テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第77回は、6月29日に放送されたNHKのバラエティ番組『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』(毎週土曜20:15~)をピックアップする。

同番組は、ふだん聞けないお金の秘密を“財布の妖精”カネオくん(声:千鳥・ノブ)が突撃調査する“おカネ教養バラエティ”。6回にわたるパイロット版の放送を経て、今年4月6日にレギュラー放送がスタートし、月曜深夜と土曜朝の2度の再放送もあって徐々にファンを増やしている。

次回のテーマは、「最新! ペットにかかるお金の秘密”を徹底調査!」。お金に関する深掘りはもちろん、山崎弘也、神田松之丞、青山テルマというクセ者ぞろいのゲストが、有吉とカネオくんにどう絡んでいくのか楽しみだ。

  • 有吉弘行(左)と田牧そら=『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』7月13日の放送より (C)NHK

■ライバル・チコちゃんとの決定的な違い

番組スタート後、有吉弘行の第一声は、日直アシスタント・田牧そら(中1)への「今ほしいものは何?」という質問だった。田牧の返事は「(雨)カッパ」。さらに「でも、みんなが着ているやつを見に行ったら5,000円もして買えない…」と話すと、有吉は「だってお父さんは…」と発言を促し、田牧は笑顔で「せこいから」とお約束のフレーズ(田牧の父=せこい)をしゃべった。

続いて、有吉が声をかけたのはカネオくん。「また衝動買いで無駄遣いしてるんでしょ?」と尋ねられたカネオくんは「電子ドラムを25万円で買ったが、1カ月でやめてしまい、今は嫁の下着が干してある」と答えて笑わせた。その直後、カメラがとらえたのは、声の主であるノブの顔。声の主を映すか? 映さないか? カネオくんが日ごろライバル視している『チコちゃんに叱られる!』(NHK)のチコちゃんとの決定的な違いだ。

さらに、有吉はゲストを紹介。松之丞に「講談師は儲かるんですか?」と尋ね、「儲かりますね。1人でやるじゃないですか。芝居だったらみんなでやって分けるでしょ。1人なんで(お金が)ガっと来るときはガっと来ます」と言うコメントを引き出して笑いを誘った。最近はゲストの名前どころか、顔さえ映さずにVTRを進めてしまう番組が多いだけに、30分という短い番組での丁寧な構成に好印象を抱いてしまう。

本編がはじまると、インスタフォロワー数250万人の柴犬・まるを映して視聴者を癒やしつつ、「15歳未満の子ども1553万人、犬・猫の推計飼育頭数1855万頭」「日本は2003年以降、子どもよりペットのほうが多いペット大国」という企画の根底となるデータを紹介。カネオくんは「こりゃ、お金のにおいがプンプンするで~!」と本題に向かうべく、“振り”を加速させた。

続いて、カネオくんはインスタフォロワー5万9000人のトイプードル・しらす(3歳)の家へ。ここで、「さまざまなモノの金額を都合のいいときだけ可視化できる」という“カネオスコープ”が登場。その効果を示すために、「青山テルマのパーカー6,800円」「山崎弘也ストラップ200円」を映すというゲストイジリで笑わせた。

ちなみに、しらすにかかった費用は、ケージ3万円、怒られたときに逃げ込む用のおうち2万円、スペイン製のベッド25万円、毎月のトリミングサロン代1万2,000円、泥パック1回500円、しつけ教室10万円などで、3歳までに300万円以上をかけてきたという。さらに、個人のエピソードに留まらず、「ペットにかける年間費用は約48万円であり、10年前と比べて倍以上になっている」というデータを紹介したのは、いかにもNHKらしい。

■現在のNHKバラエティに求められるもの

その後、カネオくんは「2017年のペットフード年間出荷額は約2900億円」というデータを挙げたあと、完全無添加のペットフードを製造するペットフード工場に潜入。「スタッフが食べながら風味の確認をしている」「原材料は人間の食品安全基準をクリアしたヒューマングレード」「犬の肥満率は54.9%、人間は31.3%(犬のほうが太っている)」などのトリビアを紹介した。

次のコーナーは、「ペットフードメーカーを渡り歩いてきた」というペットジャーナリストの橋長誠司氏による“カネオクイズ”。そのクイズは「ペットフードには特定の何に対応したものがあるんでしょうか?」というものだった。

