注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、『くりぃむナントカ』『マツコ&有吉 かりそめ天国』など、数々の人気番組を立ち上げたテレビ朝日コンテンツ編成局次長の藤井智久氏だ。

長年タッグを組んできたくりぃむしちゅーとの出会いは、「ぶっちゃけ言うと、僕もくりぃむも余ってたんです(笑)」という状況だったが、『くりぃむナントカ』をはじめ様々なヒット番組を世に送り出し、今や“共犯者”と言える信頼関係に。そんな藤井氏は、もう1人の“共犯者”だったという、2015年に亡くなった放送作家・渡辺真也氏への思いも語ってくれた――。


■『ロンドンハーツ』での失意から『虎ノ門』へ

テレビ朝日コンテンツ編成局次長の藤井智久氏

藤井智久
1967年生まれ、岡山県出身。筑波大学卒業後、90年に全国朝日放送(現・テレビ朝日)入社。バラエティ制作に配属され、『虎ノ門』『くりぃむナントカ』『シルシルミシル』『くりぃむクイズ ミラクル9』『マツコ&有吉の怒り新党』『マツコ&有吉 かりそめ天国』などを立ち上げ、『ぷらちなロンドンブーツ』『ロンドンハーツ』『ミュージックステーション』『ビートたけしのTVタックル』『志村&所の戦うお正月』『志村&鶴瓶のあぶない交遊録』なども担当。19年7月から総合編成(現・コンテンツ編成)局次長。

――当連載に前回登場した放送作家の北本かつらさんが、藤井さんについて「男気があって、熱くて、ビートたけしさんの裏方版というような人。社会人の常識まで叩き込んでくれて、僕にとって学校の先生みたいな方です」とおっしゃっていました。

彼は社会人の常識がないですからね。たけしさんのお名前を出すなんてありえない(笑)。でも、作家さんってそういうところが魅力だったりするじゃないですか。あるところが大きく欠けているからこそ、あるところにものすごい才能があるという人、いろんなパターンがあると思うんですけど、かつらくんは特にそういう人ですよね。

――藤井さんと言えば、『くりぃむナントカ』からくりぃむしちゅーさんの冠番組を手がけられてきましたが、最初の出会いはどこだったのですか?

もともとロンブーの『あなあきロンドンブーツ』『ぷらちなロンドンブーツ』という番組があって、ここから『ロンドンハーツ』が立ち上がるときのチーフディレクターだったんですよ。『ロンドンハーツ』は最初、恋愛ネタにわりと特化している番組だったんですけど、僕は恋愛のことが全く分からなくて、半年くらいで「これ無理だな」と思ってプロデューサーになり、その後、加地(倫三)くんがチーフDになって今のようなヒット番組になっていくんです。『ロンドンハーツ』がうまくできなかったとき、自分の中で「演出をやるのは、これで終わるな」と思ったんですね。

そしたら、当時タッグを組んでいた上司の板橋(順二)さんというプロデューサーが「深夜に笑いと音楽とサブカルを混ぜた生放送作るぞ!」と言って、「おまえやるか?」と声をかけてくれたんです。僕としては、もう演出は無理だなと思っていたのですごくうれしくて、「やります! やります!」と手を挙げて作ったのが『虎ノ門』(後に『虎乃門』→『虎の門』)という番組でした。

ここには、さまぁ~ずさんとか雨上がり決死隊さんとか、いろんなお笑いの方がレギュラーゲストみたいな感じで入るはずだったんですよ。でも、金曜の深夜1時すぎから4時すぎまでやってる生放送なので、1回出るとみんな卒業していくんです(笑)。まず、さまぁ~ずさんが卒業して、どうするかとなったときに、海砂利水魚時代のくりぃむしちゅーに入ってもらって。そのうち雨上がりさんも卒業して、なんとなく「深夜で売れた人はディレクターとタッグを組んで新しいレギュラーをやっていくんだな」という空気ができてきたんです。そこで、くりぃむと一緒に何かやりたいなと思って立ち上げたのが、『くりぃむナントカ』ですね。

――やはり光るものを見て、くりぃむさんとタッグを組もうと思ったのですか?

