テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第76回は、22日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『こんな休日どうですか 内村バカリ南原出川が本気で考えた!最高の旅SP』をピックアップする。

「のんびり過ごす休日より、朝から晩まで1秒たりとも無駄にせず一生懸命休もう!」がテーマのロケ番組であり、今回の放送は昨年5月に続く2回目。前回に続いてウッチャンナンチャンの2つのチームに分かれて最高の休日を提案していく。

内村光良率いる“内村班”は、温泉をめぐる旅。バカリズム、日村勇紀(バナナマン)、朝日奈央、武田真治と6か所の温泉を一日でめぐるプランを用意している。一方、南原清隆率いる“南原班"は、理想のカラダを手に入れるプラン。出川哲朗、佐藤栞里、澤部佑(ハライチ)、塚田僚一(A.B.C-Z)、池田美優とさまざまなエクササイズやグルメを体験するという。

1996年7月~2003年9月に放送された『ウンナンの気分は上々。』(TBS系)を思わせるコンセプトの番組だけに、どこかノスタルジックな笑いにも期待したい。

  • (左から)内村光良、バカリズム、出川哲朗、南原清隆

■いいかげんだけど、かわいらしいウッチャン

番組冒頭、出川が自信あり気な顔で「マセキ(芸能社)のBIG4ですから」と言った。確かに、大物MCのウッチャンナンチャン、ポンコツ芸人界のトップに君臨する出川哲朗、クレバーさでは業界最高峰と言われるバカリズム…ネームバリューも芸のバランスも申し分ない上に、4ショットの絵面だけでも面白い。

まずは、内村班の「温泉大好き!内村が本気で考えた 鬼怒川の温泉1日でたくさん入る旅」から。内村は旅のしおり「鬼怒川~那須高原 猛烈北上ツアー」を作るなど、見るからにやる気満々だ。

そのスケジュールは、足湯 → 畳風呂 → 朝食(湯葉そば) → ラフティング → 洋品店で着替え探し → 空中庭園露天風呂 → 昼食(ラーメン) → 墨の湯 → キャニオニング → 打たせ湯 → 絶景露天風呂 → 恒例のカラオケ宴会。これだけのハードスケジュールを1日でこなすために、“せかす内村vs不満をこぼすメンバー”という図式で旅は進んでいった。

スケジュールを守るために、名所で写真を撮らず、温泉をすぐにあがり、ウエットスーツを着る時間を省いてびしょ濡れになり、それでも常に「〇分押し」とプレッシャーをかける内村。

ただ、“シャンプーバイキング”という微妙なサービスに食いついたり、時間がないのに名物の湯葉を追加オーダーしたり、キャニオニングへの挑戦を買って出るも緊張感でえづいてしまい、頭頂部で強烈な打たせ湯を受け、最後も武田鉄矢のモノマネで旅の総括をするなど、新しいことも過激なこともしていないのに笑わせてしまうのはさすであり、『気分は上々。』でよく見せていた“いいかげんだけどかわいらしいウッチャン”そのものだった。

次に演出面で注目すべきは、映像を受けて表示される“内村猛烈旅のポイント”。それぞれフリ、オチ、フォローの役割を果たすなど効果的だった。

「温泉の良さを知る前に出る」「思い出よりもスケジュール重視」「時間がないからドローンも無視」「せっかくの畳風呂なのに畳は楽しまない」「但し興味あるものには食いついて良し」「シャンプーバイキングは絶対やる」「名物よりもスピード重視」「気になったら頼んでよし」「ウエットスーツ着ないのがアダとなる」「午前中なのに眠くなる」「滞在時間の短さに不満」「鬼怒川太朗の距離が近い」「鬼怒川太朗についていけない」「おじさん4人が入る温泉を飲む」「時間が無いので険しい山道の最短ルート」「北関東最大のモンスター級スポット」「時間が無いのでキャニオニングは1人だけ」「時間がないのでバラエティのお約束は無し」「時間がないのに頭を濡らしちゃう」「6つの温泉 完全制覇」「超ハードだったけど最後は超充実」

あえて一覧として並べたのは、「これだけ笑いの手数があった」ことを証明するため。「いかに密度の濃いロケが行われ、タレントたちがスキルを発揮しているか」が分かるのではないか。

■面倒くさいけど、かわいらしいナンチャン

一方、“南原班”は、「健康本大好き 南原による超スパルタ休日!? 何歳になっても動きやすい体を作るツアー」。

そのスケジュールは、肩こりを治すならSUP(スタンドアップパドルボード) → 身体にスイッチを入れるならTPS(たんぱく質) → 腹をへこませるならSK(四股)、尻を上げるならKW(腰割り) → 年齢があらわれやすいのはIM(インナーマッスル) → 1日の最後に気分をアゲるのはBR(ブラジル料理)。こちらもすべてを1日でこなすハードスケジュールだ。

