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ドラマにありがちなシチュエーション、バラエティで一瞬だけ静まる瞬間、
わずかに取り乱すニュースキャスター……テレビが繰り広げるワンシーン。
敢えて人名も番組名も出さず、ある一瞬だけにフォーカスする異色のテレビ論。
その視点からは、仕事でも人生の様々なシーンでも役立つ(かもしれない)
「ものの見方」が見えてくる。
ライター・武田砂鉄さんが
執拗にワンシーンを追い求める連載です。
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主演俳優による番宣がいつまでも上手くならない問題

「涙あり笑いあり、ヒューマンドラマにもなっている作品」
「はい、それではここで、○○さんからお知らせがございます」
「はい、えー、今週の土曜日から、映画『○○○』が公開になります」
「はい、この映画はどういった……」
「はい、この映画は、ある郊外の街で起きた殺人事件をきっかけに、僕が演じる桜塚佑二の周辺で奇怪な出来事が相次いで起きます。信頼していた人に裏切られ、人間不信となった佑二が、悪とは何か、生きるとは何か、驚愕の結末まで、涙あり笑いあり、ヒューマンドラマにもなっている作品です。是非、劇場に足をお運び下さい」
「はい、映画『○○○』、今週土曜日公開です。本日は俳優の○○○○さんにお越し頂きました。ありがとうございましたー!」

連鎖する苦笑い

今日は連ドラの告知だな、映画のプロモーションだなと、テレビの前のこちらが理解を示しすぎる現在だが、こんな現在って、そんなに長年続いてきたものではない。朝のワイドショーに生出演、バラエティの企画で街ロケに参加、トーク番組では赤裸々トーク……ひたすら主演俳優があらゆる番組をジャックする。「佑二の周辺で奇怪な出来事が起こる」と繰り返し告知されることによって、見てもいないのに「もう別に佑二の周辺で何が起きようと構わない」とただただ飽きる人も少なくないだろう。

「早起きは苦手ですが……」と苦笑い、「街ロケなんて始めてですが……」と苦笑い、「これまでトーク番組とかあまり出たことないので……」と苦笑い。まったく本望ではない気配を「それでも見て欲しい」に繋げていく番宣を浴びながら、柿ピーのピーの少なさに憤りつつ画面を眺めるこちらは、「じゃあ、出なきゃイイじゃん」とぶつくさ呟くものの、この構図自体にはすっかり飼い馴らされている。

ワイドショーでの番宣が一番たどたどしくなる

皆、初回放送や公開日1週間前から公開後1週間にかけて、プロモーションに励んでくる。シリアスなドラマの初回放送直後にアイドルにクッキングしてもらって上機嫌というのは、ドラマにとって効果的なのか、と疑ってはいけない。とにかく告知、告知、告知、で羽交い締めにして認知させてくる。

録画設定で、特定の俳優が出演する番組を録りためて、映画の番宣をする場面を並べてみる。冷静に文字に起こしてしまうと、おおよそ適当な紹介である。とにかく番組に登場することを一義にしているからとはいえ、こんなにも大雑把でいいのだろうかと勝手な不安が立ちこめる。「サスペンスでありながら人間ドラマも充実している」というアピールは建設的でも、「涙あり笑いあり、ヒューマンドラマにもなっている」という逸脱はさすがに映画の印象を損ねるのではないか。「本当にこのドラマ、現場の雰囲気が良くって……是非、見ていただきたいです」も多いが、それはさすがに映画の内容を端折りすぎではないか。

この慣習をやめてみてはどうか

番宣の一義は「顔を出す」で済まされているとも言えるから、サスペンスドラマに内在するヒューマンドラマ具合なんて精査されない。現場の雰囲気が良ければそれでいいじゃないか。となると、「って、宣伝かいっ!」と辛めに突っ込んでくれるMC、「はいはい、どうせ宣伝で来たんでしょー」と呆れた口調で誘い出してくれるMCが待望される。この手の存在がいれば、中身が問われなくても済む。むしろ、朝のワイドショーなどで、正しい手順で「このドラマの見どころを教えて下さい」と問われ、周辺のアナウンサーが凝視している状態で放たれる番宣コメントは最もたどたどしくなる。

いっそ、映画の内容を問わない&語らない、で構わないのではないか。ワイプで告知映像を流し、「僕が出ている映画」と示すだけでいい。番宣の一義は「え、出てんの」と確認させることである。番宣コメントはもはや、「マイナスにならないようにこなす」ハードルになっている。あの数十秒で端的に映画の魅力が伝わったことなど一度もないのだから、この慣習をやめてみてはどうか。とにかく僕たちは、あの数十秒を信頼していない。

<著者プロフィール>
武田砂鉄
ライター/編集。1982年生まれ。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「beatleg」「TRASH-UP!!」「LITERA」で連載を持ち、雑誌「AERA」「SPA!」「週刊金曜日」「beatleg」「STRANGE DAYS」等で執筆中。近著に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。

イラスト: 川崎タカオ