すごく悔しかった『戦闘車』

――『プレバト!!』と『初耳学』という2つの番組を担当して、共通するポリシーはあるんですか?

大切にしていることは、自分が他の制作者に負けない分野で勝負することです。これは林先生の考え方に影響を受けてるんですけど、勝負は"自分の得意な土俵"でやるべきで、"自分が好きな土俵"にこだわってはいけないと思っています。個人的には『月曜から夜ふかし』や『深イイ話』は好きな番組だし、やっぱり『水曜日のダウンタウン』からは刺激を受けます。でも、あれは藤井(健太郎)くんの強みを生かした番組だから、僕はあっち側で勝負をしてはいけないんです。今は視聴者の目がシビアなので、演出の手法が他の番組と近かったりすると"No.1"と"その他"という風に簡単に仕分けられてしまうし、"その他"扱いをされてしまうと本当に見向きもしてもらえない。だから誰にも負けない個性で勝負したいと思っています。

――ちなみに水野さんの強みはどこだと思っていますか?

僕の場合は、バラエティとEテレのような教養をハイブリッドさせられることだと思います。ずっとバラエティで育ってきたけど、学生時代から林先生の薫陶を受けているので、論理的な構成力もある方かなと。この両方を上手く組み合わせられたら、他局の制作者とも勝負できるのではないかと信じています。

――最近、テレビの規制が厳しくなってきたと言われることについて、どう思いますか?

規制よりも僕らが萎縮しちゃって自滅している感じはあると思うんです。とても小さな話なんですけど、ちょっと油断をすると「人口100万」というナレーション原稿に、誰かスタッフがクレームを恐れて「およそ」を付け加えている。もっとヒドくなると「人口およそ100万と思われる…」みたいな過度な婉曲表現が横行しています。

でも、さらにヤバイのはテレビの制作者が気付かないうちにストッパーを装着しちゃっていて、萎縮してることに気付いてない場合です。今、Amazonプライム・ビデオで、『戦闘車』が配信されてるじゃないですか。あれって、スポンサーへの配慮から地上波では放送できない内容なんですけど、今の僕が仮に地上波以外で勝負するとしても、あの企画は思いつけない気がして、すごく悔しかったんです。車同士を激突させるなんて、絶対にダメっていう思い込みがありましたからね。意識の外側にあるストッパーは外せないから、本当に厄介です。

地上波の番組は"商品"であるべき

――「若者のテレビ離れ」ということが言われる中で、思うところはありますか?

地上波の番組は、やっぱり多くの人に見てもらう"商品"であるべきだと思うんです。"商品"と言っても、視聴者にすり寄ったりするというネガティブな意味ではなく、新たな視聴ニーズを発掘するような番組を世に送り出すべきだと思います。最近は若い人たちのスマホ視聴や録画視聴が顕著ですけど、そんな今でも、一番の評価基準はやっぱりテレビの世帯視聴率。結局、世帯視聴率が番組存続の大きな尺度になってるから、僕も今のところは最も多い視聴者層に弾かれないようにしています。でも新しい評価基準が定着したら、今のテレビ制作者たちは、若者に向けた"商品"だって作れると思いますよ。

――これまでに水野さんが影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすると、何ですか?

『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)ですね。大学時代から入社後まで、何度も録画を見返しましたし、制作者が緻密に準備して番組のクオリティを上げるという点で、教科書のような存在だと思ってます。特に自分が制作に配属されてロケを担当していた時は、『めちゃイケ』のロケVTRを1フレーム単位で確認していたこともあります。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている"テレビ屋"を伺いたいのですが…

『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』を手がけているテレビ朝日の加地倫三さん。お食事をご一緒した時にもいろんな話を伺っているんですが、あらためて演出論をお聞きしたいです。『プレバト!!』と『初耳学』は定着しましたが、立ち上げた時とはまた違う悩みもあるんです。でも加地さんの番組は、長寿なのに常にアップデートされています。僕のこの先の課題の乗り越え方を知っていらっしゃると思うので、ぜひ教えてほしいです。

次回の"テレビ屋"は…

テレビ朝日『アメトーーク!』『金曜★ロンドンハーツ』演出・ゼネラルプロデューサー 加地倫三氏