テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第141回は、26日に放送されたTBS系バラエティ特番『お笑いの日2020』をピックアップする。

「ほぼネタだけに特化した8時間生放送」「総勢120人超の芸人が集結」というフェス形式の大型お笑い特番は初めての試み。コロナ禍で重苦しいムードに覆われる中、ネタ番組のニーズは増しているだけに、圧倒的な笑いとライブ感を期待したいところだ。

  • ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功

■8時間生でダウンタウンを見る贅沢

14時のオープニングは、MCを務めるダウンタウンの紹介からスタート。過去の映像を見せながら、「今から38年前、2人の若者が笑いの世界に足を踏み入れた」「2人はただひたすらがむしゃらに、ただひたすら笑いのためだけに走り続けた」「そのすさまじい熱量は日本全土を巻き込み、お笑いの歴史を変えることに」「そして2020年、あのときの若者2人が再び日本全土を巻き込み、笑いのためだけの長い長い1日に挑む」とたたみかけた。

浜田雅功が「今年はいろいろありましたんでね。今日だけはみなさん大いに笑っていただきたいと思っております」と話す一方、松本人志は「出前館の(CMの)テンションでやれ」「(番組オリジナル)Tシャツは日テレのマネをしている」とボケて笑いを取る。考えてみれば、「8時間生放送でダウンタウンを見続けられる」のは何とも贅沢な時間だ。

続いて、『音ネタFES』から『ベスト・オブ・ザ・ドリームマッチ』『ザ・ベストワン』とつなぎ、『キングオブコント2020』で締めくくる8時間のタイムスケジュールを紹介。各プログラムの内容と放送時間をきっちり紹介する視聴者ファーストの姿勢は好感度が高い。

すぐに『音ネタFES』がスタートし、最初に登場したのは、どぶろっくと広瀬香美。「『キングオブコント』の前回王者」と「YouTubeでホットなアーティスト」というキャッチーな組み合わせも、「イチモツ」の下ネタから入るバカバカしさも、トップバッターにふさわしいものだった。

その後、ハライチ・岩井勇気×渡辺直美、チョコレートプラネット×ガールズラップユニット・chelmico、かまいたち×Mr.マリック、Creepy Nuts×ラップ大好き芸人(カミナリ、あばれる君、ゆりやんレトリィバァ、とろサーモン・久保田かずのぶ、レイザーラモンRG)、くっきー!×ギャルダンサー、さや香×高校生ダンサー、ロバート×清塚信也、フワちゃん×懐かしの音ネタ芸人(はなわ、ジョイマン、永野、とにかく明るい安村、AMEMIYA、テツandトモ)×東海大菅生高校吹奏楽部が音ネタを披露した。

音楽を使ったポップかつキャッチーな内容は1つ目のプログラムに最適だったが、正直なところ「練られたネタだったか?」と言えば微妙。もともと「音ネタはバズるチャンスが大きい」はずだが、既存ネタの一部を変えただけでは難しかったのかもしれない。

■「禁断の質問」に答えない松本人志

放送開始から1時間35分が過ぎた15時35分ころ、2つ目のプログラム『ベスト・オブ・ザ・ドリームマッチ』がスタート。これまで『ザ・ドリームマッチ』で放送されたネタの中から、お笑い第7世代が衝撃を受けたネタを挙げてもらい、「生放送だから聞ける禁断の質問にダウンタウンとさまぁ~ずがNGなしで回答する」という。

ぺこぱは、07年のダウンタウン・松本人志&タカアンドトシ・トシをチョイス。3時のヒロインは、05年のさまぁ~ず・三村マサカズ&ココリコ・田中直樹をチョイス。宮下草薙は、09年のさまぁ~ず・大竹一樹&ブラックマヨネーズ・小杉竜一をチョイス。四千頭身は、06年のダウンタウン・浜田雅功&ロンドンブーツ1号2号・田村淳をチョイス。

当時のネタを放送するだけでなく、画面右に4人のワイプが置かれ、「生のリアクションが見られる」という楽しみが用意されていた。しかし、“生放送だから聞ける禁断の質問”は完全に不発。松本は「いま本気で見たいドリームコンビは誰と誰?」という質問に「浜田(雅功)と(小川)菜摘」、「2人でネタをやることはもう一生ない?」という質問に「『笑いの日』のスタッフが言ってきてないから」とかわしただけに終わった。大御所だけに許される軽い受け答えだが、テレビ以外のコンテンツが豊富な現代では、このようなお茶を濁すやり取りでは盛り上がらない。

16時30分ごろ、野村萬斎のオープニングアクトを皮切りに3つ目のプログラム『ザ・ベストワン』がスタート。EXIT、ミキ、バイきんぐ、笑い飯、ハナコ、NON STYLE、ロバート、四千頭身、チョコレートプラネット、かまいたち、ドランクドラゴン、シャンプーハット、ロッチの13組がネタを披露した。

