――キャリアを積み重ねられてきた中で、ご自身で手応えのある企画を挙げるとすると、何ですか?
企画は「あれは俺だ!」と言うと、「あのヤロー!」と怒るディレクターがいっぱいいますので(笑)。ただ、誰も言ってくれないので初めて言いますが、『トリビアの泉』の「トリビア」という言葉は、僕が会議で言ったのを覚えています。記憶してるのは僕だけかもですが…。
「トリビア」は「瑣末(さまつ)」とか「どうでもいい」という意味なんですけど、僕が学生時代オーストラリアのパースに留学していたときに『スーパートリビア事典』という本を書店で見つけて、田舎でやることがないから、毎日パラパラ読んでたんです。それから数年後、放送作家になって『スーパートリビア事典』というそのままのタイトルで企画書を日テレの『さんま御殿』の小川通仁さんという演出の方に出したら「これはイイ!」と言われたんですが、落選してしまって。それでも小川さんに「どこの局でもいいから、俺が見たいから出しなさい」と言われ、いろいろ出したんですが通らなくて、あきらめていたんです。
そんなタイミングで、大先輩の作家の酒井健作さんが『HEY!HEY!HEY!』のパロディーみたいなタイトルで、うんちくを言って『へぇ!へぇ!へぇ!』という企画を出されていて! そちらは見事に企画として昇華されてフジテレビで通っていて、健作さんに誘っていただき、番組に参加することになりまして。当時「うんちく」って親父が飲み屋で言うような言葉でネガティブなイメージがあったから、タイトル会議で僕が「ここでトリビアって言葉つかえるぞ…」と思って、「『スーパートリビア事典』という本があって『些末な』っていう意味で『トリビア』という言葉があるんですが、良くないですか?」って言ったら、なんとなくディレクター陣や健作さんがノッてくれたと記憶してます。それに「トレビの泉」が掛け合わされて、『トリビアの泉』になったと思います。これは自分の中の、まあまあいい仕事したんじゃないかな、という手応えかもしれません。
――番組のおかげで、今や「トリビア」はすっかり浸透した言葉になりましたよね。
あとは『シルシルミシル』のタイトルも、童話の『チルチルミチル』から「知る知る見しる」にしたダジャレを案で出した会議ネタだったんですが、テレ朝の藤井(智久、現・コンテンツ編成局次長)さんがギャグで候補に入れてくれて、くりぃむしちゅーさんに持っていったらこれが選ばれたと聞きました。これも誰も言ってくれないので、そっと言わせてください(笑)
――コピーライター志望だったというところが、番組タイトルのセンスにも発揮されているんですね。他にも、北本さんが他にタイトルに関わった番組はありますか?
これは命名者ではないですが、『モヤモヤさまぁ~ず2』は、もともと伊藤Pが考えたのが、ちんちん電車みたいにロープを持ってさまぁ~ずさんとゲストが街を歩くということで『ちんちんさまぁ~ず』というタイトルだったんですけど、さすがに偉い人に通らなかったらしくて(笑)。その頃、僕が伊藤Pとか演出の株木(亘)さんに企画を出すとき、「ちょっとまだ固まってなくてモヤモヤしてるんですけど…」って、“モヤモヤ”というのを言い訳のように言ってたんですよ。そしたら、「かつらが言ってるあの“モヤモヤ”っていいな」となって、このタイトルにしたよと聞きました。
――『モヤさま』も深夜時代から数えて14年になります。
この番組は伊藤Pも僕もさまぁ~ずも東京人で、演出の株木さんも東北の人ということで、“西”の感じがないんですよ。いわゆる吉本っぽいギラギラしたお笑い感がないので、さまぁ~ずさんが変なことをするというより、街の愛すべき変な人をうまく調理する。「なんでやねん!」ってツッコまないで、変なこと言ってたら「ハハハ、さすがだなぁ~おじさん」「なるほど、なるほど、やるねーお母さん」と言って去っていくというか、白黒はっきりさせない優しさというか。うまく言えませんが、その辺のさじ加減がさまぁ~ずの腕であり、“東京風”な番組だなぁと思ってます。
■たけし×安住アナを生んだバラエティ制作者
――ここまで、いろんなディレクターさんの名前が出てきましたが、特に印象に残る方を挙げるとどなたになりますか?
テレ朝の藤井さんには本当にお世話になってます。ディレクター界のミスターストイックというか軍人のような人なんですけど、侠気があって、熱くて、(ビート)たけしさんの裏方版といいますか。参加させていただいた『シルシルミシル』で、例えばパナソニックを特集したとき、「これぐらいの説明では我々は騙(だま)されません、これならソニーのテレビを買っちゃうかも…どうか御社のテレビを買いたくなるような説明をもっと!」とか、バカリズムのちょっと意地悪なナレーションを付けたんですよ。当時、我々作家チームもよくインタビューを受けて「あのナレーションすごいですね」とよく言われたんですけど、あのテイストを作ったのは完全に藤井さんです。企業が怒るか怒らないのギリギリのラインを攻めて、それもぶっきらぼうじゃなく、めちゃくちゃ愛情ある編集をするんです。
そもそも、企業案件を扱うというのは通販みたいでダサいと言われてたのに、『シルシルミシル』が初めてバラエティに昇華させたと思っています。藤井さんがすごいのは、こういう情報バラエティの演出ができるんですけど、もともと『くりぃむナントカ』で「ビンカン選手権」とかやってた人ですから(笑)。『シルシルミシル』の会議が終わって、そのまま『くりぃむナントカ』『志村・鶴瓶vsナインティナインの元祖英語禁止ボウリング』の会議をやってましたからね。
藤井さんは僕にとって学校の先生みたいな人で、大学からバイトを1回もやったことなく、社会を知らないでずっとテレビ村にいるので、社会人のマナーとかが全く分かっていなくて、「もらった名刺をなんで置きっぱなしで帰るんだ!」というところから「運転下手なら社会のために運転しちゃだめだ」とか、「妹の新婚旅行に何で行ってんだ、ついていっちゃダメだ!」とか、番組作りだけでなく、そういう生活態度、道徳的なことも含め、全部教えてもらいました。
――妹の新婚旅行に行っちゃダメなのは、社会人経験しなくても(笑)
あとは、TBSの阿部龍二郎さん(現・TBSテレビ取締役)ですね。『ぴったんこカン・カン』や『金スマ』のスーパーP&演出家で業界では知らない人はいない方ですが、たけしさんと安住(紳一郎)さんを合体してニュース番組を作ったら面白いだろうという阿部さんのアイデアで『(情報7days)ニュースキャスター』が生まれ、立ち上げから参加させていただいてます。
とにかく阿部さんは、会議中から作家以上にガンガンアイデアが湧き上がって発言されるので、会議に一緒に出させていただくと本当にプレッシャーが半端ないです。つまんないこと言うと「かつらちゃん、それ普通でしょ。大丈夫?」とスパッと言われるので(笑)、ドキッとするアイデアを言わないと全く心動いてくれないです。