テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第246回は、14日にスタートしたTBS系バラエティ番組『熱狂! 1/365のマニアさん』(毎週金曜20:00~ ※14日の初回は19:00~2時間SP)をピックアップする。

その番組名を見れば、どんな内容なのか分かるのではないか。「あるジャンルのマニアが熱狂する1日に密着する」というコンセプトの新番組だが、同局には似たコンセプトの『マツコの知らない世界』がある。

はたして両番組をどう棲み分けしていくのか。重要な1回目の放送から、その制作スタンスを探っていきたい。

  • 『熱狂! 1/365のマニアさん』MCの東京03・飯塚悟志(左)とウエンツ瑛士

    『熱狂! 1/365のマニアさん』MCの東京03・飯塚悟志(左)とウエンツ瑛士

■「キャラか情報か」の試行錯誤

番組冒頭、初回の放送内容が「北北海道グルメに人生を捧げるマニアさんが年に一度の巨大北海道グルメフェスで狂喜乱舞」「さつまいもが好きすぎて農林水産省に入っちゃったマニアさんが年に一度の激ウマ サツマイモグルメが集まる祭典へ」「美容マニアが熱狂、年に一度の最新美容博覧会も」の3つであることが紹介された。

ただ、サブタイトルは「秋の激ウマ2大グルメSP」だけにメインは北北海道とさつまいもの2つなのだろう。「重要な初回に無難なグルメを選ぶ」という選択は、テレビマンとしては当然かもしれないが、視聴者目線ではインパクトに欠ける感が否めない。「思い切った勝負をさせてもらえない」のか、「思い切った勝負が怖い」のか。どちらにしても、彼らの悩みと課題が透けて見える。

まずは、さつまいものマニアさんからスタート。「大学4年間さつまいもの研究に没頭し、農林水産省に就職」「同省公認のYouTuberとしても活動中」という渡邊さゆりさん(28歳)が登場した。服、マスク、指輪などコーディネートのすべてがさつまいもであり、ファーストインパクトの分かりやすさは、いかにもゴールデンタイム向けのキャラだ。

渡邊さんは「『さつま芋の良さを伝えなきゃ』という使命感で生きています」「さつまいもで人類を救いたいんですよね」と熱っぽく語るが、同僚は「会うたびにさつまいもを押しつけられる」と苦笑い。この情熱とやりすぎ感を見せる演出はオーソドックスなものと言っていいだろう。

ただ、同じ一般人をフィーチャーしたドキュメントバラエティ『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系)のヒットを踏まえると、もっとキャラの面白さにつなげるほうが、現在の視聴者を引きつけられるのかもしれない。

渡邊さんは1万5,000人が来場するという「夏のさつまいも博2022」へ。90分間の入れ替え制というイベントの規定がある中、「絶対に食べたい10品」を掲げて会場を駆け回ったが、結局半分の5品に留まってしまった。

終了のアナウンスを聞いた渡邊さんは「何だよ!」といら立ちを見せたが、最後の入場枠に空きが出たことで、再び行列に並んで2度目の入場に成功。最後は計6時間かけて全商品をゲットして「満足度120%です」と満面の笑みを見せた。

その他でも、早口で質問して情報収集したり、愛読書のいも類振興情報誌に店主からサインをもらったりなど、マニアならではの姿を映すシーンがあったほか、ホクホク系とねっとり系によるブランド戦争や、焼き芋専用調理器具の紹介など情報番組の要素が満載。

ただ、全体のバランスを見ると、マニアさんよりグルメが主役の感が強く、この点では「『オモウマい店』のようなキャラの面白さを見せるドキュメンタリーではなく、情報要素の濃い『マツコの知らない世界』に近い」という印象を受けた。

■「スーパーリポーター」のマニアさん

続くコーナーは「食べ歩いた数3000軒! 北北海道グルメマニアさんの1/365」で、その対象エリアは有名観光地の札幌や函館ではなく、南北は富良野から稚内、東西は紋別から留萌まで。10年間ほぼ毎朝欠かさずグルメブログをアップしている星野智哉さん(39歳)が9月17日に開催された「旭川 北の恵み食べマルシェ」を訪れるという。

星野さんは、MCの東京03・飯塚悟志が「エッ!? この人ずっとこのテンション?」と声をあげるほどのハイテンションキャラ。最初の店だけで「気づけば紋別にワープしてる」「口の中が紋別でいっぱい」「紋別ずっこいわ」などの食リポで笑いを連発した。

さらに、旭川市長から直々にあいさつされたと思ったら、同僚に「イカれポンチ」「何かに取り憑かれている」「勝手な使命感」と斬り捨てられるなど、ロケの撮れ高が止まらない。この番組は良くも悪くも“マニアさん”のキャラ次第で盛り上がりが変わるのだろう。だからこそ、制作サイドの人選と演出が鍵を握りそうだ。

星野さんは、カニ、ホタテ、和牛、コロッケ、ジンギスカン、クラフトビール、カレー、ラーメン、ウニなどを次々に食べ、「プッハーだぜ、これマジで」「(ローストビーフを手に)見てください。この色、エロ!」などの爆笑コメントを連発。その一方で、2年前に大病を患い味覚を失ったことで、「人生楽しんでいかなきゃダメだと思った」「一食一食のおいしさを大切にしたい」と食に執着する理由を語った。

最後も、「素晴らしい日々、素晴らしい人生ですね。本当に生きててよかった」と感情を込めて語ったが、驚かされたのはリポーターとしてのスキル。テンション、フレーズ選び、リアクションのバリエーションなど、そのすべてが芸能人のお手本となるようなレベルであり、番組が続いていけば再登場は間違いないだろう。