ぶっちゃけ言うと、僕もくりぃむも余ってたということなんですよ(笑)。その頃のくりぃむは、後輩のロンドンブーツ、ココリコの冠番組にゲストで呼ばれるみたいな感じの人で、今の第7世代に対する6.5世代のような立ち位置だったと思うんですよね。でも、僕はそこで見せる有田のボケや、『虎ノ門』で“うんちく王”もやっていた上田の短い言葉で的確に物事を伝える能力の高さが素敵だなと思っていたので、この人たちと何か番組がやりたいなと思ったんです。

――『くりぃむナントカ』といえば、やはり「芸能界ビンカン選手権」が印象深いです。

そうですね。「ビンカン」に限らず、進行役の有田には当日初めて詳細を伝えます。「ビンカン」の現場に着いたら他の出演者をロケバスに残して、有田と大木だけ連れて場当たり。そのとき初めて“ビンカンポイント”を見せて「これは分かりやすいからもう少し隠そう」とか「これだと分からないからヒントを加えよう」とか有田と相談しながら微調整するんです。それを解答者たちがガチで当てに行く。正直、上田との打ち合わせ時間は5秒くらいだったと思いますよ。

――「ビンカン選手権」は、立ち上げてすぐ手応えがあったのですか?

まだ東京に「ムツゴロウ王国」がある頃に、全然関係ない牧場を借り切って「ムツゴロウ王国」って看板くっつけて、「さぁムツゴロウ王国に到着しました!」ってロケやったんです。上田もおぎやはぎも全然気が付かなくて(笑)。それが上手く行ったとき、何となく見えた気がしましたね。わりと初期の頃だったんで、そのあとが大変でしたよ。「ここは京都じゃない」とかね(笑)

  • くりぃむしちゅーの上田晋也(左)と有田哲平

――『くりぃむナントカ』は深夜でヒットして、ゴールデンにも進出しました。

お笑いド直球でやって、ネオバラ(23時台)で認知されて、ゴールデンに行ったんですが、『ヘキサゴン』(フジテレビ)の裏で半年で終わってしまったんです。でも、テレビ朝日としては、やっぱりくりぃむしちゅーは魅力的なタレントさんなので、もう1回新しい企画を開発しようとなって、ネオバラで始まったのが『シルシルミシル』でした。

『有吉の壁』(日本テレビ)って、深夜からモデルチェンジせずにゴールデンでやれているすごい番組だと思うんですけど、『くりぃむナントカ』は「深夜で面白いことやろうぜ!」からゴールデンへのモデルチェンジがうまくいかなかったんです。だとすると、最初からゴールデン仕様で作ろうということでできたのが、『シルシルミシル』なんですよ。

■『シルシルミシル』企業の開発物語の面白さに気づいた

――最初は、いろいろなものの“お初”を調べて紹介する内容でしたが、その後企業を取り上げる形に変化していきましたよね。

「缶コーヒーのお初」とか「シャープで最初にできた電卓はどんなものだったか」というのをやっていくうちに、企業の開発物語ってやっぱり面白いなと気づいたんです。企業って理念やスピリッツみたいなものがいっぱいあるから、1つの企業に絞ってそれを一本通しにしたほうが面白いという話で、番組が変わっていったように記憶しています。

――パナソニックを特集してるのに「ソニーのテレビを買っちゃうなあ」とか、バカリズムさんのちょっと意地悪なナレーションが特徴でしたが、民放の番組で当時あのテイストをやるのは、相当バランスが難しかったのではないでしょうか?

