注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、有吉弘行が出演する多くの番組を担当し、V6とも強い信頼関係で仕事をしてきた長沼昭悟ディレクターだ。

最近では、芸人YouTuberのパイオニアである『カジサック』も手がけているが、多くの芸人たちがYouTubeに進出することによって、テレビへの回帰に期待しているという――。


■常に緊張感が漂っていた料理の勝負

ディレクターの長沼昭悟氏

長沼昭悟
1972年生まれ、東京都出身。94年に日本テレワーク(現・NEXTEP)入社。『どうーなってるの?!』『料理の鉄人』(フジテレビ)などを担当し、00年に独立。『未来シアター』『有吉×巨人』『行列のできる法律相談所』(日本テレビ)、『魂のワンスプーン』『V6 LOVE VICTORY』(TBS)、『クイズ$ミリオネア』『VVV6』『新春かくし芸大会』『アイアンシェフ』『おーい!ひろいき村』『有吉の夏休み/冬休み』(フジ)、『有吉弘行のダレトク!?』(カンテレ)、『石塚英彦の旅のココロ』(テレビ朝日)、『元祖!でぶや』『アリケン』(テレビ東京)、『できたできたできた』(NHK Eテレ)などでディレクターを務め、『石ちゃんのSAKE旅』(Amazonプライム・ビデオ)、『カジサック』(YouTube)など配信コンテンツも手がける。

――当連載に前回登場したディレクターの和田英智さんが、長沼さんについて「どんな指揮官にも離さず横に置いておきたいNo.2のディレクターがいるんですけど、その代表格が長沼昭悟さんです。有吉(弘行)さんの番組とかをよくやってるんですけど、撮ってくる飯が死ぬほどうまそうなんですよ。総合バラエティでも何でもできる人なんですけど、ご飯を撮らせたら圧倒的に日本で一番ですね」とおっしゃっていました。意識されていることやコツはどんなことですか?

僕がディレクター業務をやり始めたのが『どうーなってるの?!』(フジテレビ)だったんですけど、その時にリポーターで石塚英彦さんと仕事することが多くて、当然のように料理を扱う番組が増えていったんです。その中で、何かおいしそうに撮る方法はないかというのを探っていて、『VVV6』(フジテレビ)という番組で「東京Vシュラン」という飲食店を巡る企画があったんですけど、ある日ロケをしたお店がちょっと汚かったんですよ(笑)。味はおいしいんですけど、テーブルの上も厨房もどこを撮っても厳しいと。

それで悩んだ末に、カメラマンに「もうハンディで行こう」と言ったんです。当時、料理を撮るときは、カメラに三脚をつけて固定して撮るというのがセオリーだったんですけど、手持ちにして汚いところが映ったと思ったらすぐ(レンズの向きを)逃げて(笑)。そしたら、怪我の功名というか、角度が変わるので肉の脂がテカテカしたり、逃げるために急にズームをかけると迫力のある画が生まれたりして、「これいいね!」となったんです。

――V6さんを汚いお店に案内するのもなかなかですね(笑)

こんなにおいしいのに、何で掃除しないんだろうって不思議に思いました(笑)。でもこの手法はカメラマンが代わると難しいのもあって、『なるほど!ザ・ワールド』(フジテレビ)でイタリアに行ったときは現地のクルーだったので、これを伝えるのが本当に大変でした。「もっと雑にズームして」とか「一瞬ピントが合わなくてもいいんだ」って説明して。

あと、レンズの効果でおいしく見せられる加工もできるんですけど、僕はそれをやりたくないので、照明でしっかり光を作って、生のおいしさを見せるというのを意識してます。目指したのは、雑誌の『dancyu』の世界観を何とかテレビで表現できないか。アップのシズル感というのにはこだわりますね。

――それからどんな料理の番組を手がけていくんですか?

高級料理からB級グルメまで、ひと通りやってますね。『アイアンシェフ』(フジテレビ)もやったんですけど、勝負事の番組で料理人を口説くときは、もう戦いなんですよ。僕のルールで「会った瞬間から絶対に目を逸らさない」というのを決めてるんですけど、『アイアンシェフ』で和の黒木純さんに出演をお願いしたときも、最初は「勝ち負けを決めるなんてやりたくない」と言われました。でも、僕らとしてはどうしても出てほしいと伝えると、師匠である「日本料理の神様」と言われた京味の西(健一郎)さんの許可が出たらいいと。「絶対出るわけないので、行くだけ無駄ですよ」と言われたんですけど、フジテレビの竹内誠(チーフプロデューサー)さんと西さんのところに行って頭を下げて、とにかく目を見つめて真摯(しんし)に気持ちを伝えてお願いしたら、最後に西さんが「黒木をよろしくお願いします」とおっしゃっていただいたんです。

――やっぱり正攻法しかないんですね。

料理の勝負って現場には常に緊張感がありますから、『アイアンシェフ』に出場するシェフは試合前になるとみんな無言で一点を見つめているんです。そこで僕は耳元でコソコソって言うんですよ。実況の佐野瑞樹アナに「あれはいつも何をしゃべってるんですか?」と聞かれたことがあるんですけど、今だから言えますが「ぶっ潰してやりましょう」とか「思いっきり暴れてやりましょう」とかガソリンを入れてたんです。ディレクターなので当然編集もやりますけど、アドレナリンを出させるセコンドみたいな役割で、いかに士気を高めるかというのをやってましたね。

■アンガールズ田中が先陣を切っていた「キモうまグルメ」

アンガールズの田中卓志

――『有吉弘行のダレトク!?』(カンテレ)もやられていましたが、名物企画の「キモうまグルメ」は、おいしそうに撮るノウハウは生かされてないですよね(笑)

はい(笑)、基本そのまま素揚げして塩で食べるっていうのが多かったですから。僕は正直虫が苦手だったんで、虫が平気なディレクターが後輩にいて、彼が担当でやっていました。あの企画って、今考えると恐ろしいんですけど、希少な虫とか生物を捕まえて調理して食べるので、数が捕れないんですよ。だから、アンガールズの田中(卓志)さんがいつも文句言ってたのが、「ファーストバイトが俺なんですよ」って(笑)

――スタッフが試食する数の余裕がないから(笑)

田中さんが食べて大丈夫だったら、スタッフみんなが「うまいうまい」って残りを食べだすということが多かったですね(笑)。もちろん、専門家から安全性を確認してますから大丈夫なんですけど。僕も一緒にロケに行ってカメムシとか食べましたけど、あれは厳しかったですね。でも、演者さんが食べてるのに、僕らが食べないというわけにもいかないので。

あの企画は田中さんがメインで、(藤田)ニコルちゃんにもやってもらったんですけど、ニコルちゃんはとにかく根性がすごかったですね。躊躇しないでバクバクいくんで、本人いわく「おかげで男性人気がすごい上がった」って言うんですけど、視聴率はどんどん下がっていって(笑)

――面白かったんですけどねぇ…。

僕らは料理番組風にやっていたので、調理工程までじっくり見せすぎてしまったんです(笑)。なかなかグロい部分も、有吉さんとかザキヤマ(山崎弘也)さんが楽しんでくれていたので。

――『ダレトク!?』は他にも料理系の企画が結構ありましたよね。

有吉さんが他の番組でやってないことって何だろうと考えて、ご自分で料理をあまりされていなかったので、アイデア料理を有吉さんに作ってもらうみたいなことをやってましたね。有吉さんはそれまで家でも料理しなかったみたいなんですけど、番組でやっていくうちに自宅でとんかつを揚げるようになったりして、包丁さばきも最後のほうは上手になっていましたね。