テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第231回は、1日に放送されたテレビ朝日系特番『タモリステーション』(20:30~)をピックアップする。
「タモリが好奇心のおもむくままにさまざまな話題を鋭く掘り下げていく」というコンセプトの特番で、今回が3回目の放送になる。これまでは今年1月28日に「二刀流 大谷翔平の奇跡」、3月18日に「欧州とロシアの狭間で ウクライナ戦争の真実」を放送。後者ではタモリが1時間超にもわたって無言を貫いたことが大きな話題になり、この番組の指名度が一気に上がった感がある。
注目度を上げて迎える3回目のテーマはカーリング。「猛暑日が続く今、なぜカーリングが選ばれたのか」「なぜテレビ朝日の本社スタジオに2日がかりでカーリングリンクを作ったのか」など放送前の段階から気になる点が多かった。
■タモリを上回るロコ・ソラーレ人気
バグパイプ隊の演奏とともにMCのタモリ、ロコ・ソラーレ代表理事の本橋麻里、SC軽井沢クラブの山口剛史、木村佳乃、さまぁ~ず・三村マサカズの順でスタジオに入場。画面右上には、「タモリ、カーリングを勉強する。」という文字が表示されていた。
バグパイプ隊との入場はカーリングの公式戦と同じ形式であり、スタジオに設営した見事なリンクも含め、制作サイドの本気度が伝わってくる。大物の「タモリ」、さらに局の看板である「ステーション」の冠を掲げる以上、ここまでやる必要性があるということなのか。
続いて画面が6分割され、「タモリが町歩き ロコ・ソラーレと常呂町の絆」「不当に勝つなら負けを選ぶ カーリング精神」「タモリがインタビュー ロコ・ソラーレ結成秘話」「特設リンク カーリング体験」「本橋麻里の恩師 カーリングを広めたキーパーソン」の文字が表示された(もう1つの枠はタモリ)。つまり、「90分番組で5章立ての構成」ということになり、いかに盛りだくさんの内容であったかが分かるだろう。
まずは「タモリが町歩き ロコ・ソラーレと常呂町の絆」からスタート。ロコ・ソラーレのメンバーが人口約3,500人の常呂町を案内し始めると、町にはタクシーのロゴ、マンホール、ナンバープレート、ポストなどにカーリングのモチーフがあふれていた。
住民たちはロコ・ソラーレの選手たちに夢中で、タモリは「俺には全然興味ない。声もかけてくれない。誰も気づかない……」と苦笑い。タモリという大物が比較対象だからこそ、「いかに彼女たちが地元の英雄なのか」が分かるこれ以上ないほどの説得力があった。
一行は鈴木夕湖の通う洋品店、メンバー行きつけの寿司店、土産店、必勝祈願する神社をめぐり、現地住民たちから「生まれる前から知ってる」「みんな自分の子どもみたい」「常呂町の宝」など声をかけられる。芸能界とスポーツ界を通して見ても、これほど親近感のある国民的スターはいないのではないか。事情はさておき、季節外れのカーリングゴールデンタイム特番が成立した理由は、ロコ・ソラーレの魅力にほからなない。
■本橋麻里の涙に寄り添ったタモリ
次のテーマは、「不当に勝つなら負けを選ぶ カーリング精神」。これはルールブックに書かれているフレーズであり、「選手のセルフジャッジで試合が行われる」というカーリングならではの競技性が紹介された。
番組はさらに「ゲームの精神は立派なスポーツマンシップ、思いやりの気持ち、そして尊敬すべき行為を求めています」という一文を紹介。北京五輪で敗退したカナダ選手、金メダルを獲ったイギリス選手の声をピックアップして、勝敗を超えたスポーツマンシップの素晴らしさを伝えた。その映像を見たタモリのコメントは「すごいね」のひと言のみ。大げさに称賛したり、多くを語ったりすると安っぽくなりそうなところをひと言で片付けられるのはタモリならではだろう。
3つ目のテーマは、スタジオでの「特設リンク カーリング体験」。20mと約半分の長さだが、見事な特設リンクを前にスイープの実演を見たタモリは「キツそうだよこれ……」と本音をこぼす。
木村佳乃と三村マサカズがまともに投げられず、最後に投げたタモリは唯一ハウスに到達したが、「こんなに体力使うんだこれ」と驚きの声をあげた。タモリは2投目でもド真ん中のスーパーショットを決め、「いきましたね」と小声で自賛。「やった~」とはしゃがないローテンションが、むしろ視聴者を置き去りにしない感があり、時代に合っている。
タモリは20秒間の全力スイープにも挑戦し、「ものすごい体力いりますよ。体熱いし。明日筋肉痛だ」とボヤいたものの、76歳とは思えない体力を見せたのも事実。『ブラタモリ』(NHK)で見せる以上の健康ぶりを確認できたことが、今回の特番における最大の収穫だったのかもしれない。
続くテーマは、「本橋麻里の恩師 カーリングを広めたキーパーソン」。スコットランドでは日本の戦国時代からカーリングが行われていたこと。それがカナダに伝わり、さらに日本へ伝わったこと。1980年に北海道で講習会が行われ、そこに参加した常呂町の小栗祐治さんがリンクやストーンの手作りから始めて、大会を開催し、屋内カーリング場をオープンさせ、「オリンピック選手を送り出す」という夢を叶えたことなどの歴史が紹介された。
これらの映像を見たタモリは、「最後に小栗さんが『カーリングは楽しいぞ』って言いましたが、『楽しいぞ』というのが重要なキーポイントになってくるんですよね」とこの日初めてのロングコメント。亡き恩師とのエピソードに涙を流した本橋麻里の心情に寄り添うコメントであり、タモリの優しさがにじむシーンでもあった。