結局、審査員のコメントは絶賛一色で、厳しい言葉や学びにつながるようなものは1つとしてなかった。現場ではそれらもあったのかもしれないが、「放送されていない」ということは、制作サイドの演出意図なのではないか。

合宿での内容もそうだが、もう少し苦しい状況から必死ではい上がっていく姿を見せなければ、視聴者の思い入れはそれほど高まっていかないだろう。もしスタッフや審査員自身が炎上対策で無難なものに落ち着かせているとしたら、何とももったいない話だ。

番組は4組のパフォーマンス後、すぐにグループランキングを発表。合否に関わる個人ランキングは、もう1つのパフォーマンス後に最終決定するのだが、最下位グループの5人は脱落の可能性が高まるだけに一喜一憂を映し出し、盛り上げるための演出なのだろう。

最下位を飛ばして3位、2位の順で発表していく構成も、盛り上げるためのお約束。「最後に残った2組が、1位の天国か、最下位の地獄か」というシビアな構成で、3位:DIVA、2位:Little Devil、1位:Crescent、最下位:Aimerの順で発表された。しかし、Aimerのダンスリーダー・UNOが「悔しい気持ちでいっぱいです」と語り、次回の審査を予告したところでコーナーはあっさり終了。

もう少し勝者と敗者の明暗を映し出し、審査員とのやり取りを映したほうが視聴者は感情移入しやすいのではないか。オーディション番組が回を追うごとに盛り上がっていくのは、視聴者の思い入れが増すからにほかならない。その点で前述したJ.Y. ParkやSKY-HIと当時の制作サイドは巧みであり、たとえば同じ序盤の段階から明暗を映し出していた。

また、「あっさり終了してもったいない」と感じたのは、「パフォーマンスのすごさや成長の形が視聴者に伝わりにくい」という理由もある。4組のパフォーマンスは審査員の説明がなければ一般視聴者には分からないレベルの差であり、それは目玉だったオリジナル振付の違いも同様だった。セカンドミッションにおける成果と課題を視聴者に見せていかなければ、現時点での共感やこの先の感動を得られないのではないか。

ただ、同オーディションは、合宿における指導だけでなく、衣装とヘアメイクなどもプロ仕様の扱いがうかがえるのが何より。「テレビ東京が“Z世代”に夢と希望を与え…そして未来のスターを発掘する」という番組コンセプトは守られている。

一方で参加者も制作サイドも気の毒だと感じたのは、マスクをしていて表情が伝わりづらいシーンが多いこと。彼女たちはパフォーマンス以外のシーンではほとんどがマスク姿であり、「顔と名前を覚えてもらえない」「喜怒哀楽が伝わりにくい」などのハンディを背負っている。

■「Z世代」なら低視聴率は問題なし

ここまで33分が経過したところで、次のスケボー新世代スター発掘オーディション「Dreamer Z×ムラサキスポーツ」がスタート。ここまで1次審査で12人から6人に減らされ、今回の2次審査では3人が脱落する。さらにその後、3次審査で2人に絞られ、ファイナルで優勝者がアメリカツアーへの参加権を得られるという。

2次審査では6人をA・Bのグループに3人ずつ分け、今回はAグループを放送。「ストリートの若きテクニシャン」山附明夢(17歳)、「職人技のスピードスター」澤島裕貴(19歳)、「バイブスで突っ走る! 高校生社長スケーター」坂本倭京(17歳)の3人が紹介された。ただ、キャッチコピーでキャラクター付けする演出は昭和からの定番で新鮮味がなく、スケボーという競技にも合っていないように見える。このあたりは作り手の意識をそろそろ変えるべきだろう。

2次審査は、20mのアプローチから4段の階段と1mの柵を飛び越え、技を決めたメイク数が計6回になったら終了。競技のような点数ではなく、「心を動かすヤバさ」で審査されるという。

ちなみにメイクした技を順に挙げていくと、山附「フェイキーキャバレリアル」(難易度4)、坂本「フロントサイド180フリップ」(難易度3)、澤島「トレフリップ」(難易度4)、澤島「ノーリーインワードヒールフリップ」(難易度5)、山附「スイッチバックサイド180ヒールフリップ」(難易度5)、澤島「スイッチフロントサイドビッグスピン」(難易度5)。

技の内容が説明されてもスタジオの木梨が「わかんないわかんないわかんない」と戸惑うなど難解そのものだが、これはマイナー競技の現段階では仕方がないのかもしれない。結局セミファイナル進出者は澤島に決まり、Bグループの予告映像で番組は終了した。

これまで同番組では「iCON Z男性部門オーディション」「弾き語りZオーディション」「人生で一度くらいドラマの主役をやってみたい人オーディション」が放送されてきたが、やはり人生や青春を賭けて挑む若者の必死な姿は、「人を引きつけるドキュメント」という意味で何にも変えがたいエンタメ性がある。

しかし、だからこそ審査員サイドにそれを際立たせる強烈な個性の持ち主がほしいのではないか。その意味で「LDHがベースの番組」というスタートはよしとしても、そればかり続けていくのは危険かもしれない。

Z世代をテーマにしている以上、視聴率の低さを気にしすぎる必要性はなさそうだ。また、『スッキリ』(日本テレビ系)のような生放送情報番組との連動もテレ東には難しい。

ただそれらより問題なのは、まだネット上の話題にもさほどつながっていないこと。オーディションの様子がネット上で公開され、その動画が複数の場所で見られるほか、切り抜かれてSNSで拡散されるようなPRをしていかなければ、今後も盛り上がりを生むことは難しいだろう。

■次の“贔屓”は……「サビだけカラオケ」はどこが面白い?『千鳥の鬼レンチャン』

『千鳥の鬼レンチャン』に出演する(左から)山内健司、濱家隆一、大悟、ノブ (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、31日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『千鳥の鬼レンチャン』(20:00~)。

2020年10月から4度にわたるパイロット特番の放送を経て、今春にレギュラー放送がスタート。今回はメイン企画「サビだけカラオケ」に、ミキ・亜生、私立恵比寿中学・柏木ひなた、TKO・木下隆行、日向坂46・富田鈴花、友近、hitomiの6組が挑戦するという。

千鳥、かまいたちという現在トップクラスの売れっ子をそろえた番組だが、まもなくレギュラー版スタートから3カ月になるだけに、現在の強みと課題、今後の行方を占っていきたい。