テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第189回は、4日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『有吉の夏休み2021 密着77時間』(21:00~)をピックアップする。

今年で9年目の放送を迎える恒例の夏特番。今回は「グルメ&アクティビティ三昧」を打ち出しているが、コロナ禍が深刻化する中、有吉弘行はどんな姿を見せるのか。さらに「サプライズで有吉の結婚祝いをする」というだけに本人のリアクションにも注目が集まっていた。

有吉弘行

■収録は東京オリンピックの真っ最中

番組冒頭、「8月2日PM2:00」の文字が表示される。コロナ禍と東京オリンピックの真っ最中であることはさておき、“夏休み”という番組名にふさわしい時期の収録だったようだ。

有吉たちの旅はバスの車内からスタート。全員マスクをして座席は1つ空けて座っていたが、さらに「出演者・スタッフは全員PCR検査を行い自治体のガイドラインに基づき感染対策を徹底し撮影しております。」の文字とナレーションがあった。「ネット上の批判を減らすためには、できるだけ早いタイミングでハッキリ伝えておいたほうがいい」ということだろう。

旅は有吉弘行、平成ノブシコブシ・吉村崇、生見愛瑠(めるる)、池田美優(みちょぱ)、フワちゃん、アンガールズ・田中卓志の6人で始まり、まずは「NACアドベンチャーパーク」で国内最大級の本格アスレチックに挑戦した。

有吉はフワちゃんの頭をバシバシ叩きながらヘルメットを無理矢理つけたり、階段を上がるみちょぱに「パンティライン(が浮き出ないように)気をつけて」と言ったり、スタート早々から“らしさ”全開。傍若無人と愛情のギリギリをいく有吉の振る舞いはコロナ禍でもまったく変わらず、むしろ安心させられた。

一行はアスレチックを終え、マウンテンバイクでレストランへ向かおうとするが、めるるが「久しぶりで自転車に乗れない」と言い、1人だけ歩いて向かうことに。めるるは初参加でさっそく1つ目の笑いを取ったと言っていいのではないか。

ミシュラン1つ星シェフのレストラン「KITCHEN」では、有吉が「本日のおすすめを全部食べない?」と恒例の大量オーダーを発動。お会計はバス移動中に何回もトイレ行き、飛行機の時間もギリギリなど「迷惑をかけた」という理由でフワちゃんが約8万円を支払った。宿泊地の「ヒルトンニセコビレッジ」に着いたところで1日目が終了。

■田中卓志がめるるに告白と悪態

翌8月3日はAM10:00に朝食スタート。めるるは「ハンバーガーが食べ物の中で一番好き」と満面の笑みを見せていたが、ここで藤田ニコルが合流し、みちょぱとの間に挟まれる形になり、緊張感が走る。この元Popteenモデル3ショットは今回の目玉であり、「同世代女性の視聴者を獲得したい」という思惑がうかがえた。

続いて北海道最大規模の遊園地「ルスツリゾート」で犬が羊を追い込むシープドッグショーを体験したあと、「ニセコパラグライディング」で田中とめるるが空を飛ぶことに。しかし、「強風で1時間以上待たされる」というアクシデントに見舞われてしまう。空から雄大な自然を眺める絶景は明らかに今年のハイライトであり、制作サイドとしてはマストだったのではないか。

地上に降りた田中は、これまた番組恒例の告白タイムへ。「この北海道の旅でいろいろ一緒に過ごしているうちに、今一緒に空飛んで、めるるを下から見たときに『この景色、一生見ていたいな』と思いました。(ドラマ『101回目のプロポーズ』風に)本当に僕は死にません。めるるが好きだから。僕と付き合ってください!」と告白したが、めるるは間髪入れず「ありがとうございます。楽しかったです。お父さんすぎます。ごめんなさい」と早口で断った。

しかし、田中は「スタッフさん! この子を東京に帰してあげて! 同じ旅に振られたヤツがいたら気まずいでしょ。(「お前が帰れ」の声に)俺が帰ったら痛々しいだろ!」と悪態をついてさらなる笑いを誘う。ちなみに、めるるの父親と田中は同い年らしく、こんなところにも9年目の歴史を感じてしまった。その後、「寿司なぎ」で有吉が一番の好物である寿司を食べて2日目が終了。

3日目の8月4日はAM10:20にピザレストラン「ふくろうの森」からスタート。ここでも「出演者・スタッフは全員PCR検査を行い自治体のガイドラインに基づき感染対策を徹底し撮影しております。」の文字とナレーションを入れ、さらにスタッフの作業を早送り映像で見せる入念さを見せた。しかし、「このくだりがなければ、もう1~2つは爆笑トークをカットせずに済んだ」と思うと、やはりもったいないと感じてしまう。

■クライマックスで有吉の猛毒が炸裂

たんぽぽ・川村エミコ、小嶋陽菜、とにかく明るい安村の3人が合流して、夏の北海道定番リゾートである洞爺湖へ。「洞爺湖スカイクルージング」で定員3人のヘリコプターにニコル、川村、みちょぱが乗り、湖と活火山の絶景が映し出された。

