テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第4回は1月24日に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS系、毎週水曜22:00~)をピックアップする。

2014年4月の放送スタートから、まもなく4年になるにもかかわらず、いまだ「業界視聴率トップクラス」「プライム帯で最も攻めている番組」などの声が上がり、演出の藤井健太郎氏らが絶賛を集めているが、その品質や演出に変わりはないのか。

2018年がスタートしたばかりのこのタイミングで、その魅力を探っていきたい。

「捨てカット」さえ笑いに変えてしまう

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ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功

同番組のコンセプトは、「個人が妄信的に信じ込む"説"を芸能人たちが独自の目線と切り口でプレゼンし、実験ロケを交えて検証していく」というもの。番組ホームページには、「アカデミックでありながら、くだらないトーク&情報エンタテインメント番組」と書かれている。

ただ、今回の「芸能人の地元探れば元カレ元カノぐらい簡単に見つかる説」というトップネタを聞けば分かるように、極めて"くだらない"寄りであり、アカデミックも情報もごくわずかだ。

麒麟・川島明が「心温まるゲスさ」、浜田雅功が「これ悪い企画やな」と語るにふさわしい1人目のターゲットは矢口真里。地元の横浜で片っ端から街頭インタビューを仕掛けて、元カレ情報を集めていく。すると、地元が同じダレノガレ明美の元カレ情報が飛び込む……が、「いろいろとややこしそうな案件なのでここでストップ」のナレーションで終了し、矢口の情報に戻った。

このあたりのドキュメンタリー的な演出を入れなければ、すべて"仕込み=やらせ"と思われかねない企画だけに、これもまた必要なくだりと言えるだろう。しかし、そんな捨てカットすらも、笑いを交えてまとめてしまうのはさすがだ。

その後、ついに矢口の元カレと連絡が取れたが、「出演は断固拒否。絶対嫌だ。今さらなんなんだよ」と強烈に拒絶されてしまった。結局5人の元カレ情報が集まり、そのうち2人が出演NGで、3人は音信不通。「矢口本人のいないところで好き勝手に調べたあげく、元カレからのひどい扱いを引き出した」という点がこの説の肝だろう。

しかし、番組としては当然、映像の尺も、笑いの撮れ高も足りない。そこで、「中学校の卒業時に矢口からボタンを求められてブレザーをあげた」という先輩男性を登場させた。ただ、男性の身長は(元夫で身長192㎝の中村昌也を思わせる)190㎝……すかさず「やっぱり」のナレーションと、浜田の「これもう癖(へき)やで」というツッコミが入る。

一連のVTRを見た矢口は、苦笑いしながらも「高身長好き」をはじめ大半の内容を受け入れ、「1日で終わっちゃった人もいるんですよ。(付き合った人の)数はちょっと……」とさらなる笑いを狙ったが、これは後づけであり"ややウケ"。すでに「やっぱり」のナレーションで、笑いの撮れ高は保証されていた。

最大の主役はナレーター・服部潤

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演出のTBS・藤井健太郎氏

2人目のフォーリンラブ・バービーは、北海道で調査したものの「そもそも元カレがいなかった」の残酷な結末。3人目のとろサーモン・村田秀亮は、宮崎で前田敦子似「なつみさん」の取材に成功した。しかし、恋の話はサッと終わらせて、相方・久保田かずのぶの泥棒疑惑を追及。検証結果「過去を掘り返してもあまり良いことはない」のナレーションで笑いを誘った。

同番組における最大の主役は、ダウンタウンでも、プレゼンターでも、ドッキリ要員のクロちゃんやオードリー・春日俊彰でもなく、ナレーション担当の服部潤だと思っている。

続く企画「ミスター押忍が空手全国大会出場」でも、ミスター押忍が過去の大会で反則負けしたVTRを流しつつ「(寸止め競技で反則にあたる)止める気ゼロの押忍な一撃だった」でひと笑い。次に、「押忍」の声が飛び交う会場を「押忍の巣窟」。さらに、「(ミスター押忍は)気合が入りすぎて6時間前に会場入り」とたたみかけ、最後は「(試合前に足を痛め、骨折の疑いで病院へ行くと)検査の結果、幸い骨には異常なしだったミスター押忍……痛風だった」と爆笑で締めくくった。

服部潤は、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)、『ジョブチューン』(TBS系)、『王様のブランチ』(TBS系)などで見せる正統派のナレーションが売りと思われがちだが、まさに変幻自在。『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)、『ゴッドタン』(テレビ東京系)などお笑い純度の高い番組で見せるナレーションは、業界トップと言われている。演出家にとっては、「笑いの意図を理解し、企画をワンランクアップさせてくれる」、最高の存在だろう。

局を超えて継承されるバラエティのDNA

同番組は、これまで何度か「『探偵ナイトスクープ』(ABC)に似ている」と言われてきた。しかし、『探偵ナイトスクープ』の「謎や疑問」に対して、『水曜日のダウンタウン』の「説」と検証対象のフレーズを変えているように、両者は企画の角度が明らかに異なる。

それよりも私が思い出してしまうのは、日本テレビの伝説的バラエティ3作。「くだらなさを最優先し、やらせと紙一重のドキュメントバラエティ」という点で『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』、「微妙な芸人たちを罰ゲームのような企画で輝かせる」という点で『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』、「取材拒否ギリギリのネタを構成作家たちが考え抜き、ランダムで見せていく」という点で『進め!電波少年』をイメージしてしまう。

現在、日本テレビがプライム帯(19:00~23:00)で放送しているバラエティ番組は、「安定・安心」を感じさせるものが多く、上記3作のDNAをほとんど感じない。それだけに、局を超えて継承番組があることに喜びを感じるのだ。

数年後、『水曜日のダウンタウン』も、この3作に負けない伝説的バラエティとなっているだろうか。「徳川慶喜を生で見たことがある人、まだギリこの世にいる説」「先生のモノマネ、プロがやったら死ぬほど子供にウケる説」がギャラクシー賞を受賞したのは、毎週とことんくだらない説を放送し続けたことが前振りとなったからではないか。このスタンスでいつまでも放送が続くことを願っている。

来週の"贔屓"は…業界内で垂涎を浴びる『激レアさんを連れてきた。』

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『激レアさんを連れてきた。』弘中綾香アナウンサー(左)と若林正恭=テレビ朝日提供

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"の番組は、29日に放送される『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系、毎週月曜23:15~ ※一部地域除く)。同番組は、「"激レアな体験をした人=激レアさん"を研究サンプルとして採集し、ウソみたいな実体験を聞き出す」新機軸のトークバラエティ。前身の深夜番組から昇格後わずか3カ月あまりで人気番組となり、業界内でも「画期的だ」と絶賛の声を集めている。

次回の放送では、「裸の部族が好きすぎて鼻に棒を刺して憧れの部族の村へ行ったら、自分が一番それっぽい恰好で完全に浮いた人」「自宅にヨネスケが突撃してきたことを皮切りに芸能人がドシドシ押し寄せるようになり、最終的にとんでもない奇跡が巻き起こった人」が登場。文字だけで笑えるのが、いかにも激レアさんたるゆえんだろう。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。