるので、今の子どもたちに絶やさないであげたいなと思います。

「カギダンススタジアム」からさらに広げられる企画を

――そんなテレビにかじりついて見ていた田中さんが影響を受けた番組を1本挙げるとすると、何になりますか?

人生で一番見たのは、バラエティじゃないんですけど、ドラマの『ウォーターボーイズ』(フジテレビ)なんです。

――おお、青春!

本当に大好きで、下手したら50回くらい見ています。全キャラクターの全セリフを言えるくらい(笑)。モデルになった川越高校が地元から近くて、「カワタカ(※川越高校の愛称)の男のシンクロが映画になるんだぜ」って友達と話題になって、そこからドラマになって何回も見て、後日放送された撮影の裏側を紹介する番組もめちゃくちゃ見てました。それはもう半分ドキュメンタリーで、彼らがずっと合宿で特訓しているのを追っていたんですけど、あれを作りたいのかもしれないです。ただドラマでは超えられる気がしないので、違う角度からやってやろうとバラエティに行ったところも、今思い返すとあります。

――「カギダンススタジアム」は、それが一つ達成できた企画ではないかと思います。今後『新しいカギ』のレギュラーなのか、はたまた来年も『27時間テレビ』を担当するのか分かりませんが、またカギメンバーが汗をかいて、学生の皆さんと一緒に何かを作り上げていく企画はやっていきたいですか?

やりたいですね。むしろ、ああいう場を会社に与えていただいて、「成功」と言ってもらえたので、あれっきりにするのではなく、出た芽を広げて、会社にどう貢献するかというのを考えなければいけないと思っています。

一方で、どうすればできるんだろうと悩ましいです。今回は初めての『27時間テレビ』で起きっぱなしで最後のメインイベントという状況が相まってのものですし、そこに向けてやり切ってくれた演者さんの熱量がいちばんの勝因だと思うので、「同じことやって、同じだけ熱量注いでください」はあまりにも失礼な気もします。今回の「カギダンススタジアム」を超える形を見つけて、さらに広げられる企画を作るというのが、今の課題です。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…

『関ジャニ∞クロニクルF』でお世話になった、ナレーターの服部潤さんです。この連載は前から読んでいて、有田(哲平)さんも出てこられたじゃないですか。テレビというものを本当にいろんな職業の人が作っているのを世の中に広げていただいているすごくいい連載だと思うので、その中に今まで出てこなかったナレーターさんが登場したら面白いなと。

それと、ナレーターさんはいちばん近くでいちばん客観的に番組を見てる方だと思うんです。作家さんもいろんな局をまたいで客観的に見てくださってますが、ナレーターさんは番組の最後の仕上げを見ているんです。だから、潤さんとテレビの話をすると、めちゃくちゃ芯食ったことを言ってくれるんですよ。いちばん面白い位置で、番組も、テレビマンもよく見ていて、「あいつはダメだった」とかも聞くので、潤さんに褒められたらめっちゃうれしいんです(笑)

――今回の『27時間テレビ』は褒められましたか?

まだ伺ってないので、ぜひ聞いてください(笑)

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • ナレーター・服部潤氏