南原も「強引で偏ったところがある」という点では内村と同様。ただ、あっさり前言撤回してしまう内村に対して南原は、やり抜こうとするこだわりが強く、“面倒くさいけど、かわいらしいナンチャン”という印象を与えていた。

内村班と南原班、どちらの旅も、「漫才師ではなくコント師」の2人らしいアクティブさがあり、さらに実用性とアカデミックな要素も兼備。視聴者の興味を引くとともに、さまざまな距離間から撮影することで主観と客観を感じさせるカメラワークが素晴らしかった。

気になったのは、両班の旅が放送されたあとの「いま話題の最新休日を徹底調査」というコーナー。中岡創一(ロッチ)が「モノをぶち壊してストレスを発散」、塚田が「超絶コワいアスレチックに挑戦」、いとうあさこが「小顔になれる予約殺到サロン」のロケを行い、スタジオゲストの名取裕子、山本美月、ジェジュンが行きたいかどうかを判定したのだが、明らかに熱量が低く、情報の鮮度も低かった。

「ロケの撮れ高不足」というリスクを軽減させるコーナーなのか、スタジオゲストを生かすために作られたコーナーなのか、それともレギュラー版の布石となるサブコーナー候補なのか。いずれにしても、「これならウッチャンナンチャンの旅をもっと見せてくれればいいのに」と感じた視聴者が多かったのではないか。

■特番ではなく日曜夜のレギュラー放送を

同じ『土曜プレミアム』で昨年12月に放送された『出川と爆問田中と岡村のスモール3』もそうだったが、「大物芸人が長時間ロケを行い、さらにその映像を後日スタジオ収録で見る」という構成は、手間がかかるのはもちろん、スケジュール調整としても難しいものがあり、当然ながらコスパは下がってしまう。

しかし、謎の歌手による歌謡ショーに引っ張り出された内村を見た南原の「内村、ああいうの一番嫌なんだよな。テレビじゃなかったら絶対に行かない」というコメントに内村が「行くって(笑)」とリアクション。また、朝日が食事中に雑談すらしない内村のことを「こんなに暗かったんだ」と話し出すと、すかさず出川が「もとのチェン(内村)はこういう人」、南原が「全然ブレてない」、内村が「批判が止まらないな!」とコメントするなど、スタジオトークがワンシーンの笑いをワンサイズ大きなものにしていた。こうした労力を惜しまない制作姿勢は、もっと称えられてしかるべきところだろう。

この手のロケ企画では、「どちらが面白かったか?」という議論が飛び交うものだが、この番組に限っては、あまり意味がなさそうだ。番組のラストで出川が「ウッチャンナンチャンって、ツッコミがいなくてボケと天然なのよ」と語っていたように、両者には共通点があり、だから両方そろうほうが面白く見えるのではないか。

特筆すべきは、「彼らがそこにいるだけで面白い」というタレントの力を前面に押し出した番組だったこと。前述したように、新しいことや過激なことはしていないし、たとえば『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)と比べれば、その違いは分かるだろう。少なくとも、「もっとムチャをしなければ」というプレッシャーは、タレント、スタッフともに画面から伝わってこない。

終わってみれば、やはり『気分は上々。』と似た魅力のある番組だったが、当時よりタレントの“ぶらり散歩”や“ゆる旅”が増えた現在のほうがフィットしそうな感がある。「単発特番の21時以降ではなく、『イッテQ!』『ザ!鉄腕!DASH!!』(日テレ系)や『モヤモヤさまぁ~ず2』(テレビ東京系)が放送されている19~21時のほうがいいのではないか?」と思ってしまった。

最後に、おっさんたちが浸かっている真っ黒な温泉を即飲みした朝日奈央と、アンガールズ田中のカニ芸を自分のモノにした佐藤栞里は、“裏MVP”と言える活躍ぶり。ますますバラエティの仕事が増えるはずだ。

■次の“贔屓”は…合い言葉は「チコちゃんに続け!」 『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』

(左から)山崎弘也、青山テルマ、神田松之丞、有吉弘行、田牧そら (C)NHK

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、29日に放送されるNHKのバラエティ番組『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』(毎週土曜20:15~)。

同番組は、ふだん聞けないお金の秘密を“財布の妖精”カネオくん(声:千鳥・ノブ)が突撃調査する“おカネ教養バラエティ”。6回に渡るパイロット版の放送を経て、今年4月6日にレギュラー放送がスタートし、月曜深夜と土曜朝の2度の再放送もあって徐々にファンを増やしている。

次回のテーマは、「最新!ペットにかかるお金の秘密”を徹底調査!」。お金に関する深掘りはもちろん、山崎弘也、神田松之丞、青山テルマというクセ者ゲストたちが、どう有吉に絡んでいくのか楽しみだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。