テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第170回は、23日に放送されたTBS系バラエティ番組『オオカミ少年』(毎週金曜19:00~)をピックアップする。

ランダムなジャンルのVTRが「ウソかホントか」を当てるクイズバラエティとして今春スタート。深夜枠での放送から実に16年越しのゴールデン帯レギュラー放送であり、なぜ今この番組が選ばれたのか興味深い。

浜田雅功

■個人の演技力や演出理解力が問われる

番組は浜田雅功の「ウソかホントか、オオカミ少年~!!」という絶叫タイトルコールでスタート。スタジオの出演者たちから「すごい!」「めちゃめちゃ声出てる」という驚きの声が飛び交うほどであり、ゴールデンレギュラー化に伴う浜田の気合を感じさせられた。

第1問は「地上10m・長さ10m 恐怖の鉄骨渡り」。命がけのアトラクションに3人の芸能人が挑戦するが、うち1人はCGで合成したウソという。ナレーションで「みなさんはウソリアクションをしているオオカミ少年を見破れるか?」と問いかけていたように、老若男女が楽しめるシンプルな3択問題は、いかにもゴールデン向きのコンテンツだ。

1人目は「NGなしの体当たり芸人」としてパンサー・尾形貴弘が登場。尾形が鉄骨を歩き出すと、アナウンサーによる実況が始まり、画面左下に「CG合成のウソ?」「ホント?」の文字が交互に表示されている。ナレーションが「このリアクションもウソかもしれない」、浜田も「ちゃんと見といてよ。あえてやってる可能性もあるから」などとあおる中、尾形は鼻水を出しながら3分18秒かけてゴールした。

2人目は「インスタフォロワー170万人超のトップモデルで女優」としてトリンドル玲奈が登場し、まるでランウェイを歩くようにわずか17秒間でゴール。3人目は「五輪3大会出場のアスリート」として浜口京子が登場し、父・アニマル浜口が応援する中、3分24秒でゴールした。

CMをはさんで各チームの解答と推理タイムへ。ハリセンボン・近藤春菜&森矢カンナチーム、マヂカルラブリーチーム、SixTONESチームが尾形貴弘、バイきんぐ・小峠英二&麒麟・川島明チームがトリンドル玲奈を挙げたが、正解は浜口京子で全チーム不正解。ネタばらしのVTRで、同じ色のツナギを着た番組ADが10m、浜口が50cmの鉄骨を渡る姿を映して笑いを誘った。

それぞれのパフォーマンスを振り返ると、3人ともエンタメ度を上げるべく、挑戦前後のコメントやリアクションに力を入れていた様子がうかがえる。その点で、個人の演技力や演出意図の理解力が問われる番組であり、想像以上にプレッシャーの大きい仕事なのかもしれない。

■解答者8人の役割とバランス

第2問は「オオカミマジシャン」。世界大会で日本人初の優勝を成し遂げたMASA MAGICのマジックを見た阿部寛と及川光博のどちらか1人は、「実は2度目で驚いたフリをしている」という。

正解当てで楽しませられるほか、トップマジシャンによる「瞬間移動マジック」「驚異の人体貫通マジック」などを見せられ、ドラマ『ドラゴン桜』の番宣を自然な形で行える合理的なクイズ形式。マジックに限らずトップパフォーマーのクイズは、今後この番組の中核を担っていくのではないか。

近藤&森矢チーム、マヂカルラブリーチーム、SixTONESチームが阿部寛、小峠&川島チームが及川光博を予想し、正解は阿部だった。ドラマの撮影現場まで出張ロケをしたほか、俳優に過度な負担をかけないレベルのクイズだけに、後番組の『ぴったんこカン・カン』と並んで「ドラマ番宣がマスト」のバラエティになりそうなムードがある。

第3問は「二枚舌バトル ごちそうターンテーブル」。スタジオの各チーム1人が、牛肉のXO醤炒め7,700円、ツバメの巣のきんぱく入り8,800円、フカヒレの姿煮14,300円、生アワビ炒め16,500円を食べるが、実は1人だけ単価5円の茹でもやしであり、それを当てていく。

川島、近藤、野田、ジェシーが料理を食べながら感想を述べ、近藤&森矢チームが近藤、マヂカルラブリーチームが野田、SixTONESチームが近藤、小峠&川島チームがジェシーを挙げたが、正解は川島でまたも全チーム不正解。浜田の「ようやったね。川島お見事ですね!」というコメントで番組は終了した。

クイズが計3問しかないためか、優勝争いも賞金もなく、それなら「2人×4チームの8人も解答者が必要なのか」という声もあるだろう。ただ彼らはクイズに解答しているだけではなく、出題VTR中に絶え間なくツッコミを入れて笑いを生み出していた。この番組はクイズを楽しませることと同等以上に、スタジオとVTRゲストの出演者で笑わせることが重要であり、その意味で浜田、川島、近藤ら芸人たちの力量が成否を左右するだろう。

■『日曜劇場』を思わせる濃厚演出

60分でクイズ3問という“1問約20分”のゆったりとしたペースだけに出題VTRの構成は丁寧。出題者のリアクションをさまざまなアングルから引き出しているだけでなく、クイズの説明から、実況、リプレイ、解答、ネタばらし、オオカミのアニメーションに至るまで、手間を惜しまない制作姿勢が伝わってくる。

ただ、その“1問約20分”のスローペースは見応えこそ十分な反面、令和のバラエティにしてはテンポが遅く、じっくり見せる平成バラエティの感覚にも見えた。これでTBSが掲げる「新ファミリーコア(4~49歳)をつかめるか」と言うとあやしいところがある。ちなみに視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は、16日の初回3時間SPが個人全体3.5%・世帯6.0%、2回目の今回が個人全体2.2%・世帯3.7%の厳しい出足となってしまった。

そして、もう1つ不安を感じさせたのが、過剰気味の演出。TBSの看板ドラマ枠『日曜劇場』を思わせる高速のカット割りや顔面アップの多いカメラワークは、良く言えば迫力がある反面、悪く言えばクドい。また、カラフルかつポップな書体の文字で画面を埋め尽くすようなテロップは日本テレビのバラエティに近いが、19時台にしては「見ていて疲れる」という人が多いのではないか。

スタートしたばかりの時点では、まだ「扱いやすく、番宣もしやすい過去企画の再利用」という印象を覆せてはいない。しかし、「出題できる幅が広い」という長所を生かして放送を続ければ、いずれ金脈となるコーナーを見つけ出せるはずだ。

■次の“贔屓”は…コロナ禍で生まれた新番組『人志松本の酒のツマミになる話』

松本人志

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、30日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『人志松本の酒のツマミになる話』(毎週金曜21:58~)。

昨年からコロナ禍の影響で『ダウンタウンなう』の「本音でハシゴ酒」に変わって、この企画が放送されていたが、今春から昇格する形でレギュラー化。「お酒が進む話なら何をしゃべってもOK」「オチも特に必要なし」という緩いルールのもと、さまざまなジャンルのゲストがトークを交わしている。

次回の放送では、さまぁ~ず、ウエンツ瑛士、パンサー・尾形貴弘、紗栄子、山崎まさよしが出演し、「ウエンツ瑛士が同棲や結婚の悩みをガチ相談」「紗栄子の男性はなぜ『一人になりたい』って言うの?」などのトークを放送するという。コロナ禍によって誕生した番組だが、「トーク、お酒、松本人志」という3つの要素がどう噛み合い、どんな効果を生んでいるのか。