でも、企業から「これはやめてほしい」と言われたり、怒られた記憶は、そんなにないんですよ。23時台のときもそうでしたが、その後ゴールデンに上がっておかげさまでいろんな人に見てもらえていたので、多少毒舌があったところで、企業にとっては認知が広がるとか、いろんなメリットもあると感じていただけていたと思うんですよね。ただ、最初から「うちはやらない」という企業は、たしかにありましたけど(笑)

そもそも、この番組は何か貶(おとし)めたり裏を暴きたいということじゃなくて、“知りたい”が入り口ですから。「より安いものを作るために実はこれを削らないといけない」ということでも、そこだけを取るとマイナスに見えますが、トータルではお客様ファーストでやっていることじゃないですか。よくディレクターが手前のマイナスのことだけを打ち合わせして帰ってきちゃうこともあったんですけど、「これが理由でこういうことやってるわけがないから、もうちょっとちゃんと聞いてきてよ」って言うと、大体その裏には企業のいろんな気持ちが入ってるんです。それをちゃんと伝えたいとこちらが思っているから、企業さんも「手法はお任せします」という感じで言ってくれたんじゃないかと思いますね。

■「ちょっとずつずらす演出」の意識

――今や各局の番組でリポーターとしても活躍されているずんの飯尾和樹さんを起用したのは、『シルシルミシル』が早かったですよね。

だって、飯尾さんのリポートってくだらないじゃないですか(笑)。一挙手一投足が面白いから、好きなんですよ。今は『かりそめ天国』でもお世話になっていますけど、ここまでブレイクするとは思ってなかったですね。

『虎ノ門』って、作家さんに高須(光聖)さんそーたにさん、渡辺真也くん、岩本哲也くんとすごいメンバーだったんですけど、会議をやってるときに高須さんから「藤井くんは、違和感のあることを演出させたらうまいよね」と言われたんです。それを聞いてから、「本来ならこうするところを、ちょっとずつずらす演出」というのをずっと意識しています。

例えば、普通の番組はMCを毎週同じ人が務めるのに、『虎ノ門』はゲストがいきなりMCをやらされて、それもちょっとへんてこな人がやる。『くりぃむナントカ』も、普通は上田が司会をやるところを有田がボケながらやって、横にいる女子アナもボケてる。「ビンカン選手権」も、本当だったら気づいて答えたいんだけど言えないようなちょっとズレていることを仕組んでいく。『シルシルミシル』のナレーションは本職のナレーターさんではなく、芸人のバカリズムがやる。

――『シルシルミシル』は、朝丘雪路さんのコーナーとかありましたよね(笑)

そうですね(笑)。そんな考えから、こういう言い方をするのは申し訳ないけど、本来は当時もっと売れてる芸人さんがいたのに、他ではあんまり見なかったということで飯尾さんを使ってみようとなったんです。だから、『かりそめ天国』でやってる全国のキャバクラを回るリポートも、今の飯尾さんだったらオファーしてないですね(笑)

  • 『マツコ&有吉 かりそめ天国』有吉弘行(左)とマツコ・デラックス (C)テレビ朝日

――『かりそめ天国』と言えば、前身の『怒り新党』がスタートする当時、マツコ・デラックスさんも有吉弘行さんも今のようなMCというイメージはなかったと思いますが、これも“違和感”の演出の文脈なのですか?

実は、マツコ&有吉というのは、僕の考えたカップリングじゃないんです。当時入ったばかりで、今『あいつ今何してる?』『あざとくて何が悪いの?』とかをやってる芦田(太郎)が書いたんですよ。ただ内容がなかなか固まらなかったみたいなんです。

ちょうどその頃、編成の上の人とあるパーティーに行ったらそこにマツコがいて、『シルシルミシル』にも出てもらってたので仲良くしゃべってたら、編成の人が「藤井、実はマツコと有吉っていうカップリングの案があるんだけど、何か企画を考えてくれないか?」と言われて、視聴者の怒りに対して2人が採用・不採用で判定するという『怒り新党』を考えたんです。そこに、夏目(三久)さんがフリーになられるという話があって、だったら是非にってことで。