続いて一行は、「レークヒル・ファーム」でジェラートを買い、そのまま隣接する牧場へ移動する。ここで田中から2度目の告白を受けためるるは「無理~!」と絶叫。田中は「神様~。こいつにクソみたいな彼氏をお与えください。スキャンダルまみれのクソみたいな俳優がつきますように。めるるの仕事に影響出るぐらいのクソみたいな彼氏がつきますように」と再び悪態をついて笑わせた。

ところがこのスポットで、田中、みちょぱ、めるるが旅を終えて帰京。この3人と有吉が今回の旅を盛り上げてきただけに、「残念」と感じた人は多かったのではないか。

「レイクトーヤランチ」での洞爺湖を一望できる乗馬体験を経て、2008年にサミットが開催されたホテルの「レストラン・ウィンザー アウト オブ アフリカ」へ。全員ドレスアップする中、安村が松山英樹、川村がアパ社長に扮して笑わせたあと、雲海を眺めながら鉄板焼きを食べた。

最終日の8月5日はAM11:00に「ニセコラフティング」からスタート。フワちゃん、川村、小嶋が水着姿を披露したが、これもまた夏特番らしい恒例のシーン。有吉は小嶋に「また太りました?」、川村に「ずいぶんやせたな」と毒を吐き、それぞれ「(私の水着姿が見られる)年1のチャンス!」、「いやボリューミーでしょ! マシュマロボディ」という返しを引き出して笑わせた。“仲間で行くプライベートの夏休み旅行”というコンセプトの番組だからこそ、こんな直球のセクハラが許されるのだろう。

その後、一行は「ルーキーズキッチン」でバーベキューを楽しみながら、結婚した有吉を祝福。プレゼント攻勢を受けた有吉は、「何もらうより肉がうまいね」「たくさんお祝いいただいていろんなもの頂いたんですけど、最悪でした」とクライマックスに毒素を増す、さすがのトーク力を見せた。

番組は北の大地を一望できる熱気球「ニセコバルーン」で終了。ここでも有吉は熱気球に乗れなかった安村、川村、小嶋に「君たちが下の人間に見えます」と見下して笑わせていた。

■感染予防しながらの楽しい旅を実践

あらためて旅行中の有吉を振り返ると、食事シーンでは1人で食べはじめ、無言で料理を独占し続け、スピードワゴン・井戸田潤の持ちギャグ「甘~い」やハンバーグ師匠をモノマネし、川村、小嶋、安村の登場シーンでは「“あの人は今”たちがいるよ」と突き放し、ラフティングのときもその3人を「全員デブだから」と2軍扱い。この特番は、MCとして番組を成立させる立場になり、「丸くなった」と言われることの増えた有吉が、最も本来の毒を吐ける場なのかもしれない。

この特番がスタートして数年は、「ただ遊んでいるだけ」などの批判が目立っていたが、いつのまにか「自分も一緒に旅している気分になれる」という好意的な声が多数派になっていた。これは「それだけ視聴者が絶景に癒やされ、美食に魅了され、仲良しメンバーのトークに笑いを誘われている」ということだろう。

楽しげなスナップ写真を要所に挟む演出、めるるが有吉を描いたイラスト入りTシャツのプレゼント、視聴者の夏休みが終わったばかりの9月に放送することなども含め、「旅行気分を共有してもらおう」というコンセプトが支持されているのだろう。とりわけ今年の放送では、コロナ禍が長期化する中、「マスクをしながらでもこんなに楽しい旅ができる」という希望を抱けた人が多かったのではないか。

1つ難点をあげると、CMまたぎの予告映像がしつこかった。「このあと羊vsチーム有吉」「このあと絶品バーガーに悶絶!!」「このあと女の戦い勃発!」「このあとヘリコプターで大空へ」「このあと女子が水着披露」などとあおり続け、映像の重複も続出。「何とか見てもらいたい」という気持ちは分かるが、もう少し自分の番組と視聴者を信じてほしい感がある。

ここであえて詳細は書かないが、フジテレビが重点ターゲットに掲げるキー特性(13~49歳)の視聴率は、「かなり高かった」と聞いた。家族で「楽しそうだね」「いつかこんなところに行けたらいいな」などと言いながら夏の終わりを惜しむ風物詩になっているのかもしれない。

来年はコロナ禍が落ち着いて、有吉たちはハワイに行けるのだろうか。もし実現したら、有吉がどんなはしゃぎ方をするのか楽しみだ。

■次の“贔屓”は…放送20年の節目、22時台に留まった『ガイアの夜明け』

『ガイアの夜明け』案内人の松下奈緒

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、10日に放送されるテレビ東京系経済ドキュメンタリー番組『ガイアの夜明け』(毎週金曜22:00~)。

2002年4月のスタートから今年20年目の節目を迎え、さらに4月から金曜22時台に移動。『ワールドビジネスサテライト』の22時台移動により、他番組が23時台に移る中、この番組だけは22時台に据え置きされ、火曜からの曜日移動に留まったことが示唆に富んでいる。

次回放送のテーマは、無印良品が変わる!? 「衣食住すべての分野を強化し、地域との一体化を図る様子に密着する」という。9月にファーストリテイリング出身の堂前社長が就任しただけに、フィーチャーする絶好のタイミングかもしれない。