やり直しの効かない生放送の緊張感がある中、ほぼノーミスでやり切る芸人たちのすごさを感じた反面、爆笑問題・太田光のような破天荒芸人がいなかったのは寂しい感も……。トリの『キングオブコント』がガチンコマッチなのだから、『ザ・ベストワン』は確信犯でもハプニングでもいいから、賛否両論で「思わずつぶやいてしまう」ようなネタやパフォーマンスがあってもいいのではないか。

■ダウンタウンの漫才で番組に熱気を

19時に最後のプログラム『キングオブコント2020』がスタート。「人生が変わる、『キングオブコント』が変える、コントドリーム」「コントの巨星が堕ちる年、コントの超新星が誕生する。王位継承ファイナルバトル」「コント日本選手権2020、すべてを塗り替えろ、13代目キング誕生」という超絶な自画自賛のタイトルバックは本気なのか、笑いを狙っているのか。お笑いに限らずTBSの特番は「あおりすぎて視聴者を置き去りにしてしまう」ことが多い。

滝音、GAG、ロングコートダディ、空気階段、ジャルジャル、ザ・ギース、うるとらブギーズ、ニッポンの社長、ニューヨーク、ジャングルポケットの順で全10組がネタを披露し、ジャルジャル、ニューヨーク、空気階段がファイナルに進み、ジャルジャルが優勝。最後に松本が「来年(のMCは)、誰かにやっていただきたい」とボケて8時間の生放送が終了した。

番組全体を振り返ると、やはり目立ったのは、ほとんどミスなくネタをやり切る芸人たちのすごみ。「ダウンタウンが目を光らせている」というプレッシャーのかかる状態でも、生放送であることを忘れさせるほどのクオリティを見せつけた。

ゴージャスなセット、コロナ禍で各会場に観客を入れた勇気、番組オリジナルTシャツの一体感など、超大型特番らしいスペシャリティはしっかり。ただ4つのプログラムは“つなげただけ”の域を出ず、「8時間通し企画がなかった」のはなぜなのか。

「『キングオブコント』出場者の楽屋やネタ合わせをのぞきに行く」「ダウンタウンのスタジオ移動を映し、モノマネ芸人を乱入させる」「視聴者とリモートでつないで話を聞く」などの演出もあったが、あくまでこすった程度で生放送の魅力を感じさせたとは言い難い。『お笑いの日』は初めての試みだけに仕方がないのかもしれないが、来年の放送があればさまざまな点でのブラッシュアップは不可避だろう。

最後に1つ、どうしても気になったのは、ダウンタウンの振る舞い。時折、松本が小さくボケるだけで超大型特番を引っ張るような姿は見せず、「大御所として立ち会っている」という印象に留まっていた。

翌日に放送されたドラマ『半沢直樹』(TBS系)では、ベテラン俳優たちが全力のパフォーマンスを見せ合うことでネット上の話題を独占。しかも、その熱演はスタッフたちの奮闘が導火線となって発せられたものだった。その点、『お笑いの日』は一定のクオリティを見せたものの、「熱気があったか?」と言えば疑問が残る。だからこそ来年はスタッフが芸人たちに火をつけて全力のパフォーマンスを引き出し、今年以上の笑いをもたらしてほしい。

その意味で、もしダウンタウンが再びMCを務めるのなら、漫才の披露はマストではないか。

■次の“贔屓”は…『志村どうぶつ園』からどう変わる? 『I LOVEみんなのどうぶつ園』

MC・相葉雅紀が運転して全国に駆けつける番組オリジナルトレーラー「どうぶつ園号」 (C)NTV

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、10月3日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『I LOVE みんなのどうぶつ園』(19:00~20:54)。

『天才!志村どうぶつ園』が16年半の歴史に幕を閉じた翌週、早くもスタートする新番組。「MCを務める相葉雅紀が学び、培ってきた経験と優しい目線で、動物たち1匹1匹の個性をリアルに、丁寧に描いていく」というコンセプトで放送していくという。

初回2時間スペシャルでは、「相葉が動物大好きな仲間と番組オリジナルトレーラーでゾウの赤ちゃんのもとへ」「橋本環奈がカピバラ3匹を飼ってみた」「藤岡弘、ファミリーが天然記念物の日本犬を赤ちゃんから育てる」などを放送。さらに「相葉が志村けんさんの愛犬・殿くんを尋ねる」コーナーもあるようだ。

「志村さんを失う」という、まさかのピンチをチャンスに変えることができるか。「何を変え、何を変えないのか」などの細部までチェックしていきたい。