正解は「特定の病気に対応したフード」であり、尿石、皮膚トラブル、肥満などに対応した療法食という。しかし、カネオくんはただ学べるだけで終わらせない。「尿石って、あのサンド(ウィッチマン)富澤(たけし)さんもなっとるやつじゃ。こりゃ食べさせなアカン」とオチの笑いを忘れなかった。この学びと笑いのバランス感覚が、現在のNHKにおけるバラエティのスタンダードなのだろう。

スタッフが最後のコーナーに選んだのは、ペットにまつわる新サービス。1つ目の“ニャッチング”は、「お互いの猫を預け合える」「利用の際は飼育歴や身分証の提示が義務づけられている」「謝礼は任意制で、サービス利用料金は0円」という便利なものだった。

2つ目は、猫つきのマンション。都内にある「ペットOK」の賃貸物件は14%のみで、飼いたくても飼えない人が多いことを受けて、保護猫と一緒に暮らせるサービスが始まったという。家賃は人間のみの場合と変わらず、目黒区1DKで8万9,000円など。このサービスでマンションオーナーへの問い合わせが3倍になったほか、2013年の4部屋から2019年には20倍の80部屋に増えたという。

番組の最後にペットを飼っている人、ペットを飼いたいけど飼えなかった人。両方に役立つ情報をそろえた構成は、「さまざまな立場の人々を踏まえた番組作りが求められている」という現在のバラエティにおける難しさが表れていた。

■事実上の主役は有吉ではなくカネオくん

当番組のMCは有吉だが、事実上の主役は、カネオくんであり、ノブだろう。実際、カネオくんは、スタジオとVTRの両方に登場し、誰よりもカラフルで表情豊か。実写の犬に乗って走り、新幹線に乗ってロケ地に向かうなどの遊び心も効いて目立ちまくっている。

締めのトークテーマも、「カネオくんがホントに人気ないんだけど、どうしたらいい?」。山崎には「まず声を変えたら? ノブくんだもん」、有吉にも「人気声優にやってもらいたい」と畳みかけられたカネオくんの「それだけは言うな。NHKの人、聞くなよ!」というオチで番組は終わった。

カネオくんと有吉の関係性は、チコちゃんと岡村隆史の関係に近いし、カネオくんとチコちゃんの役割は似ている。「CGやアニメのキャラがタレントの代わりを務められる」という話ではないのは、トークに長けた芸人が起用されていることから分かるだろう。

技術的な進化で「タレントの生かし方や使い方が広がっている」のは間違いなく、その意味で当番組のスタッフは、飛ぶ鳥を落とす勢いのノブを生かし切れなければ、失敗のらく印を押されるはずだ。

タレントの生かし方で言えば、ゲストの扱いは実にもったいないものがある。事実、同じく飛ぶ鳥を落とす勢いの松之丞の主なコメントは2度のみであり、独特の語りは見られなかった。山崎、青山も同様であり、「30分番組の中でゲストをどう使っていくのか?」という答えは見つかっていない。その点では何かと比較される『チコちゃんに叱られる!』に大きく劣っているだけに、早急な打開策が望まれる。

■次の“贔屓”は…高島忠夫さんを偲ぶイントロクイズ『クイズ!ドレミファドン』

『クイズ!ドレミファドン! 2019夏』MCの(左から)伊藤利尋アナ、中山秀征、永島優美アナ (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、5日に放送されるフジテレビ系バラエティ『クイズ!ドレミファドン! 2019夏』(19:00~21:55)。

イントロクイズを生み出したレジェンド番組であり、1976年~88年のレギュラー版終了後も、特番として年1~2回のペースで放送され続けている。

今回の解答者は、上野樹里、三浦春馬、深田恭子ら夏ドラマの豪華俳優陣で、番宣を賭けたバトルはヒートアップ必至。クイズ番組としてはもちろん、ドラマ番宣を含めた改編期特番、さらに“音楽コンテンツ”という点で、各局が長時間放送する夏の音楽特番なども絡めて、偉大な初代司会者・高島忠夫さんが亡くなったこのタイミングで掘り下げていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。